第一話 第六章「・・想い出の公園/朝焼け・・」



暮れなずむ夕焼けは町並みを朱く染める。昼と夜の境界線さかいめ逢魔おうまが時。

東京の西『はるる野』は繁華街を一歩でも外れれば田舎寄りの景観が広がる。

家路から少し外れた旧道のなだらかな丘陵おかの先に、古い公園こうえんがある。

崖の上にある感じでお気に入りだ。

ここからが我が街をいちばん美しく展望のぞめるって勝手に思っている。

さて、

自分を《量産系》と定義づけたのなら、私には《主人公》が存在する。

私が定義した『』……公園にその二人がいた。


主人公『太陽たいよう』兄さん、

ヒロイン『月子つきこ』姉さんだ。

別に血縁ではないけど、幼馴染の一つ年上の二人。

副会長と書記なので忙しく、学校ではほとんど会えない。

だから、部活も終わって放課後のあたしはここで二人と逢うのだ。


夕焼けが芸術的に染める。二人は仲良くブランコに座っていた。

きぃきぃという椅子ブランコの音は容姿端麗な二人への伴奏だ。

「青春だね、はなやぐね。切り取りたいその構図……今日も今日とて、お二人さん」

からかい気味に声をかける。


振り返るは、眉目秀麗びもくしゅうれい桜花爛漫おうからんまんな主役とヒロインの容貌すがた

眼鏡が似合う知性あふるる太陽兄。おでこにロングヘアが上品な月子姉。


「……ソラ、まーだ絵空事な事を言うか」

「そだよー寝惚けちゃ駄目だよーソラ」

苦笑して破顔一笑。になるしぐさ。

あぁ、私はこの二人の《端役》だからこそいい。

「……学校でなにかあったの?」「相談に乗って欲しい顔だ」

二人の声は協奏でもするかの様に軽やかだ。


「わかる?……あーでも、ちょっとトンデモ話過ぎて、自分の中で消化しないと」

「珍しいな。あのねそのねで甘えてくるじゃんかいつもは」

「えーそんなダダ甘えしないよお」「くらいだよね、ソラは」

「むー」口をとんがらす私。実際、この二人の前では甘えん坊だ。

「小さい頃からそう言う処ずっとだな」「だってさぁ……」


あたしは母親がいない。産まれてすぐに居なくなったらしい。

今でも生きているのか判らない故、近所の主婦を発端につまらない揶揄やゆが踊った。


『あの父親だし愛想つかされたんじゃないの』『娘一人残して非常識ねぇ』


父はこの街では有名人らしく、尚更なおさらに心無い尾ひれがついてあたしを切り刻んだ。

そこを救ったのがこの二人。

『一緒に遊ぼ?』……手を差し伸べる男の子女の子。

何も聴かない笑顔が誘う。あたしは黒い中傷の沼から救われたのだ。

この二人についてゆけば大人の暗い泥には染まらない、あたしの世界は晴れ上がる。

それがあたしの第一歩で、あたしにとっての世界の『』になった。


「そういや、模型部の部長になったんだって?」

「それがね~夜鳩が『アンタが部の主役でしょ?』……って効かなかった」

「実際そーじゃない」「夜鳩の方が部長って顔してるよお」

「そうか?ソラも主役って顔だと思うがね」「えー……そっかなぁ」


このときだけは、甘える蒼穹ソラで居させてほしい。

幼少期は三人で街中の公園を駆けまわり、遠征とかもしたりした。

手を差し伸べたあの日から、背中を追いかけるだけで道が輝いた。

この構図こそ、私が主役でなくていい『居場所』になった。


「じゃ、蒼穹は帰るね」

「トンデモ話の方はいいのかい」

「ん。お二人さんの邪魔しちゃ悪いし」

「まーた妙な気を使うか」「ソラは気になる男の子いないの?」

「……ぜーんぜん。ソラは無理にはほしくないんだよ」二人は笑う。

あの人形王子が気になる子って未来はご遠慮願いたいなぁ。


手を振って夕日を背に家路へ戻る。一人称がソラになってしまうのも二人の前だけ。

言うまでもなく誰もが認める美男美女カップル。私の主演と主演女優。


この二人と私の関係は永遠に続く。未来に祝福を。


夕日はもう夜の海へ。帰り道は、いつも心が夜空へ泳いでいた。




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