No.2の俺は失敗作でした。
雨中紫陽花
失敗作No.2の叫び
目の前が突然真っ白になった。
あとからすさまじい轟音が耳を貫き、熱風が肌を抉るような勢いで広がった。
体中に広がる痛み、ようやく周囲が確認できるはずが今度は視界が赤い。頭部の皮膚から出血し、流血が眼の中に入ったようだ。
辛うじて確認できる範囲だと、近くに数名の、同じ部隊のクローンが倒れている。頭が無い者もいれば、四肢の一部がない者もいる。皆、動かない。
自身の出血量からして、もう助からないだろうと思われる。腹部からの出血も酷い。腕は動かず、肘から先がない。これでは、銃も握れない。国の為に、尽くせない。
だが、自分が死ぬことによって、新たな
瞼を閉じ、国の繁栄を祈る。
オリジナル様が安心して過ごせる国になりますように。
目から何かが溢れ頬を伝った感覚を最期に、自分の意識はぷつりと途絶えた。
〈オリジナルNo.5145 クローン個体番号No.2成長設定 13歳〉
〈オリジナルNo.5145 クローン個体番号No.2製作 完了〉
〈オリジナルNo.5145 クローン個体番号No.2教育 開始〉
瞼を開けると、そこは白い空間だった。裸体で、カプセル状のものの外で、自分は天井をぼんやりと見つめていた。
そのあと、壁に扉が現れて白衣を着た男の人が中に入ってきた。自分の、俺の手を取って何も言わずに引っ張ってどこかに連れてったんだ。歩いてる間は、色んな事が初めて見るものばかりで、首を右に左にと交互に向けて周囲の様子を見ていた。両側の壁はガラス張りで、中では俺の部屋と同じような白い空間で液体で満たされたカプセル状のものがあった。管が沢山繋がっていて、カプセルの中には様々な年齢のヒトが入ってた。
俺は男の人に広い部屋へと連れ込まれた。そこで、個体番号の書かれた上下同じ色のシャツとズボンを着せられた。頭には変な輪っかの機械を付けられて、それが終わったら男の人は部屋を去ってしまった。
何をすればいいかもわからない俺。広い部屋は十数人の歳が近そうな男女が、俺と同じような服を着て立っていた。そいつらは全員何も考えてないような目で、人形みたいだった。
自己紹介、と行きたいところだったがあいにく俺には名乗る名前がない。いや、他の奴らも同じだったろうけど。
「よ、よぉ」
何となく漏れた言葉を奴らに送ったら、光なんて灯さない目を向けられた。あれは怖かった。ヒトのはずなのに、ヒトじゃないような目をしてんだから。
ピコン、って頭に付けてる機械が鳴ったと思ったら、急に頭が痛くなった。圧迫されてる感覚の、そんな痛みだった。
しばらくして、ようやく痛みは治まった。けど、それと同時に広い部屋の壁にぽっかりと穴が出来て、そこから数人の白衣を着た人たちが入ってきて言ったんだ。
「君たちは国に貢献する為に生まれた存在だ。だが、君たちは何も考えなくていい。全てはこちらが指示をする。こちらの言う通りに行動すれば、君たちは国にとって偉大な存在となるだろう。さぁ、国の為に」
白衣の人の一人が大きく両手を広げると、ぞろぞろと白衣の人の元に皆行ってしまった。俺は、その時のあいつの言葉の意味が理解できなかったんだろう。俺だけ行動が違ったから、白衣の人が俺の元にやってきて「どうしたんだい?」と笑顔で問うてきた。しばらく俺の顔を覗き込むように見て、それから顔をしかめた。
「君には不要な物があるね。でも大丈夫。そのうち、それの意味なんてなくなるから」
不要な物。俺にはその不要な物があった。その時の俺にはその不要な物と言うものが何を示しているのか分からなかったけど、今の俺なら理解できる。
白衣の人たちに、俺は異端者として見られながら、必要最低限の知識と戦争で人を殺す為の技術を学んだ。皆は淡々とこなしていたけど、俺は人を殺すための技術を学ぶのが嫌で、その度に頭に付けられた機械が脳を圧迫し、それでも言うことの聞かない俺は檻にぶち込まれて、機械の備え付けられた椅子に座らされた状態で頭にいかにもやばそうな装置を付けられた。脳に電波を流して、強制的にその不要な物を除去しようとしてきたんだ。
本当に、何も思わなくなった。敵国の兵をこの手で殺めても、泣き言一つ言わなかった。
自身の個室で、何も考えずにベッドの上で横になっていた時、オリジナルは現れた。白衣じゃない、模様のある黒色の服を着た、俺と同じ顔の人物。本物の俺。
オリジナルは俺に世界についてや、生と死について、俺がクローンであることを教えてくれた。そして、戦争にクローンが動員されていること。白衣の人たちが教えてくれなかったことを、オリジナルは包み隠さず話してくれた。
オリジナルと言葉を交わす度、徐々に不要な物[感情]が再び芽生えた。
オリジナルは俺よりも歳は上だったけど、考えや性格はやっぱり俺と同じだった。
政府の奴の息子で、今は密かにクローンを解放するための計画を進めているらしい。もう10年以上は経ってしまっている戦争を終わらすために、クローン製作をやめ、今いるクローンには人権を与え、戦争を止める手伝いをしてもらうそうだ。もちろん、武力は使わず、犠牲のない解決法を探しているらしい。
感情を取り戻した俺は、オリジナルの考えに賛成した。いずれNo.1のように戦争に駆り出される。そして、自身が滅ぶまで殺戮を続けるんだ。そんなの、命の無駄使いじゃないか。俺は生きたい。クローンだけど、それでも生きたいんだ。
オリジナルは俺に計画の一部に担わせてくれた。クローンに同じ[感情]を持たせる、それが俺のやるべきこと。他の皆が俺と同じ[感情]を持たせることで、生への執着、死への恐怖を知れる。そうすれば、戦争にはいきたくなくなる。皆が戦争に反対し暴動を起こせば、政府側は突然の暴動に対処しなくてはいけない。政府が俺たちに向いた隙に、オリジナルが内政の権限を得れば、戦争を止めるまではいかずとも緩和できるかもしれない。少しずつ、少しずつでも戦争を終わらせるんだ。
[感情]を得たことによって作動した頭に付けられた機械は、オリジナルが手伝ってくれるお礼の前払いとして、無効化してくれた。さらに、この機械の無効化する方法を教えてくれた。これで、他の皆に感情が芽生えても、脳は圧迫されない。
オリジナルは部屋を去る前に、俺に「お前は俺と同じ、失敗作だな」と笑って部屋を出た。正しいなんて概念が、どう存在するかもわからないこの国で、俺とオリジナルは同じ失敗作。戦争に拍車をかける政府側の親と戦争を終わらせるために行動する息子。感情を持たないクローンと[感情]を持ったクローンの俺。異端者と扱われる俺らは、国からしての失敗作。
でも、失敗作が何だって言うんだ。失敗作だからこそ、持てる感情がある。失敗作だからこそ考えられる未来がある。
No.1、俺はお前の思うようなクローンじゃないけど、きっとこの戦争を終わらせて見せるから。これは、形は違うけど国の為に。オリジナルの為に。そして、自分と、No.1や亡くなってしまった他のクローンたちの為に。
白衣の人には感情が無いように振る舞い、監視カメラがないところで最初に会った奴らに話しかけ、[感情]を持たせるため行動を起こした。機械を無効化し、徐々に[感情]が芽生え始めた奴らは、目に光を灯した。それから、この施設にいる全員にも感情を持ってもらうため、[感情]を持った奴らに機械の無効化の仕方を教え、協力しあった。
だが、俺たちの活動に気づいた白衣の奴らは、俺を隔離して再び[感情]を除去しようとしてきた。あの時のような死にに行く為に生きるなんて、そんなのごめんだ。
[感情]を得た奴らが俺を白衣の人から遠ざけ、庇ってくれた。「共に戦争を終わらそう」と、そう言ってくれた。その言葉が嬉しくて、心強くて、俺は何が何でも戦争を終わらすために、白衣の人がいない隙をついて、まだ[感情]を持ってない奴らに[感情]持たせるため再び行動を開始した。
ある時、施設が俺への警戒度を高め、[感情]を持った奴ら、仲間が俺を庇いきれなくなった時だった。
「もういい。……俺の意思、あとはお前らに預けるから」
これ以上、仲間が危険に冒されるのは嫌だ。そう思った俺は、死を覚悟してクローンたちが集まる広い部屋に向かい、一段高い床に上り声を張り上げて訴えた。
「俺たちはオリジナルのクローン。けれど、オリジナルと、人と同じ命を持っている。そんな、人と同じ命を持っているのにも関わらず、何故俺たちは戦争に行かなければならないんだ。国の為って言って、あいつ
はち切れるような[感情]をぶつける様に、ひたすら言葉を紡ぐ。
「俺たちの前に戦争に行ったクローンたちは、こんな疑問を抱けずに死んでいってしまった。抱くことが許されなかった。戦争で兵を殺せば国の為になるものか。犠牲を出して、国が救われるものか!!考えてみてくれ、俺たちは―――」
パンッ、そんな破裂したような音が聴こえた。そして、胸から広がる痛みに頭の中が埋め尽くされた。
「くだらない。君たちは国の為に生まれてきたと言ったでしょう。クローン《道具》が人の真似なんて、[感情]を持つ必要なんてない。ただ、こちらの指示に従っていればいいのです」
淡々と言葉を並べる白衣の奴。片手には拳銃が握られている。
胸から溢れる血を押さえ、俺の、最期にもなるだろう叫びを上げた。
「国の為に、俺ら《クローン》は生きてんじゃねぇんだよッ!!」
No.1、オリジナル、ごめん。
まかせたぞ、皆。
No.2の俺は失敗作でした。 雨中紫陽花 @nazonomoti1510
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