真の超人

 それからゼッドが去って、A・ファーレンハイトは短い眠りについた。


 再び彼女が目覚めたのは、一人の足音を耳にして。その堂々とした足運びに彼女は覚えがあった。

 やがて足音の主が姿を現す。彼女の予想どおり、それはディエティーだった。

 少し緑がかった黄金色の髪に、2mはあろう長身。服装は白を基調としたスーツに着替えている。

 彼は薄ら笑いを浮かべて、ファーレンハイトに近づく。


「起こしてしまったかな? 気分はどうだ?」

「最悪」

「嫌われたものだな。そう邪険にしないでくれ」

「何のために私たちをさらった?」


 彼女が問うと彼は苦笑して答える。


「深い意味はない。適当に人質を取れば、ZZZが取り返しにくると思った」

「なぜそう思った?」

「博士たちは俺に告げた。俺が新たな世界の支配者となるためには、奴を倒さねばならないと。超人を倒すのが奴の使命なんだろう? だったら来るはずだ」


 マスターTは超人に対して思うところがあり、何らかの義務感や責任感、使命感のようなものを持っている。それは彼の過去に原因があるのだろう。だが、どうしても彼がやらなければならないことなのか、ファーレンハイトには今一つ理解できなかった。

 超人たちが彼を宿敵のように考えていることも同様に、彼女には理解できない。ただという現実があるだけだ。


「あなたの目的は何?」


 ファーレンハイトの問いにディエティーは含み笑いした。


「俺は新たな世界の支配者になる。でき損ないの奴隷を率いて真なる超人の王として永遠に君臨する」

「永遠に?」

「そうだ。俺は失敗作どもとは違い、無限の力と永遠の命を持つ。まさに神に選ばれた存在なのだ」


 あまりに飛躍した発言に彼女は言葉を失う。


「神って……」

「天才たちによって生まれつき欠陥を持たされた超人たちの中で、俺だけが唯一その思惑から外れ、無限の力と永遠の命を持って生まれた。これが神の意思でなくて何だと言うのか! あの博士たちも認めざるを得なかったのだ。俺こそが世界に変革をもたらす存在だと。そしてZZZを倒すことでそれは完全に証明される!」


 彼の語る「博士たち」とマスターAの語る「博士たち」は全く食い違っている。

 マスターAによれば博士たちは超人を奴隷として生み出したはずだ。それなのにディエティーの言う博士たちは超人による世界の変革を認めているかのよう。


 ファーレンハイトはディエティーが博士たちに良いように乗せられているのではないかと疑った。

 彼は身にあまる力を生まれ持ち、誇大妄想に取りつかれている。

 ディエティーは超人の夢を語り、マスターAは超人の現実を語っている。そんな対比を彼女は感じていた。

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