第一章 第三章「ソラとガラクタの君と」



「部屋に戻ればいつもの《日常》……そう思っていた時期が私にもありました……」


朝食を終え、自室に戻ってきたあたし。

やはり天井にはロボの顔が、プラ箱の山は怪獣がで……。

えと……取りあえず新学期、いきなし遅刻はまずいか。

プラ箱の山からカバンと制服もろもろを発掘。無事でよかった。

姿見で自分の容姿を確認する。……うん、いつもと変わらない。


変わっているのは……鏡には映る


「見えてる――よね?……頭ぶつけて幻覚が視えるようになった……とかなの?」

今はそう思うしかなかった。

気を取り直し、さて制服にお着替え……とジャージをまくった瞬間、

予想もしない角度から声がした。


『おい。そこの平民わきやくよ』


「……は?」何だか妙な声が聞こえた。

『いきなり脱ぐでない。おう御前ごぜんであるぞ』

あたしはまず左右を見、天井の顔も見た。

「……これも幻覚・幻聴ってヤツかぁ……」そんなため息をつくも、


『おマヌケめが、後ろだ。王は貴様の後ろに御座おはすぞ』


わかってたのに無視したけど、やはり声としてはっきり認識できたので、

(あぁ……やだなぁ)仕方なく、そろ~りと後ろを振り返ってしまった。

居た……声の主はに居たのだ。


人だ。

だ。そいつがあぐらをかいて、えっらそうにふんぞり返っている。

……ただ、人だと断定しがたいのは……何というか

のだ。

左手がひじが壊れてその先がだらんと伸びてる。右足も膝からが壊れてボロってる。

人っていうか……、


「……なんだこの《ガラクタ人形》……」


ひねりもなく素直な感想。

人形が喋っている……喋る? いや、顔だけはほぼ人間のソレなのに

身体は人形なのだ。壊れた人形。パーツをつなぐロープだかが見えてしまっている。

ソレが、中世の西洋貴族みたいな衣服をまとい、踏ん反り返っていたのだ。

首元がスカーフだかで隠れてるので人間の顔と人形のボディの境目がわからない。

『とお』「ぐぇ!?」

人形から、何かが飛んできた。いや、……?

それがあたしのどてっ腹にぶち当たったのだ。ジャージめくった腹に……!

「おげ……痛いな!……って、ぇええ!?」

手だった。伸びた左手があたしの腹に。でも何か生々しい。なんじゃそら。


『お前な、脇役わきやく主演しゅえんさまを無視したら物語が始まらぬであろう』

軽くめまいがした。何だそれ……ロケットパンチなのか?

頭を抑えながらガラクタ人形を見据みすえる。

顔だけがほぼ人間なのだが、整いすぎて人形みていた。髪はマネキンぽさもある。


「いや喋ってる……人形が喋ってる?いや何これ、あり得ない……」

《あたしにだけ見えるロボの顔》の次はですか……?

プラモ作り慣れててシンナー酔いなんかしないけど、

非常識が二連発でやって参りました……。


「……まさか……これもあたしにしか見えないってヤツなの……」

『そうだな。からお前には見えている筈だ、平民』

「答えた!?」『当たり前だ。我は生きておる』

「うっそ……生き人形……心霊現象!?ホラーやん……」

『い、生き人形とは何だっ!ホラーでもホラ話でもない!不本意だがな、

我は本物だ。本物の王。そしてお前は、ほら平民』

「………………」

思わずまともに問答トークしてしまった。何か駄洒落ダジャレが聞こえた気がしたけど、

これはガチなヤツなのか……!?


