使命を負う者 3

 マスターIは口笛を吹いてマスターTを冷やかす。


「大した技術じゃないって? だからA国との協調も必要ないってか」

「……そうです。しょせんは装備が多少強くなっただけのこと。今の私たちでも対抗できないわけではないでしょう」


 冷静に答えるマスターTにマスターIはいら立ちをぶつけた。


「俺たち戦闘部隊の身にもなってくれよ。その多少強くなった装備で、何人の部下が犠牲になると思ってるんだ?」


 自分は負けるつもりはないが、部下に死傷者が出る可能性を無視できないと彼は訴える。それは戦闘部隊を率いるマスターとしては正しい意見だ。


「お気持ちは分かります。死者や負傷者を出したくないと言うのであれば、私があなたの部隊の任務を代行します」

「ふざけているのか! お前に何ができるって? 直属の部隊も持たない奴が!」


 激昂するマスターIにもマスターTは動じない。

 だが、A・ファーレンハイトもマスターTの発言はまずいと感じていた。

 あまりに直接的な言い方で配慮が足りない。これでは戦闘部隊に対する侮辱と捉えられてもしかたがない。


 険悪な空気になったところで、マスターDが話に割って入る。


「君がそこまで部下思いだとは知らなかったよ、マスターI。部下を大事にすることも結構だが、君はもっと大事なことを忘れていやしないか? 部下を傷つけたくない、その考えは立派だ。上司の鑑だな。それだけでなく君は戦闘員としても優秀だ。良い再就職先を紹介してやろうか、サラリーマン」


 自らも戦闘部隊を率いる彼はマスターIの態度を笑っていた。部下を死なせたくないから自分たちは戦わないと言うなら、何のための戦闘部隊なのかと。

 黒い炎には理念がある。組織は人がいなくては成り立たず、ムダに人員を失うことは避けなくてはならないが、組織よりも自分の部署を優先するようになっては本末転倒だ。

 だから彼はマスターIを自らの領分を預かるだけで他のことには目を向けようとしない官僚的なサラリーマンと謗った。


 マスターIはマスターDには反論しない。

 もっともなことだと思っているのか、それとも不服ながら沈黙しているのかは分からない。ただ矛を収めて無言を貫いている。

 見かねたマスターCが仲裁に入った。


「まあまあ、ここで言い争っていてもしかたがない。まだ私たちは邪悪な魂と本格的な戦闘をしていないし、甚大な被害を受けたわけでもない。それなのに脅威ばかり語ってどうするというマスターDの意見も分かる。マスターF、A国との話は先送りにしよう」

「いつかは決断しなければならない。その時まで死ぬなよ、マスターD」


 マスターFは今回の採決は断念したが、A国との共同作戦そのものを諦めてはいなかった。


 とくに進展のないままに報告だけでマスター会議は終わる。

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