マスターTの正体 3

 超人計画のことが分からなければ、イリゲート計画のことを聞こうとA・ファーレンハイトは思いつく。以前から名前だけは何度か聞いている計画だ。


「マスターT、話は変わりますが、イリゲート計画のことを教えてください。超人計画は知らなくても、イリゲート計画は知っているんですよね?」

「はい。イリゲート計画の何を知りたいんです?」

「そもそもどんな計画だったんでしょうか?」

「……どんなって『新しいエネルギーを生み出す計画』ですよ」


 ファーレンハイトも予想はしていたが、イリゲート計画とは新エネルギー計画のことだった。イリゲートとは「灌漑」のこと、「水を引く」こと。

 マスターTは続ける。


「当時世界中で紛争や競争が激化した影響で、資源の枯渇はいよいよ深刻なものになっていました。そこでエリオン博士は……なかなか信じてもらえないでしょうけれど、いわゆる『異次元』からエネルギーを取り出すという計画を立てたのです」


 まるでSFである。

 異次元と聞いてファーレンハイトは驚きのあまり言葉を失いかけるも、すぐに気を取り直した。超人を生み出せるくらいの天才たちなのだから、そのくらいはできてもおかしくないと。

 彼女は高度な科学知識を持たないがゆえに、超技術の存在を受け入れた。


「その計画が成功する確率はどのくらいだったんでしょうか?」

「確率を数字で表すことはできませんが、異次元からエネルギーを取り出すこと自体には成功していたんです。問題は規模でした。大きな発電所みたいに何GWギガワットものエネルギーを抽出しようとすると、制御が困難になってしまうんです。少量の引き出しであれば良いのですから解決方法はあったのですが……」

「何か問題でも?」

「利権の問題です。プロジェクトマネージャーは『一度に』『大量に』という要求にこだわり続けました。当初目標であるそれが達成できなければ無意味だと。博士たちはアプローチを変更しなければならないと言っていました」

「……それが超人計画?」

「分かりません。そうかもしれません」


 マスターTは自分の胸に右手を当てた。

 そのしぐさを見てファーレンハイトは、超人たちが胸の内に持つというO器官のことを思い出す。


「マスターT、つかぬことをお尋ねしますが……『O器官』という名称に覚えはありませんか?」

「……OOOではなく?」

「違います。超人の力の源で、胸の辺りにある器官らしいのですが……」


 彼女の問いにマスターTは再び自分の胸に手を当てた。

 不自然な反応を彼女は怪しむ。


「マスターT?」

「……O器官というのはゴロ合わせです。超国家的超人機構の略称がOOOということに合わせたもので、O器官は略してOOダブルオーになるってわけです」

「そのO器官とは何なのですか?」

「もしそれが私の知っているO器官と同じものであれば、異次元からエネルギーを引き出す器官でしょう。Oは『取出口』――Outletの頭文字です」

「なぜ知っているんですか?」

「……私にも同じものがあるからです」


 ファーレンハイトは目を見張って驚きを表した。

 彼は超人計画を知らないのに、その体には超人と同じものがある。これは何を意味するのか……?

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