使命を負う者 2

 全員の様子を見ながらマスターFが重々しく口を開く。


「やはりA国の協力が必要ではなかろうか」


 A・ファーレンハイトは彼の言動を怪しんだ。

 彼も創始グループの一人なので、マスターBとマスターCがNAの関係者だったということを知っているはずだ。

 他のマスターたちもそのことを知らないはずはないのに、なぜA国との共同作戦に賛成する者がいるのだろうか?

 確かに邪悪な魂は脅威だが、こちらの情報を渡さずにA国から一方的な援助を得られると思っているのか?

 それともA国になら組織が持っているNAの情報や技術を渡しても良いと思っているのか?

 実は裏で話がついているとか、深謀遠慮があるというなら隠さずに言ってもらいたいとファーレンハイトは思うのだが、マスターではない彼女に発言権はない。


 マスターFの意見に真っ先にマスターDが反対する。


「それは最後の手段にしたい。あらゆる試みが徒労に終わり、もう組織が立ち行かなくなった時に」

「おいおい、さすがにそれは……」


 マスターCが驚きと呆れをあらわにして言った。

 マスターDは小さく舌打ちして言い直す。


「少なくとも私が死んだ後にしてもらう。安心しろ、私はこれからも前線で戦い続ける」

「そうならないようにするための協力じゃないか……」


 頑固な彼にマスターCは呆れ果ててため息をついた。

 いつも最前線で部隊を率いて戦ってきたマスターDは、戦わずに屈することはできないのだろう。

 そんな彼にマスターFは冷静に告げた。


「個人の信念はどうあれ会議の決定には従ってもらう。マスターB、決を採ってくれ。もう考える時間は十分だろう」


 そして続けてマスターBに要求する。

 すかさずマスターRが話を止めにかかった。


「皆さん待ってください。まだ私の話は終わっていません」


 全員が再び彼女に注目する。


「……マスターTの報告によると、ビリアード博士とロナー博士は邪悪な魂に全ての技術を与えるつもりはないようです」


 注目は彼女からマスターTに移る。

 マスターLが怪訝な顔つきで尋ねた。


「どんなやり取りをしたのか知らないが、信用して良いのか?」

「はい」


 迷いなく言い切るマスターTにマスターIが苦笑して突っかかる。


「はいじゃなくて根拠を聞いてるんだぜ」

「根拠は……邪悪な魂にはNAの技術は再現不可能だからです。あれは設備面でも体制面でも最高の研究環境と豊富な資金、そして何より各国の天才的な頭脳が結集して生み出されたものです。いくら勢力を拡大しているとはいえ、邪悪な魂にそれらを揃えることができるかというと無理でしょう。とくに質の高い研究員を集めることと最先端の設備を短期間に揃えることは困難です」


 理路整然とした回答を受けてマスターIは口を閉ざしたが、代わりにマスターRが口を開いた。


「しかし、事実いくらかの技術の再現には成功しているようだが……。例えば、高威力のレーザーガンや巨大な改造生物といった既存の技術ではあり得ないようなものを奴らは実用化している」

「そんなものは大した技術ではありません」


 大したものではないというマスターTの発言にA・ファーレンハイトは表面上は冷静を装っていたが、内心では恐ろしいことを言うものだと驚いていた。

 まるで全く何の問題にもならないような言い方。

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