秘密兵器
A・ファーレンハイトがA・セルシウスを連れて運動場からマスターTの部屋に戻る途中、彼女は廊下でマスターCに呼び止められる。
「A・ファーレンハイト、君に用がある」
「私ですか?」
「ああ、ついてきてくれ」
セルシウスは慌ててマスターCに尋ねた。
「あの、自分は……?」
「君には用はない」
マスターCに冷たく切って捨てられた彼は困惑の表情を浮かべる。
ファーレンハイトはまじめな顔で彼に言った。
「A・セルシウス、先にマスターTの部屋に戻っていてくれ」
「はぁ、はい、分かりました」
セルシウスはつまらなそうな顔で返事をすると、一人で先に帰っていく。
◇
マスターCはA・ファーレンハイトを新本部内にある装備の生産工場へ案内した。
旧本部には大企業にも劣らない生産設備の整った工場があったのだが、新本部にそれを再現する空間も資金もなく、まるで個人経営の小さな工場のよう。
中では十数人あまりのエージェントが作業している。
マスターCはファーレンハイトを入口の所で待たせると、小さな木箱を持って戻ってきた。彼は蓋を開けて中身を見せる。それは一個の拳銃弾。
「これを君に渡そうと思って」
「これは……普通の銃弾と何が違うんですか?」
一見したところは何の変哲もない、少し重たいくらいの金属製の銃弾だ。50-50に合わせてあるのか、拳銃弾にしては大きい。
弾頭は平らで貫通力を落としてあるように見える。
「O器官を封じる効果を持つ
予想外の答えにファーレンハイトは驚きを顔に表す。
マスターCは至極まじめに語った。
「私とマスターBがNAの研究員だったことは知っているだろう?」
「……ええ、はい」
「M合金を開発したのはロナー博士で、これの製造方法を知る者は今のところ彼女以外にいない。これは今君に託せる唯一の弾丸だ。使いどころはよく考えてくれ」
「なぜ私にこれを……?」
困惑する彼女にマスターCは端的に言う。
「君はこれからもマスターTと行動をともにするのだろう? これは君にこそ必要なものだ」
「……はい。しかし、よろしいのですか? 貴重なものでは……」
「だから託すのだ。分かるね?」
この弾丸で誰を撃ち抜けというのか、ファーレンハイトはマスターCの真意を測りかねた。もう超人とは戦わなくて良くなったはずなのに、O器官を封じる銃弾に何の意味があるのか?
彼は未知の敵を予見しているのか、それとも……。
さらにマスターCはファーレンハイトに折りたたまれた黒い布を渡す。
「それとこれも」
「これは……?」
「シャドークローク。マスターM……いや、マクガフィンが身に着けていたマントを修繕したものだ。暗所では完全に姿を隠すことができる」
「よろしいのですか?」
「何度も言わせないでくれ。こっちの方は通常の任務でも使えるだろう」
これではまるで誰かを暗殺しろと言われているようだと、ファーレンハイトは困惑した。
彼女は暗殺任務の経験もあるのだが、M合金弾と一緒に渡されたことに深い意味があるように思えてならない。
いやいや考えすぎだと彼女は頭の中に浮かんだ嫌な想像を否定した。
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