マスターA対マスターT 1
A・ファーレンハイトとディエティーが話していると、深緑の髪で赤いローブを着た男性の超人が慌てた様子で室内に駆けこむ。
「ディエティーさん、奴が来ました!」
「分かった。モニターを持ってこい」
「あ、はい!」
ディエティーの指示を受け、彼は急いで退室した。
その背を見送ったディエティーはファーレンハイトを見下ろして不敵に笑う。
「ついにZZZが来たぞ」
「……どうするつもりだ?」
「実のところ、俺はZZZをよく知らんのだ。だからまずは見物だな」
「仲間を捨て駒に使うのか」
見下げ果てた男だと彼女は
「仲間とは何とも情緒的な表現だ。つまりは手駒のことだろう? まあ俺の手駒を使う気はないがな。最初にZZZの相手をするのは
プロダクトナンバー「ABL」、超人「アーベル」、黒い炎の「マスターA」――どれも同一の人物を表す名前。
今のマスターAは超人アーベルなのだろう。だが、ディエティーは自分自身も含めて超人をプロダクトナンバーで呼ぶ。マスターTはZZZ、ゼッドはZZD。マスターAもゼッドも他の超人をプロダクトナンバーではない名前で呼んでいるのに。
それは自分は他の超人たちとは違う、選ばれた存在だというディエティーの強い自意識の表れだ。
「マスターAが? なぜ?」
「知らんよ。ABLが自分から言い出したことだ。奴でも勝てなければ俺が始末をつける。真の超人としてな」
ディエティーは自らの手でマスターTを倒したいと思っている。マスターAでも勝てなかった者を倒すことで、自分の力を誇示したいのだ。
ファーレンハイトにはますますマスターAがマスターTと戦う理由が分からない。
ディエティーとマスターTが戦えば、それで良いのではないか?
どうして残り短い命を無意味な戦いで終わらせる必要があるのか……。マスターA本人とゼッドの言葉を素直に解釈すれば、マスターAはマスターTに殺されたがっていることになる。
いったいどうしてなのか?
A・ファーレンハイトが黙って考え込んでいると、先程の男性の超人がタブレットモニターを持って戻ってきた。
「ディエティーさん、持ってきました!」
「ご苦労。下がって良いぞ」
ディエティーは尊大な態度でモニターを受け取ると、研究所の入口に取りつけてある監視カメラの映像を選択して拡大表示し、ファーレンハイトから見やすい位置に立てかけた。
「まあゆっくり観戦しようじゃないか」
まるでスポーツ中継でも見るかのように、ディエティーはファーレンハイトが寝ているベッドに腰かけて、寛いだ様子で言う。
それは絶対の自信から来る余裕だ。
監視カメラはプロテクターを身に着けたマスターTを捉えていた。仲間を引き連れている様子はなく彼一人だけ。
単身乗り込んだのかとファーレンハイトは心配する。いくら彼でも超人を相手に多対一で戦うのは厳しいのではないかと。自由に動かない我が身が呪わしい。
マスターTは研究所の入口前のロータリーで足を止める。
彼の前に金属製の簡素な作りの槍を持ったマスターAが現れる……。
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