第12話 ダンジョン極彩色パレス
「本当にあの極悪ダンジョン解放されたの? 知らなかった」
「解放されたのは一年前。リリーが冒険者を辞めた少し後くらいらしいぞ」
「本当に解放されたんだ、あの極悪ダンジョン……」
そりゃあ、極彩色パレス出身のレコードがここにいるのだから、解放されたのは分かる。
それでも、思わず聞き返してしまうくらいには、そのダンジョンが解放された事実に私は動揺していた。
「解放されたなんて信じられない……。あんなダンジョン攻略するなんて、よほどの趣味人がいたみたいね」
あれは攻略に滅茶苦茶時間がかかる、玄人向けのダンジョンだった。
攻略した人はよほどの趣味人か、相当な暇人に違いない。
「ちょっと! 私が生まれたダンジョンをそこまで悪く言われるとかショックなんですけどぅ。さっきからなんですかこの人」
私の正直な感想に、レコードはこちらを睨みながらログ君に文句を言い始めた。
レコードのクレームにログ君はちょっと言いづらそうな顔で私を見る。
「あー……。リリーはな、元冒険者なんだよ」
「あら、元冒険者の方でしたか!」
ログ君の説明にレコードは納得した表情でこちらに目を向ける。
「もしかして、極彩色パレスの挑戦者でしたか? うふふ、それでしたら、解放前はお世話になりました★」
「は? 喧嘩売ってんの??」
「お兄さんやっぱりこの人怖いんですよ!?」
レコードは怯えた声を上げると、ログ君の背後へ勢い良く逃げ込んだ。
「やだなー。レコード君。これは、元冒険者の癖だよ癖。ついダンジョン精霊に過剰反応しただけで、全然怖くないから。ねっ★」
「そんな事言って、目が全然笑ってないんですけどぅ!」
こんなに優しく話してるのに、何故かレコードは納得してくれないようだ。ログ君の背中から出てくる様子は無い。
私達のやり取りを見ていたログ君は小さくため息をつく。
「リリー。元冒険者として思うところがあるんだろうが、あんまり怖がらせるなよ」
「分かってるって。ただ、極彩色パレスは私的にトラウマがあるからつい、ね」
「ねえねえ、極彩色パレスってトラウマになるくらい過酷なの?」
「そりゃあもう!」
ルルの疑問に私は大きく頷いた。
――二年前。まだ、私が冒険者として現役だった頃。
荷物持ちが捕まらないから手伝わないか? と、パーティに誘われた。その時入ったダンジョンが極彩色パレスだ。
極彩色パレスに足を踏み入れたのはそれ一回切り。
あの時は依頼料の高さに釣られて入ってしまった。もう、二度と行きたいとは思わない。
「まず、入り口に入ってすぐに
「いきなり、初心者きつそうだね!」
「それから、通路以外も延々ループする回廊とか、落とし穴だらけな大部屋とか面倒くさいギミックがいっぱいあるし……」
「わあ。よりどりみどり~」
「その通りです! 極彩色パレスは落とし穴なんてスタンダードな物から、壁から槍、通路サイズの丸い岩が追いかけてくる等、定番の罠は大体網羅しておりました!」
何故かレコードは自慢気だけど、私は一言も褒めたつもりはないからな。
私がレコードの反応に微妙な気持ちになっていると、今度はログ君が疑問を口にした。
「確かに難しそうだが、ダンジョンってそういうものだろ。なんで初心者折りとか最悪とか言われてるんだ?」
「……実は、極彩色パレスってダンジョンの難易度評価はそこまで高くないんだ」
そして、その評価の低さが初心者の手の出しやすさにも繋がっているところが厄介なところなのだ。
「極彩色パレスの評価が高くない理由はね、あそこは死なないダンジョンだからなんだ」
ダンジョンの評価は主に冒険者ギルドの調査で決定している。彼らが評価する時に最も重視される部分、それは死傷率だ。
評価が高ければ高いほど死傷率の度合いが上がり、低ければ低いほど当然下がる。
ダンジョンの評価イコール命の危険度だ。
元々冒険者は危険な職業。とはいえ、冒険者だって命は惜くない訳じゃない。
だからこそ、ダンジョンの評価は彼らにとって大事な指標になる。
「あそこのダンジョンは、戦闘不能になるとダンジョンの入り口に
そのせいで、極彩色パレスの難易度評価はかなり下がっている。なぜなら、失敗しても五体満足で戻れるからだ。
とはいえ、
「ダンジョンに挑戦して失敗しても生きて戻ってこれるんだよね。でも、心折れちゃうの?」
「って、思うでしょ? ……ちょっと聞くけど、極彩色パレスで一番多い
私の質問に、ログ君とルルは少し考える素振りをしてから答えた。
「推理するまでもない。――モンスターに襲われた時。これだろ!」
「罠に引っかかってとか?」
「違う。一番多いのは、ダンジョンの攻略が詰んだから」
私の答えに、何かに気づいたログ君は顔をしかめた。
「それはつまり、脱出できないからわざと死ぬ目にあって、
「そう。まあ、自分からじゃなくても脱出できない内に疲弊してモンスターや罠をかわし切れずにってパターンも結構多いけどね」
極彩色パレスは入り口からランダム
準備も無しに入れば脱出はほぼ不可能だ。
冒険者の中には戦闘不能になれば帰れるなんて楽ちん。なんて言う頭のやばい人もいるけど、そんな人は極まれだ。普通の冒険者は、追い込まれて追い込まれて八方ふさがりだからしょうがなく。が、ほとんどらしい。
「私が聞いた中で一番やばいのは、初心者パーティが数か月さ迷って餓死からの
「が、餓死……」
ルルの表情がみるみる青ざめていく。
分かる。私も初めて聞いた時震え上がったもん。
しかも噂によるとこの初心者パーティ、かなり実力があったための悲劇だったらしい。
罠を回避し、モンスターを倒せるレベルだったからこそ致命傷ではなく飢えによる戦闘不能。こんなもの初心者が受けたらそりゃあ心も折れるというものだ。
私は何度か極彩色パレスに入った冒険者パーティについていったため
「だから、極彩色パレスに潜るような冒険者なら、脱出用の
「確かに、そんなことになったらトラウマにもなるな」
ログ君も極彩色パレスのやばさに納得してくれたみたいだ。私の説明にちょっと引いてるけど。
「でしょ。まあ、一番最悪なのはダンジョンで回収できる宝箱の三分の二以上が偽物ってところなんだけどね」
「そこが一番なの!?」
「死んで脱出よりか!?」
「当たり前でしょう! 三分の二が偽物なんだよ。おかげで極彩色パレスに入るなら鑑定士か鑑定
私は最も邪悪な部分だと思うんだけど、ログ君とルルの驚き方を見る限り違うらしい。これが、冒険者と一般人との感覚の違いか。
いやでも、宝箱見つけてやったーって帰って、換金屋に持っていったら偽物なんですよ。
――絶対許せないでしょ。人を騙すのは悪い事だと習わなかったのだろうか。
「離れて久しいですが、故郷の話を聞くと全てが懐かしく感じますねぇ……」
ログ君の背後で話を聞いていたレコードが懐かしそうに呟いた。
冒険者から見たらトラウマダンジョンもレコードからしたら長年住んでいた故郷だ。たとえ、意志が無い状態だったとしても思い出深いのかもしれない。
……ええ、でもあの極彩色パレスを懐かしむの、君。本当に?
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