第一話 第五章「ソラとわんこと幼馴染と」

「あふぅ……」非常識三連発であった。

さらに一発増えた。増えなくていい―――落ち着きたい。

「……ソラ先輩って呼んでいいですか。呼ばせて下さいね」

「ん?いいけど。えぇと恋縫ちゃん……は、何で模型部に興味もってくれたの?」


ここはバスの中。

高校は都合よく街中にあるものの、距離があるのでバス通学だ。

あのロボット獣が何なのかさっぱりで、結論も出ないから

この後輩の子と話すことで日常に戻りたかった。


「あ、名前、不知火しらぬい恋縫こいぬって言います」

「あたしは……」「鴻 蒼穹おおとり そら先輩、でしたよね」

「え?……うん。よろしくね」

名前まで覚えててくれたのか、マメだなぁ。

「興味のきっかけですか。なんて言うかですねぇ……」

オデコをぺちっと叩きしぐさ、テカるオデコ。

ツインテールともおさげ髪にも見える髪が庶民的で……。

(い、いや!可愛いものは可愛いって正常な感覚だわわ)

ロボ顔、人形王子、ロボ獣と続いて人間の女の子(しかもこんな可愛いんじゃ)

常識的で泣けくるの無理ないです。


「――――もっと先の、違う自分になりたいんです」

「ん?」とつぜんの告白めいた彼女の宣告。

「違う、自分?」「はい!」

快活そうな返事だけど、その笑顔が不思議な色にゆらめく。

「模型で?」「ですです。食べて寝てってだけじゃなく、です」

「そ、そう……」

高校デビューの、彼女なりのスローガンなのだろうか。

「ま、市販品を改造したり、フルスクラッチでイチから作りだすのも模型だしね」

「そ、そうです。そんな感じ……え、そんなのあるんですか」

「うん、無いものを部品集めて制作するのがフルスクラッチ。

《スケールモデル》って実在した戦車とかの模型をより精細に作りこむって子も多い。

 ウチの部は『ヴァンプラ』ってロボット模型多いけどね。私が部長。えへへ」

「ロボット……」

「うん。『ヴァンダム』ってアニメのプラモ。

 ずっと前から続いてるロボットアニメでね。父親の影響でまんまとハマって

 あたしってほんっと女の子らしさゼロなのさ」

「……へえ」

装甲新機動そうこうしんきどうヴァンダム』は30年来、国民人気のロボットアニメ。

あたし達の世代でも普通に有名だった。派生作品が未だに創られている。

「私は量産型って脇役のメカ大好きでさ、それがガキィーンて輝く様なのばっか作ってんの」

「脇役……量産型が輝く……」

「お、目の色変わったね。私は《量産系部長りょうさんけいぶちょう》って言われてんのよ」

そしてあたしは《量産系女子》ね、と付け足す。

「…………量産……」恋縫ちゃんはうつむいて、何かボソボソ言ってる様な……。

そして何かを決意したのか、

「……いいですね!それいいですっ!輝きたい」

ぱぁっとオデコと一緒に光る恋縫ちゃん。眼前に迫るとさらにさらに。

「お、おお?量産型に共感シンパシー感じてくれた?……おお」


何が好かったんだろう。

確かに主役タイプの子って感じじゃない、同類って解釈でいいのかな。

「量産型ってある意味『』ですよね!」

「え?うん、そ、そうだよ!魂の『主役』かもだね!うおーん」

量産型談義をバス内で続ける女子高生が二人。奇異の目で見られてたに違いない。

あたしは特に目立つ子じゃないので多分忘れさられると思うけど。


さてはて。

部員の事とか解説してるともうバスは学園前だ。コレは脈あり、なのかな。

「じゃ、ソラ先輩!放課後、部室紹介して下さいね!」

ぺっこり一礼(これまた可愛い)、

恋縫ちゃんはしっぽも足取りもパタパタと、昇降口へ去っていったのだった。

「はぁ、可愛いなぁ……欲しい……あ!いやいや、ぶ、部員としてだよ!

