命燃え尽きるまで 5

 マスターFの姿が見えなくなるまで、A・ルクスはマスターTを正面から睨んで、追撃させないように牽制していた。

 十分に時間を稼いだ彼女は、マスターTに向かってにっこりとほほ笑みかける。  ――直後、彼女の姿が消えた。次の瞬間にマスターTがよろめく。文字どおりの目にも留まらぬ攻撃。


 マスターTとA・ルクスの戦いがはじまった。

 しかし、マスターTは一切手を出さない。戦いはルクスが一方的に彼を打ちのめすだけ。


「反撃しないんですか? まあ楽で良いですけど」


 彼女はゼッドが持っていた金属の刃を左手に持ち、今度は体術と組み合わせて猛然と攻める。

 マスターTは斬りつけられようが、殴られようが、蹴られようが、投げ飛ばされようが、ただ防御するだけだ。


 それを見ていてファーレンハイトは彼とマスターAとの戦いを思い出していた。


「止めろ、止めてくれ! これ以上戦えば君は……」

「そう思うなら早く死んでくださいね」


 必死に制止を呼びかけるマスターTに、ルクスは容赦のない言葉を浴びせる。セリフとは裏腹に穏やかで邪気のない声がいっそうの冷酷さを感じさせる。

 ゼッドの最期のようにマスターTのプロテクターもボコボコに変形している。これまでマスターAやディエティーとの戦いでも傷つかなかったプロテクターが……。


「君は利用されているんだ! マスターIは君の超人の力を当てにして、自分の部下にした!」

「そんなことは知っています。それがどうかしましたか? 彼は私に全てを打ち明けてくれました。私は彼のためなら何だってできますよ」


 彼女は衝撃の告白に動揺する彼の懐に飛びこむと、右手一本で彼の腕を掴んで振り回し、全力で壁に叩きつけた。

 コンクリートの壁が割れ砕けてへこむ。

 そのまま彼女は左手に持つ刃で彼の喉元を狙う。


「死ね! 私たちの明日のために!」


 この状況でどうしてマスターTは時空を操る技を使って防御しないのかとファーレンハイトは焦った。

 彼があまりに無抵抗であっけなさすぎて、彼女は妨害に飛び出す暇もなかった。


 だが、刃はマスターTが突き出した右手のガントレットに弾かれて、ルクスの手を離れる。


「な、何……」


 ルクスは驚いてマスターTから距離を取り、信じられないという顔で自分の手を見つめた。彼女の手は小刻みに震えている。手に力が入らない。


「こんな時に……! 後少しだったのに! うっ、ぐぐ……ブハッ」


 彼女は愕然とした表情を見せた直後に多量の血を吐いた。真っ赤な血が床に水たまりを作る。


「ま、まさか、そんな……死……? 嘘だ、早すぎる! 嫌だ、嫌……! こ、こんな……」

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