第4話 推理は楽しい
「何で、ダイイングメッセージなんて言葉がここで出てくるの!?」
――はい来た、予想の斜め上!
いや、私もログ君の推理は当たらないとは、言ったけどさ。
まさか、一言目から突っ込まなきゃいけないものが来るとは思わなかったよ!
「あの、そもそもダイイングメッセージって何ですか?」
「ダイイングメッセージっていうのは、事件の被害者が死の間際に犯人の手がかりを残したものを言うんだ」
首を傾げるルルにログ君が簡単に説明する。しかし、ログ君。君は説明していて自分の推理に疑問を持たなかったのかな?
――ダイイングメッセージ。
私がその言葉を知ったのは、ログ君に借りた推理小説だった。
その小説では、探偵が刺殺された被害者の残した血文字を見て、「これは被害者が最後の力を振り絞り、犯人を伝えようとしたダイイングメッセージです!」と、警察官に説明していた。
ちなみに、犯人が事件をかく乱する時にわざと残すパターンもあるらしい。借りた本の中ではまだお目に書かれていないけど。
まあ、つまりダイイングメッセージというものは大体死体とセットなものなのだ。
一体、ログ君は死体が無い、事件も起きてないこの状況で、どこからダイイングメッセージなんて思いついたのだろう。
推理については完全に素人な私だけど、普通この小箱を見て出てくる言葉ではないことは分かる。
「で、どうして死体も無いのに、この小箱の文がダイイングメッセージなのか説明してもらえるの?」
「ああ、分かった」
私の言葉に、ログ君は頷くと先ほど同じ真面目な表情になる。
「実は、この中にいる精霊が犯人の証拠を握っている。だから、被害者は小箱に封印して犯人がこの精霊に危害を加えないようにしたんだ! そして、小箱を発見した誰かが犯人を捕まえてくれると信じて、最期の力を振り絞り小箱にダイイングメッセージを残した。 ……これが俺の推理だ!」
堂々と推理と言い切ったログ君に、私はこめかみを抑えて押し黙る。
あ、あまりにもツッコミどころが多すぎる……!
ルルもさすがに戸惑いを隠せない様子で、私の方へと目を向けた。
「あの、死体とか、犯人とか……。私ただ、この小箱の中身が気になっただけなのに……。リリエ、ログさんの推理当たってる可能性ってあるのかな?」
「あってたまるか――っ!」
ルルの不安げな声に、私は思わず大声で否定してしまった。
さすがに、こんな推理を信じるか悩まないでほしい。
「えーと、ログ君。文字を小箱に刻むのって結構体力居ると思うんだけどな。そこのところどう考えてるの?」
気を取り直して、気になるところをログ君に質問してみる。
血文字とかならまだしも、死の間際に彫刻刀で一文字ずつ彫っていったとでもいうのだろうか?
「それは、ほらこの中にいる精霊と被害者が契約していたかもしれないだろう。精霊使いなら
契約する精霊や精霊使いのレベルによって、手に入れる能力は千差万別。
とはいえ――。
「そんなのいくらなんでも都合良すぎるでしょうが! 後、なんやかんやって何なの。なんやかんやって!」
「なんやかんやはこう……。どうにかこうにかというか。何か
「ふっわふわ! 肝心な部分の推理がふわっふわ!」
私が質問一発目から、新たなツッコミどころを増やして頭を抱えていると、隣のルルもログ君に疑問を口にしていた。
「ログさん。仮にダイイングメッセージだとして、なんで全く関係なさそうな財宝とか書いてるんでしょうか?」
「文面については、犯人にダイイングメッセージだと気づかれないためのはったりだな。そして、知らない他の人が興味を持って開けてくれるような文面にすることによって、誰かが開けてくれるのを期待したんだ! そして、被害者の思惑通りルルちゃんが興味を持って中身を調べようとしたって訳だ」
うんうん。と、自分の推理に自信たっぷりに頷くログ君。
満足気なところ悪いけど、今の推理に口を挟まないわけにはいかない。
「待って。この小箱はルルのお父さんが、没落貴族から流れてきた物を買い取っただけだし。しかも、元の持ち主が死んだなんて話出てないから。そうでしょう、ルル?」
「うん。私が聞いた限りでは、持ち主だった貴族の人は死んでないよ。確か、悪いことして捕まったとか……」
「え、そうなの!?」
元の持ち主が警察に捕まってたの初耳だった。
まさか、犯人側だったとは……。仕入れ先的に大丈夫なのかちょっと気になったが、警察に差し押さえられた後に残った物なのでそこは問題ないらしい。
「そうか……。じゃあ、俺の推理は使えないな」
元の持ち主が被害者である事前提で推理をしていたログ君は残念そうに自分の推理を取り下げた。
そもそも、無から死体があること前提に推理しだすのがおかしいんだけどね。勝手に殺すなって話だ。
「だから、言ったでしょう無理するなって。まあ、推理が外れることはいつもの事なんだし、あんまり落ち込まないでよ」
「ああ、大丈夫だリリー。ムラサキさんは言っていた。最初は突拍子もないものであっても思いついた事を上げていき、矛盾しているもの削っていけば、いずれ真実にたどり着けるって!」
そう言うとログ君はまた小箱を前にぶつぶつ次の推理を考え始めた。
こ、懲りない……。
ちょっとフォローしようと思ったけど、ログ君のポジティブっぷりを見る限り、そんなフォローはいらなかったみたいだ。
「よし、次は小箱が犯人が落とした重要証拠の線で考えるか……」
「ログ頑張レー♪」
そういいながら、自分の推理をメモに取り始めるログ君の周りをアレスト君が歌いながらくるくる回っている。
その姿を見ながら、ルルがログ君に聞こえない様に私に耳打ちをしてきた。
「……楽しそうだね。ログさん」
「まあ、下手の横好きだけどね」
ルルに小声で返しながら、ログ君の推理をしている姿を見る。
推理は間違いなく無茶苦茶なのだが、ログ君が推理している姿は子供みたいに楽しそうだ。
まあ、今日は謎の小箱の推理だから微笑ましく見れるけど、そりゃあ警察官時代問題児だったろうなと思わせる推理ショーだった。
いつも、付き合うムラサキさんの苦労が忍ばれる。
あー、ムラサキさんが早く帰ってこないかな。ログ君の推理にツッコミ入れる役は私には荷が重すぎるって。
「――あ! さーちゃん駄目だよ、戻ってきて!」
私がいまだ帰ってこないムラサキさんに思いを馳せていると、ルルが急に大きな声を出した。
ルルの声に、相手のさーちゃんの姿を探すとログ君が持ってきた紙袋の中に入り込んでいるところだった。
ルルに怒られてしゅん、とした雰囲気でさーちゃんは紙袋から出てくる。
それでも、袋の中が気になるようで名残惜しそうに紙袋の近くをふよふよ浮かんでいる。
「ごめんなさい、ログさん。さーちゃん普段はこんなことしないんですけど……」
「あー。もしかしてあれかな……」
ログ君は思い当たる事があるのか、推理を中断して、紙袋の中をがさがさあさり始める。
紙袋の中から引っ張り出されたのは、大き目の首飾りだった。
首飾りは黒みがかった赤色の宝石がたくさん連る、見るからに高級そうな物だった。デザインは古風な感じがするのでアンティークかもしれない。
取り出した首飾りを見て、さーちゃんが嬉しそうにログ君の手元に近づいていった。
どうやらさーちゃんは、光を反射してキラキラ煌めく首飾りが気になって紙袋あさってたようだ。精霊サーチは光が好きだからね。
「それ、どうしたの?」
「ああ、今追っている事件の重要な証拠だ。ムラサキさんに頼まれて先に持って帰ってきたんだ」
「そんな高価そうな物、紙袋に入れてきたの!?」
貴金属の扱いとしてはあまりにも雑すぎない!? と、思った私に興味深そうに首飾りを見ていたルルが笑顔で言う。
「大丈夫だよリリエ。これ本物じゃないから」
「え、偽物!? これが……?」
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