セカンドオピニオン
TARO
セカンドオピニオン
中学の同級生の女の前で自らナイフを胸に突き立てて死んだ男がいた。はじめのうち、メディアは男の情熱がゆがんだ形で実行されたのだとゴシップ調で報じられた。しかし、さらに捜査が進むと、警察は、その男が、世間を騒がせていた、連続通り魔の犯人であると発表した。家宅捜査の結果、周到に練られた計画や、ターゲットにされた被害者の写真や資料などが大量に発見されたのだった。
報道は修正を強いられた。当初のやや甘い恋愛がらみのストーリーは打ち消され、凶悪な犯人像がことさら強調された。なぜ、同級生の前で犯人が自殺を図ったのか? という謎はほとんど無視された。事件はある程度盛り上がりを見せてから、結局、被疑者死亡のまま書類送検されることとなると、事態は沈静化した。
男は自分の生き方について自信を持っていた。それは、一番目を棄てる、というポリシーである。これにより安定して、目的を果たすことができるのである。例えば彼女を作る際も、一番好きな女はあえて外して、二番目に気に入った女に声をかけた。すると、なぜかうまくいったのだった。おそらく、それはある程度の諦念により、緊張から解放されたおかげで、浮ついたり、しどろもどろになったりしないで、注意深く口説き落とせたからだと思っていた。
食事も一番に食べたいものは避けることにしていた。二番目に食べたいものは栄養バランスも良いし、食べ過ぎることもないのだった。
そして、自分の趣味、決して他人に知られてはならない秘密の行為。実は全てはこれを実行するために、必要以上に目立つのを避け、アクシデントを極力抑える必要があったのだった。
自分の暴力性、というか残虐性に気づいたのは小学生の頃からだった。虫の羽を千切ったり、小動物を苛めたりすると、なんとも言えぬ高揚感を感じるのだった。小さいうちはそれで済んでいた。しかし、成長と共により暗い耽美的な傾向を深めてゆき、高校に通う頃には、ノーマルな性欲の処理では満足できない自分を自覚し始めていた。
親元を離れ、一人暮らしを始めて、ついに男は初めての凶行を実行した。その時の興奮は今でもまざまざと覚えている。フードで顔を隠して、夜、すれ違いざまに女の腹を刺したのだ。
それ以来、不定期に犯行に及んでいた。しかし、男は注意深かった。通り魔という、最悪の性癖ではあるが、これを棄てるつもりは毛頭なかった。用心に用心を重ねた。その過程で見つけたのが二番の法則である。あらゆる選択から一番を排除した。最善の手前で満足するのである。それは日常生活から、秘密の趣味の実行にまで及んだ。
その日、以前から目をつけていたターゲットを襲うべく、ある通りで待ち伏せしていた
。ターゲットの行動パターンは完全に頭に入っていた。その女も当然自分が一番襲いたかった女ではない。二番目の女である、計画は完璧なはずだった。
急に思い出したのである。それは青天の霹靂であった。
女の顔を確認すると、妙に懐かしい感覚に襲われた。そして、すぐさま記憶を呼び起こした。その女は中学生の頃自分が一番好きだった同級生の女子だった。呆然とするあまり、思わず女の前で立ち尽くしてしまった。手にはナイフが握られていた。
「保夫くん?」
完全にバレたので、男はフードを下ろした。
「久しぶりじゃない。どうしたのここで?」
女は近付こうとした。しかし男の手に握られたナイフに気が付いた。瞬間、緊迫した空気に支配された。
「ああ、これ? これはこうするためにあるんだよ」
男は自らの胸にナイフを深く突き立てた。
「キャー 保夫君」
男は薄れゆく意識で考えていた。
俺って、俺の中で何番目だろう?
一番目?
ダメじゃん‥
セカンドオピニオン TARO @taro2791
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます