命燃え尽きるまで 6

 A・ルクスは自分の血に驚いてパニックになる。


「し、死にたく……ゲホッ、ゲホッ!!」


 彼女はさらに血を吐いて、その場に膝をつき座りこんでしまった。もう立っていられる力もないのだ。

 マスターTは異空間から取り出した金属の刃を持って、無言でゆっくりと彼女に歩み寄る。


 トドメを刺すつもりだと隠れて見ていたA・ファーレンハイトは直感した。


「い……や……」


 ルクスは血の混じった咳をしながら這ってでも逃げようとするが、何mも進まない内に力尽きて動けなくなった。

 マスターTは彼女の前で金属の刃を高く掲げ……振り下ろす――――直前、通路の向こうからライフル銃で狙撃された。鈍い金属音がして、彼はよろめき後退する。


 狙撃したのはマスターIだ。彼は単身ルクスの救援に駆けつけたのである。彼は大きな声でルクスに声をかける。


「マスターX、立て!」


 しかし、彼女からの反応はない。返事はおろか、ぴくりとも動かない。


「A・ルクス! 何でも良い、応えろ!」


 マスターIはルクスに呼びかけながら、ライフルを構えて前進した。銃弾を浴びてマスターTはさらに数歩後退する。

 そこへ追加の増援が現れる。マスターSと彼の部下たち、そして新たにマスターとなった者たちだ。全員それぞれの手に得意の銃器を持って一斉に射撃をはじめた。

 マスターSは対物ライフルを連射しながらマスターIに呼びかける。


「マスターI、後退してください! ここは私たちが!」


 マスターTは銃弾の雨の勢いに負けて、後退を続ける。

 A・ファーレンハイトは通信でマスターTに呼びかけた。


「マスターT、早く逃げましょう!」


 彼はファーレンハイトの声を聞いて驚く。


「ファーレンハイトくん、まだ残っていたのか!?」

「残っていたのかって! 私はあなたが戻るまで帰りませんよ!」

「……いや、もうダメだ」

「何が!?」

「すぐに逃げてくれ。君まで暴走に巻きこみたくはない」

「暴走?」

「膨れ上がる力を抑えきれない。早く、早くここから離れてくれ……」


 ファーレンハイトの見ている前で、マスターTのプロテクターが破壊された。

 それを見てマスターSは気勢を上げる。


「効いてるぞ! 押し切れ!」


 だが、奇妙なことにマスターTのプロテクターはまるで胸部の内側から圧力をかけられたような砕け方をしていた。

 確かに防御が崩れたという意味では好機だろうが……異変はすぐに表れる。


「ウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 大風のうなるような、聞く者の不安をかき立てる音が辺りに響く。

 マスターTは胸を張って直立していた。

 奇怪な音は彼が発しているのか、それとも何か別の現象なのか、ファーレンハイトには分からないが、ただ尋常ではないことの前触れだという確信だけがある。


 マスターTに向かって放たれる無数の銃弾は、全て彼の胸に吸い込まれていく。


「どうなっている!? 何かおかしいぞ! 止めろ、全員撃ち方止め!」


 マスターSの指示で全員銃撃を中断するが、構えた銃は下ろさない。

 ようやく明らかになったマスターTの姿は異様なものだった。プロテクターが破壊されてあらわになった彼の胸部には、どこへつながるともしれない真っ黒な大穴が開いている。

 それを見た全員が言葉を失った。

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