第一話「ソラと王子と白い巨人」

第一話 第一章「ソラと天井のあの顔と」


あたしはずっと《量産型りょうさんがた》だったんだろう。


三か月前の、あの瞬間から思い返す。


あの時のあたしは、ただ学校行って、友人と駄弁って愉快な家族と談笑して

プラモ作ってれば、一日は軽やかに終わっていた。

ほんと……どこにでも居る量産型な女子だった。


それは別に、あたしが量産されたロボットとかな訳じゃなくて、

って言う、あたしなりの謙虚おどけたな表現だったんだ。

これっていうなーんにも特技もない《普通》の女子だったからね。

それで量産型っぽい女子……つまり《量産系女子りょうさんけいじょし》だと自称してて。

だからこそ、あたしの《日常》があの、普通じゃないトンデモない

ドタバタ珍生活が始まるなるなんて、想像すらつかなかったんだ。


……そんなトンデモはその朝、

寝起きから、いきなりあたしとガチンコに目が合って来て脳が止まった。


「………………………………は?」


春の風が優しくて、まずまだ夢の中だと思ってたけど、

は確実にあったのだ。目線が合ってる。ガン見ってやつです。

「………………………………あぁ…………えと?」

あたしは仰向けに寝るのが好き。

名前が『蒼穹そうきゅう』と書いて『ソラ』と読むせいか、大空を見上げる感じが好きで

仰向あおむけでしか寝られないんだよ、って身内に言ったら笑われた。


だって寝起きでまぶたを開いたらと目があったら……誰だって固まる。


「……は…………えと……なにでしょうかね、アレ……」

仰向けから見た天井に、《かお》がのぞいてた。

雨漏りする古い家なんで、ついぞ屋根がぶっ壊れて亀裂がそう見えてたんかなぁ。

なんて……一瞬、思ったんだけど。

「……顔だ……うん、顔……ってよりロボのか……お?」

うん、ロボットっぽい。だ。そのロボと目が合ってるのだ。

イメージとしてはフランス人形と日本人形をあわせた様な美しい女性的な顔だち。

「あぁ……こんな日も来るのかなぁ……ロボのプラモ作ってれば……顔がこう……」


ばさ!

布団をもっそり跳ね上げた。

「……っ……いや!?ないよ!?こんな日も来ないよね!」

ノリツッコミは周囲に空しく、でもその周囲にも異変が起きていた。


「はぅ!?……この部屋どうなってんの!?」

周囲はプラ箱の群れだ。

あたしが無造作に買い、嵐の様に作りまくったロボプラモの空き箱は摩天楼カオス部屋

それが……怪獣でも暴れまくったかの様に見事に瓦解がかいしていたのだ。


「……あー……なんか……あたしの部屋、大崩壊クラッシュしてますねえ……」


見ると、あたしの大好きな量産型ロボットのプラモたちが……。

「うわぁあ!ザシュが、グシュが!……この量産型っても、ネット専売なのにぃ!」

プレミアムな量産型プラモが棚ごともんどりうって落ちていた。

ツノや銃器がベキバキと。プラスチックは転倒に弱い。

あぁぁ……高校生の財力は有限……これが大自然のやる事かよぉ……。


「ぐぐぐ……地震なのか……そうなのかぁ……あたしが何したってんだいバロォ。

 むむ……哀しい、魂のプラモがぁ……」

ま、地震あっても起きない性質たちだけどさぁ(自慢する事じゃないね)

でも大損害である。女子なのにプラモ優先とかおかしいけど。

しかし何故、こんな事に……?

こんな大参事を、という事実が一番おかしかった。


「わ。お気にのジャージが切り傷すご!布団も切り傷いっぱい……って血が!」

布団には切り傷と共に血がびっしり。

ジャージなんて腹の部分が丸々亡くて、お腹が丸出しになっていた。

よく見ればジャージの破片だった様な血まみれな布が床にバラまかれている……

「あれ?ケガ……なんて無い、よね。あたし別に帝王切開ていおうせっかいなんてしてないよね?」

宇宙人に妊娠させられてあたしが代理ママ……怖い想像をしてしまった。

思わずボケたけど、お腹はただ正常で綺麗な女子高生腹だった。


恐ろしくなって……思わずパシン!と両頬を叩いてみる。

「……あぁ……うん、夢じゃないな。あたしはいつも通りのだ」

相変わらずな普通の容姿、ショートヘア、福耳。バストも2ミリ成長したけど、

メインヒロインの脇で『あぁ、そうなんだー』と言ってるモブ顔女子だ。

家族は可愛い可愛い言うんだけど、それがお世辞だって判る歳にもなっていた。


「うえ!?鼻血も出てた?」……なんか両鼻から乾いた鼻血がポロっと落ちた。

(鼻か……頭でもぶつけてたの?)鼻を拭きつつ、周囲を見回す。

上を見上げるも、

「……やっぱロボ顔さん……天井からコンニチワしてますね……」

漫画なら天使とか猫型ロボットとかの突然来訪で新連載な始まりだけど……。


「えと……プラモが趣味なせいで…………?」


「………………」静寂。

「あーっはははははは……は、は、は……って、そんな訳あり得んがなって!」

ぐぅぅぅ、と腹の音が目覚ましの様に鳴り響いた。

だんだん目が覚め始めてきた。今日は平日、学校に行かねばいけないし。

腹丸出しはヤバいので別のジャージにパパっと着替える。部屋の片づけどうしよう。

意識が浮上する度に混乱してきて、ちょっと小走りで自分の部屋を後にした。


寝惚けてるんだな……寝惚けててくれよ……ソラさん。

謎の顔。謎の倒壊。謎の出血。……何かが始まっているなんて。


さらに、プラモの空き箱の山の中に、が埋もれてるとは露知らず。



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