第11話 事情聴取


「よし、精霊レコード。これから事情聴取をする。俺の質問に正直に答えるんだ、分かったか?」


「はい。お手柔らかにお願いします」


 ということで、ログ君による簡易的な事情聴取が始まった。


 ちなみに、私達はウェーブ君の部屋から応接間に戻ってきている。

 部屋の主であるウェーブ君はというと、お願いの対価を受け取るとそのまま昼寝に戻ってしまった。


 ウェーブ君はいつも通り、お願いを叶えたお返しに歌を要求してきた。リクエストは子守歌。

 このお返しについては、約束通りログ君が心を込めて歌ってくれた。

 元々声が大きくてよく通る声なのだけど、さらに心を込めただけあって中々の熱唱ぶりだった。目が覚めそう。

 まあ、子守歌を聞いたウェーブ君が満足そうに眠りについたのだから問題無いけど。

 こういうのは、対価を貰う精霊が有りというなら有りなんだから。


「この子が小箱の精霊さんか。あの中にこんな可愛い精霊がいたんだね」


 応接室に戻ると、私達はソファーで待っていたルルにこれまでの経緯を説明した。説明を聞き終えたルルは、興味深そうにレコードを眺めている。


「えへへ。可愛いなんて、それほどでもないですよぅ」


 褒められたレコードは満更でもないようで、にこにこと嬉しそうだ。捕まってる割に余裕だなこの精霊。


 なんてレコードの話も大事だけど、真っ先に確認しなければならないことが私にはある!


「あのー、ルル。さっき小箱を開ける依頼ギブアップ宣言したけどさ。こうして小箱が開いたことだし、もし良かったらさっきの宣言は撤回とかできないかな? なーて……」


 おずおずと聞いた私を見つめ、ルルは少しだけ小首を傾げる。


「うーん……そうだね。ちゃんと、小箱開けてもらったし。ただ、ログさんとアレストさんにも手伝ってもらったから、三人(二人と一精霊)に一枚ずつでどう?」


「ありがとうございます!」


 よぉしっ! 諦めてた商品券ゲット!!

 手に入る商品券は減ったけど、私一人では無理だったので山分けは妥当だ。

 何買おうかな……。前見た時に気になったコップまだ残ってたらそれにしようかな。


「ふっふーん。私が出てきたことによって貰えるんですから、感謝してくださいね」


 私が商品券の使い道をあれこれ考えていると、レコードが偉そうに話しかけてきた。

 どうやら、小箱の中でルルと私のやり取りをしっかり聞いていたみたいだ。


「ちょっと、自分の都合で隠れてたくせに、なんで君に感謝しなくちゃいけないの?」


「だって私が出なかったら、商品券貰えなかったのは事実じゃないですかぁ」


「御託はいいから、とっとと洗いざらい白状しなさいよ」


「はいはいはーい! 私レコードちゃんのアクセサリーが気になる。どれも、かなり高級そうだよね? なんか、見たことあるようなのも混じっているけど、特技スキルかなにか?」


 レコードを睨む私の隣で、ルルが楽しそうに質問を始めた。

 レコードの身につけているアクセサリーの類は確かにどれも高級そうに見える。ルルが見たことある物も入っているなら、この装飾達もレコードが記録した本物を元に作られているのかもしれない。


