最後の超人 2

 マスターTとA・ファーレンハイトはまるで古建築のような石積いしづみの基地内に足を踏み入れた。


 この軍事基地は何十年も前にD国内の反政府組織が利用していたもの。要するに、テロリストが潜伏するために築いた急造の拠点だ。とくに現代的な防衛設備が整っているわけでもないので「軍事基地」というのは大げさかもしれないが、当時から資金難だったD国はテロリストの拠点をそのまま軍事基地として使った。


 いつものようにプロテクターを装備したマスターTが先を行き、その後をA・ファーレンハイトがついて歩く。

 誰も掃除する者がいないのか、床には外から吹きこんだ砂が浅く積もっている。


「静かですね」


 ファーレンハイトが声を潜めて話すと、マスターTは無言で小さく頷いた。

 彼は再度マスターIと通信する。


「こちらT。マスターI、応答してください」

「こちらI、何かあったか?」

「不気味なくらい何もありません。私たちは地下を見てみます。そちらは上をお願いします」

「了解」


 連絡を終えるとマスターTはファーレンハイトを連れて基地の地下に向かう。基地の内部構造はD国から知らされているので、迷う心配はない。



 ……しかし、地下にも人の姿はなかった。日が当たらない地下室は寒く、照明もない真っ暗闇で二人はただ時間を浪費する。


 ファーレンハイトは気味が悪くなって、マスターTに尋ねた。


「さすがにおかしくありませんか? 情報ではここには少なくとも十人以上の超人たちがいたはずなのに……」

「皆で一か所に集まっているか、それとも……」

「それとも?」

「とっくに全滅してしまったのかもしれない」


 彼は悲しげに答えた後、おもむろに数回首を左右に振る。


「良いんだ。戦わずにすむなら、それに越したことはない」

「超人を保護しようと考えていたんですか?」


 ファーレンハイトの問いにマスターTは答えなかった。


 なぜ超人を保護するなどという考えが浮かんだのだろうかと、ファーレンハイトは後から自分の推測のおかしさに気づく。誰もそんなことは言っていないのに。

 ただマスターTも本当はそうしたかったのではないかと、彼女は何となく思った。

 血と涙は崩壊し、邪悪な魂も劣勢で、もう超人たちには行き場がない。それに彼自身が言っていた。超人を倒さなければならないという彼の使命はだと。

 まだ超人と戦わなくてすむ道が残されているなら彼はそれを選べるはずなのだ。



 基地の地下を一通り見て回り、何もないことを改めて確認した二人は、急いで地上階に戻る。

 二人が地上階に出たと同時に、マスターIからマスターTに通信があった。


「こちらIだ。マスターT、そこにいるか?」

「え? ええ、はい。私がTですけども……」

「今どこにいる?」

「地上一階です。そちらは?」

「二階だ。君と似たような鎧を着た者を見かけた。ゼッドとかいう奴かもしれない。今から応援に来れるか?」

「はい。幸い地下には誰もいませんでしたので」

「頼む」

「了解しました」


 マスターTは通信を切ってファーレンハイトに告げる。


「マスターIが上の階で生き残りを発見した。急いで合流しよう」


 二人は二階へ急いだ。

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