世界の頂で 4
基地内は風雪の吹き荒れる薄暗い外と比べると、天国のように明るく暖かい。
マスターTはバイザーに付着した雪を拭うと、帽子を脱いで大きなため息をつく。一方でA・ファーレンハイトは完全防寒装備のままで警戒を解かなかった。
「ここで待っていろ」
邪悪な魂の構成員はそう二人に指示して立ち去る。
マスターTはファーレンハイトに顔を向けて話しかけた。
「大丈夫かい?」
「はい」
「……本当に?」
「しつこいですよ」
「あっ、すまない。ずっと無言だったから具合でも悪いのかと」
「ここは敵地です。気を抜くわけにはいかないでしょう」
のん気な人だとファーレンハイトは心の中で憤る。
彼は誰とも敵対する気がないかのようだ。話し合いが物別れに終われば、ここにいる全員が敵になるというのに……。
A・ファーレンハイトが小さく呆れのため息を漏らすと、白銀の派手なファーコートを着たジノ・ラスカスガベが、紫のローブを着たルーレット・アローを従えて、突如現れる。
ルーレットは仮面ではなく素顔で、ローブのフードも被っていない。彼女の正体は黒髪のワンレンボブに切れ長の目をした大人の女性だった。
ジノは友好的な態度で、まるで旧知の仲のようにマスターTを歓迎する。
「やあ。よく来てくれた、マスターT――っと、君はTと呼ばれるのと本名で呼ばれるのと、どっちが良かったかな?」
いきなり現れた彼らにもマスターTは動じずに答える。
「本名は嫌だな」
「ハハハ、悪かった。私たちの新しい基地を案内しよう」
この基地はもともとF国のもので、邪悪な魂はそれを乗っ取ったのに、もうすっかり自分たちのもののような言い方。
ずうずうしい連中だとファーレンハイトは心の中で唾を吐いた。
ジノはそのまま二人に背を向けて、基地内のエレベーターで最上階である四階の展望室に向かう。ルーレットとマスターT、ファーレンハイトの三人も彼といっしょに移動した。
エレベーターの中から邪悪な魂の構成員が行き交う基地内を見下ろして、ジノは大げさに語る。
「ここは良い所だよ。四方を海に囲まれたすばらしい土地だ。人を縛る土地も国境も何もない」
「F国のEEZ内だ」
マスターTが指摘するとジノは両肩をすくめる。
「やぼなことは言ってくれるな。国際法なんてものはもう機能していない。じきに完全になくなる」
「それを抜きにしても狭すぎる」
「この感覚、君には分からないか? もうすぐ世界は一つになり、人類は新たなステージに進む。私が……私たちが人類を導くんだ。この行き詰まった世界を破壊して。革命を起こすのは常に持たざる側の者たち。保身ばかり考えて保守的になる者には何もなし得ない」
若く野心に燃えるジノは、まさに革命児だ。
それは犯罪組織の首領の息子に生まれたがゆえなのかもしれない。社会的に疎まれる存在だからこそ、自分たちを苦しめる法や秩序に何のためらいもなく逆らい、持たざる者たちの味方として迷わず実力に訴えられるのだ。
だが、マスターTは何も答えなかった。
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