明かされない秘密 3
マスターTとA・ファーレンハイトがここに来てから、二時間が経過しようとしている。室内の時計を確認したファーレンハイトは小さなため息をついた。
(あまり長居しては迷惑かな)
過去を振り返ることはマスターBにとっては大きな負担のようだ。これで終わりにしようと決めてファーレンハイトは尋ねる。
「最後にもう一つだけ教えてください。NAでZ0号と言えば何を指しますか?」
「Zはゼロのことでしょう。超人計画の被検体のプロトタイプではありませんか? そういうものがあったと聞いたことがあります。0号の意味は分かりませんが、おそらくプロトタイプの中でも最初のものなのでは?」
「マスターTがZ0号だと聞いたのですが……」
「えっ……? 誰から……」
マスターBは困惑した顔でマスターTを見た。
数秒の間を置いて、彼女は彼を見つめたまま小声でつぶやく。
「そんなこと、私は何も……。マスターT、あなたは……」
マスターTは表情を変えずにただそこに座っている。彼のミラーバイザーには愕然とするマスターBの顔が映っている。
もしかして彼女はマスターTが超人計画の被検体だったことを知らなかったのではないかとファーレンハイトは心の中で驚いた。
マスターAもビリアード博士も知っていたことをマスターBは知らなかった。その事実はマスターBもNAに参加していたものの、核心的な事情には触れられない立場にあったことを意味する。
だが、無知とは違う。マスターBもマスターTもお互いに秘密にしておきたい部分があって、そのせいでますます真実が分かりにくくなっている。
マスターTはおもむろに立ち上がって、ファーレンハイトを見下ろした。
「ファーレンハイトくん、話は終わりかな?」
「えっ、あぁ、はい……」
自分で「最後に」と言ったのだからファーレンハイトは元からこれ以上の質問はしないつもりだったが、マスターTから切り上げを促されたので、このまま続けていると彼にとって都合の悪いことがあったのではないかと彼女は邪推してしまう。
マスターTはマスターBに一礼する。
「ありがとうございました、マスターB。後は私の方で……」
「え、ええ、良いのかしら?」
「はい。時期が来たら全て話そうと思います。その判断は私に任せてください。行こう、ファーレンハイトくん」
彼はファーレンハイトに退室を促す。
ファーレンハイトは本当にそんな時が来るのかと怪しみながらも彼と一緒にマスターBの部屋から出た。
「失礼しました」
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