最後の超人 5

 A・ルクスは死体となったゼッドから金属の刃を引き抜くと、駆けつけたマスターIに振り返って無垢な笑顔を見せた。


「やりました! これで任務は完了です。邪悪な魂の超人は全滅しました」

「ああ……って、危ない、危ない!」

 

 彼女は金属の刃を持ったままマスターIに駆け寄る。

 彼は飛びついてくる彼女を優しく抱き留めてなだめすかした。


 その無邪気なはしゃぎようにA・ファーレンハイトは恐ろしさを感じた。ルクスは超人を仲間とは思っていない。組織に所属する者としてはそれで良いのだが……。


(いや、きっと私が感傷に流されすぎているんだ)


 ファーレンハイトはルクスの超人に対する態度にわだかまりがあったが、その思いは心の中に止めた。相手が同じ人種だろうが民族だろうが任務を優先するのが、エージェントとしてあるべき姿。ルクスは何も間違っていない。



 それから数秒後にマスターTが遅れて合流する。


「……もう終わっていたみたいですね」

「遅いぞ、マスターT! 何をしていた?」


 彼はマスターIの問いには答えず、ゼッドの死体に歩み寄って彼のフルフェイスのヘルメットを外し、その素顔を晒させた。


「ゼッド……」


 マスターTはあざだらけのゼッドの顔を上げて、まじまじと見つめる。ゼッドの死に顔は少しやつれていたが、安らかだった。


 鎧の男がマスターTに酷似していることに、マスターIとルクスは無言で目を見張り驚きを表す。

 マスターIはルクスを後ろに下がらせてマスターTに尋ねた。


「やはり前の本部を襲撃した奴か! そいつは何者なんだ?」

「何者でもない……」


 マスターTは両目を閉じたゼッドの亡骸の額にそっと手をかざした。

 瞬く間にゼッドの死体は灰色に変わって砂細工のように崩れ落ち、鎧を残して消えてしまう。

 マスターIはまたも驚いて問う。


「何が起こった!? 何をした!?」

「ここに放置して腐らせるのも哀れでしょう。ところで、他に仲間はいませんでしたか?」


 マスターTはまともに答えず、はぐらかすように質問し返す。

 話題逸らしにしても露骨だったが、内容は任務に関わるまじめな話だったので、マスターIは不満そうな顔をしながらも答える。


「奴の話を信じるなら、ここにはもう超人はいない。奴が全員殺したそうだ」

「そうですか……」

「なあ、ゼッドと君は――」

「兄弟です……とでも答えれば満足ですか?」


 マスターTの嫌みな返答に、マスターIはあっけに取られて沈黙した。

 A・ファーレンハイトも彼がここまで捻くれた言い方をするのは初めて聞いた。


 組織内ではマスターもエージェントも他人の過去には触れないようにするのが暗黙の了解だ。任務に関係する場合は除くが、これ以上は聞いてもしかたないとマスターIは諦めた。

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