『そして人形ではない。天威てんいの世界の王子さまだ』


どう見てもガラクタ人形なのに王を名乗る。

確認する。間違いないらしい。

「えと……もしかして……会話出来てる?」「そうだな。知性体生き物だもんわれ

「うそ……人形に宿った怨霊が喋ってる!?」

『誰が怨霊か!」「ほら……怨霊って自分が死んだの気付いてないって言うよ」

「ぬぐ……し、死に損なっただけだ。故あってのだ』


「……………………」

なんだか色々と会話ラリーしといてなんだけど、

……ガチっぽくて冷や汗が出た……怪談話にしては生っぽい会話してるし。

ロボットに続いて《人形に宿った王子さま》とか。


ふう、っと王子(?)は溜息をつく様なジェスチャー。

『仕方ない。説明せねば庶民も理解が苦しかろう』

「……いえ、特に興味は……」

『そうか、そんなにせがまれてはな……』

人の話きけよ。

『おぉ、それは天空にあまねく城塞じょうさいの群れ、

 この惑星の盟主たる《天威てんい》カエルムの一族が一人

 この機械騎士アゥエス『フィエーニクス』を駆り、天空を統べる者、

 それが何を隠そう何を晒そうこの我、第六王子『リヒト』であるぞ』


「……って言葉を?」

また左手が伸びて飛んでくる。さすがに避ける。お前はどこぞの海賊王志望か。

『おまえ!ボクが説明してあげてんだよ!聴けよ!』

「…………」

何だか、せがまれた。

こいつ容姿はすんごくい。サラサラで短めの白金の髪はしなやかで

目鼻だちは西洋の名画をそのまま3Dプリンターで起こしたかのよう。

極上の芸術品はボクっ子で、すごく面倒くさそうなヤツだった。


「あんた……何なの?」『あん?』

「えっとね……信じたくないし頭追いつかないんだけど、うん、整理しよう……」

困った。

ここで会話しちゃうとあたしもこの非現実トンデモに加入しちゃう……ええい、ままよ。

「仮に!仮によ、アンタが意思を持っただとして……!

 ……何で、あたしの部屋にいるの?アレは何?」天井を指す。

『ほう。よくぞ訊いた……。ふふん、だ~よなぁ』

喰いついてくれて嬉しいって顔ですね……。

『我が名はリヒト。ほまれ高き天威カエルム王家が第六王子。趣味は読書に音ゲー』

「…………(趣味の紹介……いる?)」

『故あってこのような姿であるが。今はまだ深くは語れない、気にしない。

だがどんな姿であっても王。これよりここを根城とし、

ドロスィアと戦うための、我と《アゥエス》の前線基地・居城とす』


「…………………………」

あたしは無言でスマホを取り出し、警察に通報しようとする。

『おい、いきなり何だ』

「通報。やっぱ国家権力に突き出す」

不法侵入な上に居付く気満々って居直り強盗みたいだよね。

やっぱ非日常トンデモには退散願う。


『……良いがな、たぶん見えないぞ……我もコイツも』

「え?……あ!」天井の顔を見て思い出す。

そういや結菜さんたちには見えてなかった。

しかもさっきとか言ってたよね……。

「……うそ、どうやってしょっぴけばいいの、この不審人形ふしんにんぎょう

『不審人形ではないわ!

 だからこそ、我が話を聴くのが最善と言うておろうに、

 我は基地として根城とすると交渉しておるのだ、おマヌケめ』

「えぇええ……何で横柄に説教されてるの不法侵入者に……」


すっごく失礼なことを当然の義務の様に提案してくる人形さん……。

「基地って……あのロボで何かと戦うっての?」『だからそう言ったではないか』

「………………はぁ……そっすか……」

中二病って言うんだよね。こういうの。不法侵入でカオス設定を語る。

これはヤバい奴だ――こんな片田舎を戦場に何と戦うっての……。

思考が溶融メルトダウンしそうだった。

嗚呼。どうすれば現実に復帰できるのですか神さま……。


「……あ」時計をみれば。高二の新学期から遅刻なんて忍びない。

(……ええい!)ばさ!私はガラクタ人形へ辞書を投げつける。

『なんだコレは?』

流行や俗語をまとめた年鑑みたいな辞書。

「アンタ出てけ、いますぐにでも警察に通報する!ってやりたいけど

 その身体じゃ無理だし、面倒ごと大嫌いだから保留。続きは帰宅後。

 もう、ヤだけどね、絶対追い出す気満々だけどね、ホイホイから脱走した

 ゴキ●リなみの温情をかけるからね、今だけ、

 ……それでも読んで少しは常識学んで、出てく準備してて」

『……はぁ?何を勝手に、庶民が王に……ってコラ行くな馬鹿もう!』

「ぜったい、追い出すんだから」

ばたん!ドアを勢いよく閉め、階段を急ぐ。

(……あぁ、なんか支離滅裂だぁ……)

時間ないのは本当だけど、精神がヤられそうで逃避したのが本当。

神さまのくれた試練?多分、アレは出ていかないとは思うけどさ。

わたしは庶民、《普通》の女の子だ。

あたしにしか見えないって何の嫌がらせなのさ。

勘弁して。こんなのは、どこぞの『主人公が処理する話』なんだよ……。


でも……神さまは気まぐれで、さらにつかわせていたのだった。

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