マスターA対マスターT 2

 A・ファーレンハイトは対峙する二人をモニター越しに真剣に見ていた。できれば二人に戦ってほしくなかったが、それは叶わぬ願いだった。



 マスターTはマスターAに問う。


「アーベル、どうしても戦わないといけないのか?」

「私には多くの仲間を戦いの道に引きこんだ責任がある。私は超人を生み出した者たちを恨んで復讐のために戦い、多くの人の命を奪ったが、最後には力及ばず倒された。世界にはそういうが必要なんだ。過ちを繰り返させないために」

「……私には君を殺すことはできない」

「君は今日まで多くの超人の命を奪ってきた。今さら殺せないということはないはずだ」

「私は君を友人だと思っていた」

「私もだよ。だからこそ分かってほしい。勝手なことだとは承知しているが……君以外にいないんだ」


 マスターAはゆっくりと槍を構えて姿勢を低くした。もう問答は無用という意思表示だ。



 監視カメラ越しになりゆきを見守るディエティーとA・ファーレンハイトには、二人のやりとりは聞こえないが、今まさに戦いが始まろうとしていることだけは読み取れる。

 取り返しのつかないことが目の前で起ころうとしている。その現実をファーレンハイトは黙って受け入れるしかない。時は無情にただ進む。



「……行くぞ」


 マスターAは一瞬にして姿を消し、真っすぐマスターTの胸を貫くように突きをしかける。

 それをマスターTはぎりぎりでかわし、両手で槍を掴んで押さえ懸命に訴えた。


「止めてくれ、それ以上力を使えば……。超人の力は君自身の命を削る」

「分かっている。もう私には時間がない。これが最後になる」


 マスターAは答えながら力任せに槍を振り回した。

 さすがに超人の力には敵わず、マスターTは堪らず槍を手放して十数mも飛ばされる。彼は足から着地したものの、姿勢を崩して片膝をついた。

 そこにマスターAが追撃をかける。

 音速を超えた鋭い突きの一撃がマスターTのプロテクターを貫く……かと思われたが、そうはならなかった。

 マスターAの持つ槍の先端は彼に届く前に消失していた。



 それまで落ち着いた態度で観戦していたディエティーは目を剥いて静かに驚き、そして小さく舌打ちする。


「カメラの性能が低すぎる。今、何が起きた?」


 超人の動きにカメラがついていけないのはしかたのないことだ。いくらディエティーが優れた動体視力を持っていても、カメラのフレームレートは変わらない。

 ディエティーが知りたかったのはマスターTが何をしたのかということ。彼はにわかに真剣な表情になり、食い入るように画面を凝視した。

 一方でA・ファーレンハイトはこれまでマスターTが見せたわけの分からない技を思い返していた。

 マスターTは超人の力こそ持たないが、それ以上の何かを隠し持っている。その正体は不明だが、NAの技術と関係していることは確かだ。



 マスターTはマスターAに向かって言う。


「分かった。戦いの中で死ぬことが望みなら……」

「ありがとう」


 マスターAは小さくうつむいて感謝の言葉を口にした。

 次の瞬間、もう彼の姿はそこにはない。超人の力を解放して、無手でマスターTに殴りかかる。

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