第12話 アラフィフだからといって学びを止めはしないさ


 ▼▼▼


 この王都には図書館がある。

 娯楽の少ない異世界において、華々しい英雄譚や冒険譚は心を動かすことのできる民衆の娯楽なのだろう。


 私は図書館の中でも魔法について書かれた書物を読む。魔法を使える者は本当に少ないのだろう。

 図書館の書物には魔法の事が細かく書かれたものがある。本来ならば、民衆が覚えたら脅威となる知識は貴族達が隠し、独占する筈だが。

 いや、それほど民衆に魔法というものが浸透しているのだろう。魔法で風呂や街灯をも実現しているのだ。浸透しても尚、使いこなすのは難しい。そういう代物なのかもしれない。


 いくつもの書物を読んだが、どれも曖昧でハッキリしない。

 私としては原理をきちんと理解した上で行使したいのだが、この世界の住民にとって魔法とは神の御業を模したものという理解がされており、魔法の深淵を覗くものは魔に取り付かれ、闇に沈むと言われている。

 まぁつまり神の御業なんて人間に理解できるわけがないと、そういうことなのだ。

 現在わかっているのは魔法やそれに連なる物質の扱い方のみでそもそも魔法とはどういうものなのかというのは全く解明されていない。


 魔法とは科学の正反対にあるもの。

 解することは決してできない。

 ただそこにあるもの。


「なんとも曖昧な…」


 しかし、決して理解できないものだからこそ、使ってみたいという欲も生まれる。


「何事にも挑戦が必要だろうとも!」


 私は図書館を出て、中心街から少し外れた森の中に向かう。


 ▼▼▼


「ぜんっぜんわからん!」


 魔法習得は、先ず空気中の魔素と呼ばれる物質を感じ取る事から始める。

 何でもこの世の全ての物質には魔素という謎物質が備わっており、人間は空気中の魔素を身体に取り込むことによって魔力と呼ばれる謎物質に変換し、魔法陣や詠唱を介して魔法魔術を繰り出すのだそうだ。

 故に空気中の魔素を感じ、取り込むことができなくては魔法の魔の字も扱うことができない。


 その者が魔法を扱える者かはここでわかるそうだ。


「私には才能がないという事だろうか」


 そもそも私はこの世界の住人ではない。

 であれば魔法を取り込む事などできないのではないだろうか?


「ふむ、魔法とは人間には理解できない神の御業」


 この世の全ての物質には魔素が宿っている。

 それらは魔法陣によって炎になったり水になったりする。

 なんだこれ。意味不明である。


「恐らく解明する事はできないだろう。ただ私達はとして理解する他ない。まぁ良い、理解はできなくとも結果さえわかれば問題は無い。過程から精査できないのならば結果だけを見て精査する」


 決して解明することのできない魔法を理解しようと試みた者達。

 魔力と魔素という言葉が別れているからには、その違いを見つけた者達がいたはずなのだ。


 要は魔法の作られ方は理解できなくとも使い方なら理解することができると、そういう事だ。


「私自身が魔素を感じ取れなくとも、やりようはいくらでもある」


 私はマスケット銃を取り出す。


 ▼▼▼


「ハァハァハァハァ…」


「気持ちの良い朝ですね!」


 ジークは今日も決められたルートを走っていた。

 しかし今日はいつものように一人ではなく、パルテアも走っている。


「おまえ、…ハァ、体力、あるんだな」


「えぇ、元々はクリスタルクォーツ騎士団の入隊を目指していましたから…」


「そう、か。良いのか?夢、だったんだろ?」


 パルテアの顔を見ればわかる。目をキラキラ輝かせながら笑うパルテアにとって騎士団という言葉は夢だったのだろう。


「はははっ、はい、夢でした。孤児だった僕を牧師さんが拾ってくれて。剣術や魔法も教えてくれて。騎士団の話を聞いた時は、絶対騎士団に入って僕が教会を守るんだって、そう思いました。それがあんな事になっちゃって、僕は奴隷になった。でも良いんです。ジェームズさんに恩もあるし、例え騎士団にはなれなくとも、騎士を目指す者としての心はありますから!」


 ジークはパルテアの話を聞いて驚く。

 詳しい事はわからないがパルテアの過去も壮絶なものだったのだろう。そんな過去があるにもかかわらずパルテアはいつものようにニコニコと笑みを浮かべている。

 例え辛い過去があったとしても、奴隷として家畜のようにボロボロになりながら鞭を打たれたとしても、折れないのだろう。パルテアの心は。騎士を目指す者としての心は。

 それがパルテア・ナイトの強さなのだろう。


「すげぇな、おまえ」


「さ!もう少しスピード上げますよー!」


「え?あっちょっと!待てやー!!」


 パルテアは人間離れした体力と街中を走り続ける。


「ハァハァハァハァ…、し、死ぬかと思った!」


「すみません、はしゃぎ過ぎました」


 疲れたなら止まればいいものを、ジークは律儀にパルテアについていき、結果草むらに倒れて死にそうになっている。


「ハァハァハァハァ…。やるか、剣術…」


「君は…頑張っていますね。理由は、なんとなくわかりますが…。私も同じです。恐らくテオルドも。彼も何かしなければと思ったのでしょう。だから手を挙げてギルド員になる事を志願した」


「アイツは、入団テストは受けないんだったな」


「はい、一般入団。ルーキーから入り地道に階級を上げていくそうです。私達の誰もが悲劇を持っていて、不幸に落とされた。そして私達はジェームズさんに拾われた。ならもう二度と不幸に落ちないために強くなろう。幸せに生きようと、みんな思っているはずです」


「リエルは今日も爆睡だがな」


「すみません訂正します。リエル以外は思っているはずです」


「アイツはマイペースだからな。さ、お前の剣術、教えてくれよ」


「はい、ただ僕が教えるのは基本動作だけです。後は自分で動きやすいように調整していってください。変な癖が付きそうになったら教えるので」


「了解した」


 ジークとパルテアは木刀を持って木の音を鳴らしながら剣術修行を開始する。




 ▼▼▼


 この世の全ての物質に魔素は宿る。


 魔素と魔力の違いは魔素の純度の違い。書物を読めば先人の研究結果が残っていた。

 魔素は人体にとって有害だ。人間は魔素を空気中の酸素など混ぜて取り込むことによって魔素の純度を人体に影響がでないところまで落として取り込んでいる。研究者達はそう推測した。

 つまり魔素とは不純物を伴った魔素である。


 この推測が正しいのであれば魔素も魔力と同じように魔法陣や詠唱を介して魔法魔術を発現する事ができるのではないか。

 周囲の魔素を操るのは難しい、しかしマスケット銃に内包した魔素であれば直接操る事なく詠唱を使って魔素を集め形成できる。それを魔法陣によって属性を与える事で魔弾として発現させる。

 供物を捧げ、魔法陣と詠唱を用いて発現させる力。魔導。


 森の中に銃声が響き渡る。

 銃弾と思しき赤い光は大木を貫くことなく大木の樹皮にぶつかった瞬間爆ぜる。


「扱いは難しいが、なかなか面白い」


 銃口の前に展開された魔法陣を見てジェームズは邪悪に笑う。

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