第11話 魔法?御伽噺の世界だろう? いや、マジで?


 ▼▼▼


「ギルド?あぁ、そう言えば聖国にもそんなもんがあったな」


「あぁ、所謂何でも屋みたいなものでね?軒下のネズミ退治からドラゴンの狩猟までどんな仕事も引き受ける組織みたいだね。各地から依頼を集めてギルド員に依頼を選ばせて、向かわせる。私達が金銭を稼ぐとしたらこれだろう」


 暗殺者の襲撃から二日後、私は街で集めた情報を整理しながら今後の金銭面について話す。


「ギルドで稼ぐのはいいとしてだ。ギルド員には階級があって階級事に受けられる依頼も変わる。低級の場合、受けられる依頼の報酬は低い。それだけで生きていくのはキツいと思うが」


 階級、それはギルドが作ったギルド員の実力を表すものだ。

 上から、幻獣級、バハムート級、ベヒモス級、ウルフ級、リザード級、ゴブリン級、ルーキー。

 ルーキーはまだ階級が貰えていない新参者に付けられるものだ。

 本来であれば、ルーキーから始まり、屋根の修理だったりのネズミ退治を行いながらゴブリン級を目指す。


「なぁに、何事にも例外があるものだよ。ギルドへの入団は月に一回開かれる入団テストによって決まるそうだ。そこで実力を示せば低階級をすっ飛ばして高い階級に着くことができる」


「えぇと、高い階級になれば、依頼の報酬もたくさんになりますね!そしたらまた湯浴みできますね!ジェームズさんならドラゴンなんて余裕ですよ!」


「え?あ、うん。あ、当たり前じゃないか!ドラゴン?そんなの私の三十九番目の必殺技でちょちょいのちょいだよ!!うん!!」


 え?この世界ドラゴンなんて出てくるの?何かの比喩じゃなかったの?マジ?無理だからね?私ドラゴンなんて無理だからね?!


「そうだな。ジェームズならドラゴンくらい倒せるだろ」


 え?アレクシアに続いてジークも!!

 君達私を過大評価し過ぎてないか!?!いや、最近ちょっと敵と戦うことが多かったから年甲斐もなくはっちゃけたけどドラゴンは流石の私も無理だよ!?


 私人間特攻だから!ドラゴンとか専門外だから!


「ジェームズ、どうかしたか?」


「うん、大丈夫だよ。ドラゴン?余裕さ、うん」


 私が若干自信を失いかけているとパルテアが立ち上がる。


「ジェームズさん、俺も一緒にギルド員になります。剣術なら多少は習いました。魔法についても少しだけですが使えます」


「お前、魔法つかえるのか!?」


「はい、僕は元々王都から少し離れた、クリスタルクォーツと呼ばれる街で暮らしていて、そこの教会で習っていたのです。そこの牧師さんは王都の魔法学園を卒業していたみたいで、魔法についても少しだけですが教えて貰いました」


「マジか!後で教えて貰ってもいいか?」


「はい、ただ魔法については人によって向き不向きがあるらしく、使えない人は全く使えないみたいですけどね。

 ですから、あまり期待しないでください」


「良かったじゃないか。ジーク」


「あぁ!これでまた強くなれる!」


「うんうん、魔法。魔法ねぇ」


 ……え?

 魔法?魔法って何?マジック?

 掌からコイン消すやつ?それともトランプで人の選んだカードを当てるやつ?

 いや、でも明らかに戦闘に使う感じで話してるよね?


「パ、パルテア君。君はどれくらい魔法を使えるんだい?」


「僕は魔法は不向きなので…。えぇっと」


 パルテアは目を瞑って集中しながら掌を見せる。

 すると掌に小さな魔法陣が展開され、その上に炎の塊が生まれる


「僕が使えるのはこの程度です。

 蝋燭くらいの大きさが限界ですね」


「そ、そうか。うむ、まぁ向き不向きがあるからな。仕方ない、仕方ないさ」


 ガチモンだコレーーーッ!!!


 本物だよコレ!種も仕掛けも無いやつだよ!本当に無いやつだよ!

 二次的な世界にしかないやつだよ!


 箒で空飛ぶヤツだよ!

 額に傷があって、ヴォルデなんちゃらと戦う少年が使ってるヤツだよ!

 カボチャの馬車だよ!ビビデバビなんちゃらのヤツだよ!


 何でみんな驚いてないの?

 私だけ?これ普通?普通なの?!


「なぁ、ジェームズも魔法使えるんだろ?!」


 使えるわけねぇだろクソガキ!


 不味い!不味いよこれは!

 ジークに覚悟がどうたら言ってたけど、私の方が覚悟無くしちゃいそうな勢いで大爆発だよー!

 世界最強の暗殺者としての威厳が!!今崩されようとしている!!


「も、もちろんだとも。機会があればお見せしよう」


 内心穏やかではないが、これで色々とこの世界のことについて腑に落ちた。

 ドラゴンに魔法、私の世界に比べて未発達の世界であるのに、風呂があり、街灯があるのは科学に取って代わる魔法の力があったからなのだろう。


 しかし魔法をそれほど見ないのは、パルテアが言った通り、魔法には向き不向きがあるため使える者が少ないからなのだろう。

 となると、一昨日襲撃してきた暗殺者の使っていた見えない斬撃。あれは魔法の類だったのだろう。

 使える者の少ない魔法を戦闘の中に取り入れられる程の実力者を持つ組織。面倒なことだな。


「なぁなぁ、そのギルド?ってのはわかんねぇけど俺も入るよ。まぁ俺はパルテアと違って鍛えてねぇから狩猟はできないだろうけど小遣い稼ぎくらいはできるだろう?」


 テオルド君が手を挙げて話す。

 本当ならばテオルド君にも戦闘に参加してもらいたいが、戦闘において急成長というものはない。地道に鍛えていくしかあるまい。


 ところで君、なんで身体中ボロボロなのかね?


 身体中に包帯が巻かれ、鼻にテッシュをこれでもかと詰め込まれたテオルドに首を傾げながらも触れないでおく。

 なんか薮蛇臭いしね。


「あぁ、助かるよ。先ずは金銭を稼ぎ、私達の生活を安定させることを目標としよう、皆頑張ってくれ」


 ギルド員になれば依頼で遠出する事もできるため、奴隷商人に関する情報も集めやすい。その事について昨日ジークとも少し話し合ったため、理解はしているだろう。


「ジーク、ギルドの入団テストはまだ少し先だが、これは好機というものだ。今のうちに少しでも力を付けておくべきだろう」


「あぁ!」


 気合い十分の返事だ。

 さて、私は魔法の勉強だな。


 ふふふっ、異世界め!魔法だなんだで私の世界最強の暗殺者としての称号が崩れると思ったか!!


 私は世界最高のアラフィフ紳士だ!

 それは例え異世界であって揺るがない事実!


 やってやろうじゃないか!

 世界最強の魔法暗殺者に、私はなる!!

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