 だって……あーゆー子と部活したいよねぇ……」

誰に言い訳してるのやら。

早くも今朝の珍入者の《非日常あり得ないモノ》から完全逃避しているあたし。

なんともカロリーの高すぎるスタートだった。





あたしには困ったらこの人、という幼馴染がいる。

夜鳩よばと、もしヴァンダムが現実のロボットとして現れたらどうする?」

まだ四月の頭。新学期。すぐに放課後になった。


さてさて。オデコ娘、恋縫ちゃんはついぞそのまま現れなかった。

彼女のクラスを聞きそびれてたし、新一年生いろいろあるのだろう。

また明日にじっくりでもいいかな。


ここは部室。

古い旧校舎はまだ健在なので、(まだほぼ同好会な)模型プラモ部にも教室が使えた。

さすがに木造ではないけど、年季が入りすぎてて古い美術館みたいな臭いがする。

実にあたしは模型部の部長さんなのであった。

「ヴァンダムが現実にか……まずあり得ないが、その妄想やんわりと付き合おう」

やんわりと幼馴染は応えてくれた。

留毬とどまり 夜鳩よばと』、黒緑色の長い髪が美しい眼鏡女子だ。古風な言い回しで

事務次官の秘書っぽいイメージもあり幼馴染・兼、アドバイザーだ。

あんな滅茶苦茶な体験をして落ち着かない。幼馴染と駄弁って落ち着きたかった。


「夜鳩は阿呆話でも付き合ってくれるから大好き♪」

「お、おぉ……ふひひ。それは張り切らないとさね」

何だか興奮スイッチ入ったみたいだけど(たまに目付きが危ういんだよなぁ……)

さて。まだ部員は少ないので部室(教室)は人がまばらだ。


「まずは」「うん、まずは?」

「材質を確かめる」「ほお」

「コックピットに誰が乗ってるか確認する」「ほお」

「あと」「やんわりと!?」

コクリ。無言でYESと頷く幼馴染。線の細い美人で実にクール。

「舐めるとね、って何かで読んだ」

「……漫画知識なんじゃ……」

「もしくは世界を革命するやもしれぬ」

本の虫なので小説からライトノベル、ウンチク本とか多種にわたりたしなむ彼女。


「存在するって事は何か使命があって『』ってなるのが常さね」

「使命……あたしが乗ら……いやいや。えと、そういうオチなの?」


あんなのに乗れって……まさかなぁ。

アニメのロボットものの第一話は昔はそんなのばかりだったそうだし。

「そう。ロボアニメだと最新鋭機に乗せられそのまま《主役》になるのが王道だよ」

あ。あの《白い巨人》……やはりと気付く。

「《偶然》じゃなくて《必然》で乗るって感じなのかな」

「『結果的に必然』なのだろうね。

 能力者じゃなくとも『運命に選ばれた』主人公が圧倒的に多い」

ロボアニメだと『くそぅ、俺がやってやる』と未成年の子が主役になる、と。


「ふーん……あたしって《量産系女子》だから無縁そうだねそーゆー熱血なの」

「……そうでもないさ。《端役》=《量産系女子》と言いたいんだろけど

 《端役》だった子が、主人公級に成長するパターンも多い」

「ハナから《成長する主人公》という路線なんじゃないのその子」

「……かもね。どっちにせよ、人生は誰しも《主人公》さ」

「わ。かっこいい。あたしもちょっと憧れるソレ」

夜鳩はしぐさも物腰も大人で、女子高生さを忘れる(本人に言ったら哀しまれた)


「何をいう。小生には蒼穹ソラタイプにしかみえないぞ、フフ」

そう言って、彼女に頬を撫でられた。

「はは、はは……は」愛玩動物を撫でる感じもあるけど……何か、

やはりがある感じがするのは多分……き、気のせいだよね?


「まぁ『最初から最後までほぼ量産機で闘い抜いた』ロボアニメもあるし」

「あ、ロボットだけ知ってる……どんな話、てか、主人公だったの?」

系主人公」

「何それ!?ちょー完全に違反技能(チート)じゃん!」

彼女はプラモにはそれほど興味はない。ただ、ウチの親父のウンチクを聴いて

ロボアニメの歴史とか興味を持ってアニメ・書籍をかなり網羅していた。

部員が少ないので数合わせ……とは言葉が悪いが、在籍してもらっている。


「運命で《死ぬまで主人公させられる》って難儀だなぁあたしには無理」

「なに、なってみれば部長も主役も一緒。慣れるさ」

「ムリだよーガラじゃない。ね、夜鳩よばと、やっぱ部長替わらない?」

「無粋さね。プラモに愛情ありし者が部の主役たりえると小生は思うさね」

「そっかー……ちぇ」

わたし部長ってガラじゃない。でも適任は誰だよ?って結論、任されただけ。

駄目なら夜鳩に替わって貰う約束だった。

「ふぅ……アレって私が主役になれって事なのかなあ」

「何の話?」

「あ、あーいやいや、ありがと!現実に立ち向かおうっかな、て話」

「わからないが、まぁいいさね。」

それで自分が納得いくのならいいさ、と続けた幼馴染はふと最後にこう付け足した。


「《運命に選ばれた主人公》、それはそれ自体に意味があるテーマが多い。

 ソラが何を見、何を選び、どうするのかが物語の醍醐味さ。

 運命という物語はなのさ」


彼女の言葉は不思議て、無駄に謎めいて――――

出逢ったあの日から主体性の低いあたしに本当に良い指針になってくれていた。

……後で思えば本当に救われていたんだ、って。

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