最後の超人 3

 二階へ上がったマスターTとA・ファーレンハイトはマスターIの姿を探す。一応は敵が隠れていないか警戒しているが、ここにも人の気配はない。時々乾いた風が吹きこんで、床の砂を巻き上げる。


 二人が広い通路を歩いていたところ、急にマスターTの足元の床が抜けて落ちた。


「わっ!」


 彼は大きな声を上げて、そのまま下の階に落下してしまう。

 直後にどしゃっと重たいものが落下した大きな音が開いた穴から聞こえた。


 彼の後ろを少し距離を取って歩いていたファーレンハイトは崩落に巻きこまれずにすんだ。彼女はそっと大穴を覗き込んで階下の様子を窺う。

 階下にはもうもうと砂ぼこりが舞っており、ろくに見えなかったので、彼女は通信でマスターTに呼びかけた。


「マスターT、ご無事ですか?」

「ああー、大丈夫。私のことはいいから、先にマスターIと合流してくれ。すぐに追いつく」


 マスターTは砂ぼこりの中から立ち上がり、上を向いて指示する。

 とくに罠というわけではなく、床材が劣化して脆くなっていた所に、重装備のマスターTが乗ったため壊れたと見える。

 瞬間移動ですぐに合流できないかとファーレンハイトは考えたが、実際に提案はしなかった。体内のO器官から引き出したエネルギーで時空を操る技にリスクがないわけがないのだ。


 ファーレンハイトは今度こそ秘密兵器の使いどころではないかと、心の準備をして先に進んだ。



 A・ファーレンハイトは二階を一通り見て回ったが、やはり誰もいなかったので三階に進む。三階の廊下に出たところで、彼女はマスターIを発見した。

 マスターIもすぐ彼女に気づいて振り向く。


「……マスターTはどうした?」

「遅れて来ます」

「まさか奴め、戦いたくないとか言うんじゃないだろうな?」

「それはあり得ません」


 マスターIは戦いを嫌うマスターTの性質を甘ったれていると決めつけていたが、ファーレンハイトはきっぱり否定した。

 マスターIは驚いて問う。


「なぜそう言い切れる?」

「……しょうもない話です」


 マスターTがA・ルクスを戦わせたくない理由は、彼女の身体的な負担だけを考慮してのことではない。どちらかというと、同じ超人同士で殺し合いをさせたくないという思いの方が強いのではとファーレンハイトは感じていた。

 それを正直に言ってもマスターIに甘いと切って捨てられるだけだと思い、ファーレンハイトはあえて何も語らない。そもそもマスターTがルクスを超人と戦わせたくないというのは、彼女の勝手な推測――妄想だ。確証も何もない。

 マスターIはそれ以上の質問はせず、ファーレンハイトに状況を説明する。


「それなら深くは聞かないが……。仕事の話に戻ろう。私とA・ルクスは二階でマスターTと似たような鎧を着た人物を見かけ、ここまで追ってきた。今はA・ルクスが先行して追跡している」


 その途中で彼はルクスから通信を受けた。


「どうした?」

「こちらA・ルクス。鎧の男は四階の執務室に入りました」

「……報告の前に相手の名乗りを確認する様に。いくら相手が私でもだ」

「あっ、すみません」

「反省は後だ。それはそれとして話は分かった。私たちがそちらに着くまで、そこで待機するように」

「はい」


 通信を終えたマスターIはファーレンハイトに言う。


「鎧の男は四階に移動したようだ。これからA・ルクスと合流する。いっしょに来てくれ」

「はい」


 二人はA・ルクスと合流するべく、上の階を目指す。

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