第14話 拝見しようか、異界の強者を。


 長いッ!


 低姿勢から突っ込んでくるラムアが引き抜いた刀身はラムア自身の身長近くあった。胸を少し張り、後ろに反ることによって長い刀身を引き抜き、まるで木の棒でも振り回すかのように軽々と振るう。


 速い、だからと言って一撃が弱いわけでもない。組織が遣わした暗殺者の一撃とは比べものにならないだろう。

 速く、重く、長い、これがラムアの得意とする戦闘なのだろう。

 ステッキから響く一撃の重さに辟易しながら距離を取ろうとするが、すぐに相手の間合いまで詰められる。


 私は足で砂を蹴りあげる。


「うっ、らぁ!!」


 しかしそんな事で怯むほど弱くはない。

 更に剣撃を重ねていく。幾ら速いとはいえ刀身の長い刀と短いステッキではコチラの方が細かい動きは速い。そのおかげでギリギリ抑えられている。

 隙が欲しい。

 だからもう一度砂を巻き上げる。

 しかし止まらない。巻き上げる。止まらない。巻き上げる。止まらない。巻き上げる。止まらない。巻き上げる。


「うぜぇ!」


「力んだね?」


 長い刀身がコチラの身体を捉えるが今度はステッキで受けること無く避ける。いつもより少し力んだ刀は一瞬だけ次の動作へ移るのが遅れる。

 私はマスケット銃の銃口を相手の頭に向ける。


 引き金を引く瞬間、ラムアは無理矢理腕を伸ばしてマスケット銃を叩き、銃口を逸らす。銃声と共に発射された半透明の弾丸はラムアを掠めて地面に着弾する。


 バランスを崩して地面に倒れ込むラムアに対して容赦なく撃ち込んでいくが地面を滑るように身体を動かし、銃弾を避けながら体制を立て直す。


「惜しかった」


「えげつねェなぁ、おい!

 うざってぇ戦い方しやがってよぉ!魔弾かよチクショー!」


「戦い方がどうであれ相手の頭に銃弾が撃ち込んだら勝ちだ。そのためならどんな悪どいやり方だってするさ。ま、ただの魔弾じゃ弾くだけで貫けないだろうけどね。装填するための手順は必要ないが、やはり実弾と比べると威力は落ちるものだね」


 暗殺者との戦いで実弾の数は残り八発。マスケット銃に宿った魔素を応用して作った魔弾は装填時間がかからないため便利だ。しかしマスケット銃に宿った魔素にも限りがあるため魔弾にも限界がある。


 全弾使うことはないだろうが、長期化すればそれも有り得る可能性だ。


 コチラとして中距離で戦いたいところだが、相手の刀は長い。今までのような距離では一歩で詰められ相手の間合いに入る。

 銃弾のコントロール外ギリギリの距離を見極める必要がある。相手の間合いからは離れ、コチラのコントロールが鈍らない距離。


「まったく、神経を使う戦いだな」



 ▼▼▼


 嫌な野郎だ。

 低姿勢から突っ込んで横払い、縦に一撃、力を抑えて連撃。右、縦、突き。

 どれも避けられステッキで受けられる。

 向こうからの攻撃はない。


 嫌な野郎だ。コチラの動きを見てやがる。じっくりと虫の動きでも観察してるみたいに。

 そしてわかる。

 このままじゃ俺は殺される。

 蝶が蜘蛛の巣に引っかかったようなもんだ。

 動けば動くほど観察され、蜘蛛の巣は絡みついてくる。観察し終えて、動けなくなった俺を最後に奴は殺すのだろう。

 それまでは待機、観察して、全てをさらけ出すまで奴は動かない。


 へっ、いいぜ。じっくり観察しやがれ、観察し終えて俺に近づく時こそ、奴の首を取るチャンスだ。


 俺は止まらぬ連撃を繰り返す。

 縦横左右、前後斜め、ありとあらゆる方向から斬り掛かる。踏み出した足を引っ込めフェイントを織り交ぜながら刀を翻し方向を変え、時には縦から突きへと転ずる。


 見て、観察して、食らいついて来い!


「“我が魔力は腕を介して刀に浸透する。

 属性は六大元素、炎。無数の腕となりて相対者を焦がす。

 触れたものは全て灰塵と成り果てる。

 我が刀の名は━━━━━━


 身体の中で何かが蠢き、腕を伝って刀に流れ刀身に浸透する。銀の刃は紅に染まり、炎を纏って姿を現す。


 ━━━━━紅無双、紅正べにまさ


「紅色の刀身。魔術にそんな使い方があるとは…」


「行くぜ」


 俺は一歩で相手を間合いに入れる。

 刀を振るい、ステッキで受けられる。

 刀身がステッキに触れた瞬間魔力が溢れる。溢れ出た魔力は炎となり、相手に向かう。ジェームズはすぐに後方へと飛び退く。


「刀身から溢れた炎の操るのか。これでは残心を狙えんな」


「チッ、もう少しで丸焼きにできたのによぉ」


 だがぁ、これでいい。もう少し、あともう少しで届く。

 あと少しの我慢で丸焼きにできる。



 ▼▼▼


 属性を付与させた刀。

 冗談じゃない。間合いが伸びた。あの刀身にまとわりつく炎はコチラの間合いに届く。


 コチラも湿気しけた弾を使っていては勝てない。


 私は小さい鉱石をマスケット銃の銃口に放り込む。

 魔素は十分、後は属性を与えてやればいい。


 長い刀身がコチラに伸びる。

 突きが厄介だ。刀身の長さが測りにくい。私は多少強引にでも強く相手の刀を弾く。大きく弾かないと炎で焼かれる。引く時は素早く後退する。そうでなければ炎が伸びてくる。


 私は斬撃と炎を掻い潜りながら距離を取る。相手は間合いを取るために接近する。そこにマスケット銃を構えて引き金を引く。普通の魔弾じゃ避けられて当たらないだろう。だが、この弾は当たらなくていい。


「エスプロジオーネッ!!!」


 弾丸は銃口から出たと同時に爆発し、ラムアの身体を吹き飛ばす。

 私はすぐに次の鉱石を銃口にいれる。


「雷鳴を轟かせ、全てを貫け!トォオーネッ!」


 巨大な部屋全体に爆音が響く。まるで雷が落ちた時のような耳を劈く雷鳴。地面を、壁を、空気を震わせながら発砲された銃弾は真っ直ぐ吹き飛ばされたラムアに向かって進む。


「ここだァ!!焦がし尽くせ!!!紅正ァ!!!!!」


 舞い上がった土煙から特大質量の炎が放出される。全てを焼き尽くさんがために放出された炎の塊は部屋全体を多い尽くそうとする。


 炎が押し寄せる業火の中、首筋に薄ら寒い冷気を感じる。


氷城シャトー デ グラス


 炎が全てを覆い尽くす寸前、階段へと続く扉から巨大な氷が発生し、地面を多い尽くしながら部屋全体を氷の結晶が包み込む。


 その中心で二人は氷が発生し始めたであろう扉の方へと視線を向ける。


「何やってるですか?マスター」


 扉の前には銀色の髪をした美しい女性が呆れ顔で立っていた。

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