第9話 君達それ反則

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 私が宿屋を出る頃には星々が現れ、日は落ちていた。そんな中、西洋の街並みと日本旅館は月の光を受けて輝いている。

 やはりミスマッチ感があるな。

 まぁ異世界に来ても生まれ育った文化に触れられるのは、とても素晴らしい事だ。


 私は宿屋から背を向けて歩き出す。

 人通りの少ない街道を歩いていると赤色に輝く月がより一層輝いて見えた。


「さて、ここで良いかな?」


 そこは港のような場所だ。海には船が数隻浮かべられ、大きなコンテナが並んで立っている。仕事は終わっているため人の気配は一切しない。ただ、数本並んだ街灯だけが弱々しく光っているだけだ。


「さぁ、お膳立てはしておいた。

 これで、やりやすいだろう?」


 私は隠れているであろう者達に声をかける。

 これで誰もいなかったら痴呆老人みたいだね。


「やはり、気がついていたか。門を通った後、コチラを見たな?気の所為だと思ったが、半信半疑だった」


「私も暗殺者だ。隠れていそうな場所はすぐにわかるよ。しかし良いのかな?君達が狙っているのは私の命ではなく、商品である彼らだろう?彼らを狙った方が良いのじゃないか?」


「構わん。上から貴様を殺せとの命を受けた。ならば貴様を殺した後、ゆっくりと奪い返すさ。我々でな」


 よく見ると屋根の上や物陰など至るところに潜んでいるようだ。二十人以上はいるだろうか。

 刺客の人数や装備の質などを見るに、かなり巨大な組織なのだろう。面倒なところに手を出してしまったかな?


「まぁ良い。やはり私はコッチの方が似合っている」


 右手でステッキを、左手でマスケット銃を持ち、邪悪な笑みを浮かべる。


「さぁ、同業者として一つアドバイスをしよう」


 刺客達が武器を構え、私も鞘を外してステッキを構える。


「ターゲットとベラベラ喋るな。殺したまえよ、有無も言わさず」



 ▼▼▼


 数人の刺客がジェームズに迫る。ステッキを逆手に持ち、迫り来る短刀をいなしつつマスケット銃で通り過ぎた刺客の後頭部を爆散させ、音に怯んだ前方の敵に迫る。


「ビビるなよ。ただの音だろう」


 心臓に突き刺し、刺客が持っていた短刀を奪い取り、背後に回った刺客に短刀を投げて殺す。

 死体に突き刺さったステッキを引き抜き、辺りを見渡すが誰もいない。


「正面から攻めるのはやめたようだね」


 ジェームズは何処から攻めてくるのかと辺りを見渡していると、周囲に煙が立ち込めてくる。


「煙、煙幕か!」


 ジェームズはすぐにその場を離れようとするが、煙の中から短刀を伸ばされ押し戻される。


「遠距離から攻撃してくるかと思えば近接か。どうやら、煙の中にいても彼らは私の事が見えているようだ」


 ジェームズは何故刺客達がコチラを視認できているのか不思議に思う。煙の中でも相手が見えるように特訓したのか。

 しかし、刺客達のこの能力は明らかに人理を超えている。


 人理を超えた者との戦闘。


「面白い」


 煙の中から短刀が伸びる。

 どのような攻撃であるのか。ジェームズはもう考えなかった。敢えて切られる。急所は避け、できるだけ軽症で済む場所で刺客の攻撃を受ける。


 これはジェームズが長年の経験からなる戦法である。幼少の頃、親に捨てられ、闇の世界で生きなければならなくなったジェームズは、殺して奪う事しかできなかった。何度も強敵に殺されそうになり、その度に何度も相手の攻撃を避け、逃げてきた。

 そして考える。

 この未知の敵に対して、自分はどのように立ち向かうべきなのか。

 ただひたすら相手の攻撃を避け、時には受け、死に物狂いで相手の攻撃を観察して理解する。


 しかし…。


「わからん」


 何故コチラが見えているのか。

 音でもない、熱でもない、明らかに視覚によってコチラの動きを把握している。


「これは…ッ!」


 煙の中、空気を裂いて現れる謎の攻撃。ステッキで受けると斬撃を受けたかのような手応えを感じる。

 目に見えない何か。


「聞き慣れた音だ。周囲のゴミや小石を巻き込んでいる。まるで風、いや、本当に風なのか?」


 この世界には人理を超えた謎の力がある。


「あぁ!もう!君達!!それは反則というやつだ!!卑怯だよ卑怯!!暗殺者なら堂々としな…うひゃあ!!!あ、あっぶないじゃないかッ!!」


 今度は二方向から見えない斬撃が飛ぶ。


 弾丸の数は少ない。中でも『最後の一発』は使いたくない。

 求められる動きは弾丸を節約しつつ、相手の攻撃から情報を得つつ、身体に受ける傷は最低限にしつつ、そのために手加減する。


「君達、もう少し老人を労りなさい」


 ジェームズはこれから行う面倒な事柄に辟易しながらもステッキとマスケット銃を構える。


「長い時間の始まりだ。私、老人だから体力無いんだよ。君達若者とは違うの!

 だから、本当に面倒だ」


 ジェームズは煙の中から突然現れる短刀と斬撃を躱しながら、その場を駆けて逃げる。その間に二回ほど切られるが軽症だ。その事に満足しながら煙幕の中から飛び出す。


「さて、無理して煙の中から飛び出したんだ。

 ここからは私、ちょっと本気でいかせてもらうよ。やる事は地味だが、継続的な集中力が必要でね」


 ジェームズは再度ステッキとマスケット銃を構える。


「さぁ、いこうか」

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