恐るべきもの 2
監房部の地下四階に着いたA・ファーレンハイトは、警備室にいる看守のA・ディストリクトに尋ねた。
「マクガフィンの収容されている部屋はどこですか!」
「ど、どうしたんですか?」
「どうもこうもありません、マスターEが先に来たましたね!?」
「ええ、はい」
「鍵を渡したでしょう!」
「は、はい」
「マスターEはマクガフィンを殺すつもりです!」
一般のエージェントはマスターEとマクガフィンの因縁を知らされていない。だから「緊急事態」と「マスターの命令」を盾にされると通してしまう。
ファーレンハイトは警備室からディストリクトを連れ出して、マクガフィンの収容室に案内させた。
監房部の廊下はL字型になっており、角を曲がった先の左右に全部で10の収容室が並ぶ。番号は入口から見て左側手前から1番2番……と数え、端で折り返して6番7番……と振られている。
収容室のほとんどは空室だ。
黒い炎は情報を得る以外の目的で敵対者を捕虜にすることはあまりない。人質にする価値のない者は見逃すか殺すかのどちらかである。
空の収容室は黒い炎の構成員の懲罰房としても利用されるが、懲罰で拘禁されている者は今はいない。
A・ディストリクトはマクガフィンが収監されている5番収容室の前に立ち、まずノックをして反応を確かめる。
しかし返事がない。
収容室のドアは金属製。狭い窓の部分には磨りガラスが嵌めこまれており、外から中の様子は見えない。当然、逆に中から外の様子も分からない。
「マスターE? 失礼します」
ディストリクトはドアを開けようとしたが、鍵がかかっていたので、急いで合鍵を差しこむ。
悠長にいつもの手順を踏む彼をA・ファーレンハイトは急かした。
「早く!」
「わ、分かってます!」
ファーレンハイトは不意打ちを警戒して、密かに銃に手をかけた。
ディストリクトがドアを開けるも、予想に反して室内は静まり返っている。
二人はすぐに銃を構えて踏み込む。
そこで二人が見たものは、血塗れで倒れているマスターEとマクガフィンだった。
約8㎡という狭い室内で、マクガフィンはドアの正面の壁に背を預けて座りこんでおり、マスターEは彼の少し手前でうつ伏せに倒れている。
「うわっ」
思わず声を上げるディストリクト。
ファーレンハイトは冷静に彼に指示する。
「あなたはマスターEを介抱してください。私はマクガフィンを……」
そう言いつつ彼女はマクガフィンに近づいた。
マクガフィンの胸には小刀が突き刺さっており、囚人服は胸部からの流血で血塗れ。小刀はちょうど心臓の位置を貫いており、他に外傷らしい外傷はない。
一撃で即死したに違いない。
ただ不可解なことに正面から刺されているにもかかわらず、抵抗した痕跡がない。マクガフィンは自分がマスターEに恨まれていると知っていたので、彼と相対して油断していたとは考えにくい。あえて殺されたとでもいうのか……。
ファーレンハイトは振り返って、マスターEの様子をディストリクトに尋ねた。
「マクガフィンは死んでいました。マスターEは?」
「息はあります。腹部から出血していたみたいですが、もう止まっています。それほど重傷ではないようです」
マスターEが生きていたことは良かったのだが、彼女はマクガフィンから情報を引き出せたのかが気がかりだった。
本当にマスターEは恨みのあまりマクガフィンを殺したのだろうか?
それとも知られたくない何かがあったのか……。
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