血と涙の超人

恐るべきもの 1

 黒い炎の本部が血と涙の構成員に襲撃されたのは、マスターTが不在になった翌々日の正午のことだった。

 不在のマスターは他にG、I、L、P、Sの5人で、マスターTと合わせて計6人。

 マスターEは療養中であり、マスターB、C、F、O、N、Rの6人は非戦闘員。残っている戦闘を主要な任務とする部隊は、マスターDとマスターQの部隊しかいない。


 敵の接近を最初に認識したのはマスターQの部下だった。

 マスターQは工兵部隊を率いるために、組織内ではトラップマスターと呼ばれている。本部に接近する外敵を排除するのも、彼の部隊の役目。

 「敵」はたったの二人だった。

 一人は甲冑のようなプロテクターを装備した男性。もう一人は灰色のスーツを着た黄金色の髪の男性。

 、排除は容易なはずだった。



 A・ファーレンハイトは射撃訓練中、警報によって敵襲を知った。

 警報に続いて放送通信部のアナウンスが流れる。


「敵襲、敵襲! 戦闘員は上級エージェントの指示に従い迎撃に向かってください。非戦闘員は落ち着いて下層のシェルターに避難してください」


 この時の彼女は敵がたったの二人とは思わなかった。

 射撃訓練場から出た彼女は避難する人々をかき分けて、最前線に馳せ参じる。


 本部の入口前ではマスターQと彼の部下がバリケードを築いて応戦していた。バリケードの向こうは見えないが、銃声と怒号が響いている。

 ファーレンハイトは胸に手を添えて敬礼し、ヘルメットを被っているマスターQに話しかける。


「マスターQ! A・ファーレンハイト、ただ今参上しました。ご指示を」

「マスターTのとこのか! ここはしばらく持ちこたえられる。君はマクガフィンの様子を見てきてくれ。もしかしたら連中は奴を奪い返しに来たのかもしれない」

「分かりました」


 彼女は急いで折り返し、マクガフィンが収監されている監房部に向かった。


 本部が襲撃されるのは初めてのことである。襲撃を想定した訓練は何度も行われていたが、それでも本番と訓練は違う。エージェントたちの動揺は大きかった。

 ファーレンハイトは監房部の見張りに事情を説明して通してもらおうとした。


「マスターQよりマックス・マクガフィンの様子を見てくるようにと命じられました。通してください」

「マクガフィンならマスターEが先に……」

「マスターEが!?」


 マスターEはマクガフィンを憎んでいる。

 この非常時に療養中のはずの彼が何の目的で、病床を抜け出してまで監房部を訪れたのかは明白だ。


「なぜ通したんですか!?」

「なぜって……緊急事態だと言われたので……」

「分かりました、とにかく退いてください!」


 ファーレンハイトは見張りのエージェントを押し退け、強引に突破して地下へと走る。

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