明かされる秘密 2
マスターBの部屋に入ったマスターTとA・ファーレンハイトは、それぞれ椅子を用意されて腰かけた。
室内には三人の上級エージェント――A・モル、A・ダルトン、A・ボーアがいたが、マスターBの指示で全員一時的に退室させられた。
この場には三人だけになり、マスターTはマスターBに謝意を表す。
「すみません、お手数をおかけして」
「構いません。それで、何から話しましょうか?」
マスターBはファーレンハイトに顔を向けて、真っすぐ見詰めながら尋ねた。
いきなりのことに彼女は慌てるも、自分の心に正直になって言う。
「全てのことを包み隠さず教えてほしいのですが……」
「全てと言われても困ります」
「では、あなたとマスターTの関係から」
マスターBは深く頷いた。
「おおよそ予想はついていると思いますが、私たち――私と彼とマスターCを含めた三人は、NAに所属していました。私たちは人類の未来のために……いえ、止めておきましょう。今となっては虚しいだけです。紆余曲折を経てNAは潰れ、行き場を失った私たちは組織を創りました。それが黒い炎です」
ファーレンハイトは問いを続ける。
「組織の理念とは何でしょうか?」
「一つは人道にもとる行いを挫くこと。もう一つは行き場のない者たちの居場所となること。だから組織はどこにも属しない。それだけは一貫して守ってきました」
マスターBの回答はよどみない。
本当に全て答えてもらえるのか、試しにファーレンハイトは答えにくそうな質問をぶつける。
「マスターAは何者なのですか?」
「NAが生み出した超人の一人です。NAは新しい人類、『超人』を量産しようとしていました」
「何のために?」
「難しい話になるのですが……現在の社会が抱える多くの問題を解決して、持続可能な新たな社会モデルを作るためです」
兵士として生み出されたわけではないのかとファーレンハイトは意外に思った。まさか身体能力だけで社会問題が解決するわけはないから、それは機能の一つでしかないということになる。
彼女は超人の存在によって具体的にどんな問題がどう解決するのかは聞かなかった。義務教育以外には戦闘に関することしか学んでいない彼女は、社会問題にあまり関心がないのだ。
「A・ルクスもその超人なのでしょうか」
「はい。NAの研究資料を持ち出した何者かによって、NAとは別の研究機関で生み出されました。その組織はもうありません。私たちが潰しました。A・ルクスが唯一の生き残りです」
「他にも超人がいる可能性は?」
「分かりませんが、他にいても不思議ではありません」
マスターAとA・ルクスの正体を知ることができて、ファーレンハイトの心は少し落ち着いた。あの人間を超越した動きは、NAという天才集団が生み出した「超人」のなせる業だったのだ。
まともに正面から戦える相手ではないという事実は変わらないが、少なくとも正体不明の怪人ではなくなった。
「マスターAが組織を抜けて血と涙に加わった理由は何でしょう?」
その問いにだけマスターBは答えあぐね、マスターTに視線を送った。
彼が小さく首を横に振ったのを確認してマスターBは目を伏せ、ファーレンハイトに答える。
「私が知りたいくらいです。……本当に分からないの。彼は私たちに何も言ってはくれなかった」
彼女は本当に何も知らないようだった。だが、全然心当たりがないわけでもないように見える。
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