「……あー、ルルさん。すまないが、そういう質問は俺の後でいいかい?」


「あ! すみません。気になってた小箱の中身が分かったので、つい勢いで聞いちゃって……」


 ログ君の遠慮がちな声に、ルルはバツの悪そうな表情になると、そのまま黙って引き下がった。


「リリーも、分かったか?」


「分かったわよ」


 さすがの私だって、事情聴取の邪魔をするつもりは無い。

 私が頷くと、ログ君は改めてレコードに向き合った。


 レコードの入っていた小箱は応接間の机の上に置いてある。彼女はその隣で浮いている状態だ。

 私とルルはログ君の座っている反対側のソファーに座り、事情聴取の行方を見守っている。


「まず、お前はクルックスの契約精霊で、名前はレコード。間違いないな?」


「はい、私は精霊レコードです」


「メインの特技スキルは物質創造と記録操作。ここにある小箱のような物を作る能力と、相手にお前の持つ記録映像を見せる能力だ。合っているか?」


「はい、合っています」


 まずは、手持ちの情報が間違っていないかの確認だ。

 ログ君はメモ帳に書かれた情報を読み上げると、一つずつレコードに確認を取っていく。


「出身はダンジョン。最近ダンジョンが攻略されて、ダンジョンから島に移住してきた。合ってるか?」


「はい。その通りです」


「へぇ、元ダンジョンの精霊さんなんだ」


 ルルがもの珍しそうに呟く。

 反対に、元冒険者の私は懐かしさを感じていた。


 ――ダンジョン精霊。

 それを説明するには、先にダンジョンについての説明が必要だ。


 ダンジョンとは、私達が住むガル・アルカデ島の周りを囲むようにある群島の総称ことを言う。

 その数、観測されてるだけでも千と少し。

 ダンジョンは島によって様々の姿をしている。

 それは大きな古城だったり、島の地下にある巨大な迷宮だったりする。


 そして、ダンジョン精霊とはその名の通りダンジョンで生まれた精霊のことを指して言う。

 ガル・アルカデ島にいる精霊と違い、ダンジョン精霊はダンジョンの意志によって縛られている。と、言われている。


 ダンジョンそのものに心があるのか? と言われると難しいけれど、島を外敵から守るという意志があるのは間違いない。

 そして、その意志が生み出しているのがダンジョン精霊と呼ばれる精霊達だ。


 ダンジョンにある膨大な魔力マナを使って作られた彼らは、生みの親であるダンジョンを守る役割を与えられている。

 ただし、ダンジョンが攻略されると精霊達はその縛りから解放される。

 今まで機械的にダンジョンを守るだけだった精霊達に自分の意志が宿り、出会い頭に問答無用で襲わなくなり、意思疎通が可能になる。

 レコードもその解放された一体ということだ。


「解放されたダンジョンの名前は……“極彩色パレス”。間違いないな?」


「はい、間違いありません」


 ――――瞬間。

 

「極彩色パレスーっ!?!?!?」


 私は反射的に立ち上がって叫んでいた。


「リ、リリエ。いきなりどうしたの?」


 それまで、静かに聞いていた私が大声出したので、一斉に驚いた表情を向けられてしまった。

 しかし、私はそれどころでは無い。

 極彩色パレス。まさか、冒険者を辞めてからその名前を聞くことになろうとは!


「リリーがそこまで驚くって事は、極彩色パレスってのは有名なダンジョンなのか?」


「有名も有名! 冒険者なら知らない人はいないくらい超有名ダンジョン!」


「ふーむ、そんなに凄いダンジョンなのか」


「名前だけ聞くとカラフルそうなダンジョンだね。なんか七色に光ってそう」


 明らかに動揺している私に対し、ログ君とルルはピンときていない様子だ。

 

「わぁ、出身地が有名なのはなんか嬉しいですね」


「言っとくけど悪名だからね」


 照れくさそうにしているレコードに私は苦々しい表情で補足する。

 そう、有名は有名でも極彩色パレスのは圧倒的悪名だ。


「え、そうなんですか。何故私の出身地が悪名が?」


「君本気で言ってる? 極彩色パレスといえば冒険者の間では初心者折りって言われてるダンジョンなんだけど」


 ――ダンジョン“極彩色パレス”。

 冒険者の中で名の知れたダンジョンの一つであり、初心者冒険者がベテラン冒険者から聞く絶対に行ってはいけないと場所の一つだ。


 初心者折り。

 悪意の塊。

 冒険者に嫌がらせするためだけに存在するダンジョン。


 なんて、添えられる内容は大体ろくでもない。

 最悪な異名と共にその名を冒険者の間で轟かせていた。

 それが、ダンジョン極彩色パレスだ。

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