マスターA対マスターT 2
A・ファーレンハイトは対峙する二人をモニター越しに真剣に見ていた。できれば二人に戦ってほしくなかったが、それは叶わぬ願いだった。
▷
マスターTはマスターAに問う。
「アーベル、どうしても戦わないといけないのか?」
「私には多くの仲間を戦いの道に引きこんだ責任がある。私は超人を生み出した者たちを恨んで復讐のために戦い、多くの人の命を奪ったが、最後には力及ばず倒された。世界にはそういう物語が必要なんだ。過ちを繰り返させないために」
「……私には君を殺すことはできない」
「君は今日まで多くの超人の命を奪ってきた。今さら殺せないということはないはずだ」
「私は君を友人だと思っていた」
「私もだよ。だからこそ分かってほしい。勝手なことだとは承知しているが……君以外にいないんだ」
マスターAはゆっくりと槍を構えて姿勢を低くした。もう問答は無用という意思表示だ。
◁
監視カメラ越しになりゆきを見守るディエティーとA・ファーレンハイトには、二人のやりとりは聞こえないが、今まさに戦いが始まろうとしていることだけは読み取れる。
取り返しのつかないことが目の前で起ころうとしている。その現実をファーレンハイトは黙って受け入れるしかない。時は無情にただ進む。
▷
「……行くぞ」
マスターAは一瞬にして姿を消し、真っすぐマスターTの胸を貫くように突きをしかける。
それをマスターTはぎりぎりでかわし、両手で槍を掴んで押さえ懸命に訴えた。
「止めてくれ、それ以上力を使えば……。超人の力は君自身の命を削る」
「分かっている。もう私には時間がない。これが最後になる」
マスターAは答えながら力任せに槍を振り回した。
さすがに超人の力には敵わず、マスターTは堪らず槍を手放して十数mも飛ばされる。彼は足から着地したものの、姿勢を崩して片膝をついた。
そこにマスターAが追撃をかける。
音速を超えた鋭い突きの一撃がマスターTのプロテクターを貫く……かと思われたが、そうはならなかった。
マスターAの持つ槍の先端は彼に届く前に消失していた。
◁
それまで落ち着いた態度で観戦していたディエティーは目を剥いて静かに驚き、そして小さく舌打ちする。
「カメラの性能が低すぎる。今、何が起きた?」
超人の動きにカメラがついていけないのはしかたのないことだ。いくらディエティーが優れた動体視力を持っていても、カメラのフレームレートは変わらない。
ディエティーが知りたかったのはマスターTが何をしたのかということ。彼はにわかに真剣な表情になり、食い入るように画面を凝視した。
一方でA・ファーレンハイトはこれまでマスターTが見せたわけの分からない技を思い返していた。
マスターTは超人の力こそ持たないが、それ以上の何かを隠し持っている。その正体は不明だが、NAの技術と関係していることは確かだ。
▷
マスターTはマスターAに向かって言う。
「分かった。戦いの中で死ぬことが望みなら……」
「ありがとう」
マスターAは小さくうつむいて感謝の言葉を口にした。
次の瞬間、もう彼の姿はそこにはない。超人の力を解放して、無手でマスターTに殴りかかる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます