明かされる秘密 1
C国での任務が終わった三日後のこと、いつもの部屋でマスターTは自らA・ファーレンハイトに話しかけた。
「ファーレンハイトくん、大事な話がある」
「何でしょうか?」
いかにも改まった態度で言われたものだから、ファーレンハイトは緊張する。
表面上は平静を装いながらも、今度は何の話だろうか、また異動を勧められるのではないかと心の中で心配する彼女に、彼は告げる。
「このまま秘密を抱え続けるのは良くないと思って。とりあえず私についてきてほしい」
マスターTはおもむろに席を立ってスーツの上着とマントを羽織ると、ドアの前で立ち止まった。そしてファーレンハイトが続いて席を立ってついてくるのを待つ。
「どこへ行くんですか?」
「マスターBの部屋だ」
ついに今まで秘密だったことが明かされるのかとファーレンハイトは興奮した。知っていようが知っていまいが任務の遂行に支障はなかろうとも、やはり何も知らされないままというのは気分が良くない。
彼女はようやく彼に信頼してもらえるようになったのかと嬉しくなる。あるいは彼女に自分を信頼してもらいたいという彼の気持ちの表れなのかもしれない。どちらにしても彼女にとっては喜ばしいことだった。
◇
マスターBの部屋まで移動する道すがら、マスターTはA・ファーレンハイトに尋ねる。
「この間の私と博士たちの話、どこからどこまで聞いていた?」
「全部です」
「全部か……」
ファーレンハイトは迷わず答えたが、全くしょうがないというような彼の反応を見て、何か不都合があるのかと気にかかった。
「……全部話していただけるんですよね?」
「できるだけ話そうとは思っている。全部は無理かもしれない」
この期に及んでまだ隠すことがあるのかと彼女は不満を持つ。
そうこうしている内に二人はマスターBの部屋の前に着いた。
マスターTはファーレンハイトに向き直り、もったいつけて問う。
「念のために確認しておくけど、本当に良いんだね? 後悔しても遅いよ」
「えっ」
「……いや、早まったことを言った。気にしないでくれ」
びっくりして固まっている彼女を見た彼は焦って前言を撤回した。
気にするなと言われても、それは無理というものだ。どれほど重大な秘密を知らされようとしているのかと、ファーレンハイトはあれこれ想像してしまう。
そんな彼女をよそに彼はドアをノックをした。
「どなた?」
「Tです。例のことでお話があります」
「どうぞ。鍵は開いています」
マスターBの許可を受けて二人は入室する。
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