明かされない秘密 1

 A・ファーレンハイトはマスターBとマスターTを交互に見て、次の質問を考えた。あらかじめ質問しておくべきことを整理する十分な時間をもらえば良かったと、彼女は今になって後悔する。

 行き当たりばったりで思いつくままに気になることを尋ねていては、うっかり聞くべきことを忘れるかもしれないし、答える方も大変だ。


「マスターTのことで知りたいことがあります……」


 彼女が二人の様子を窺いながら尋ねると、マスターBはマスターTと視線を交わす。そして控えめに答えた。


「私に答えられることなら」


 ここで本人に聞けとならないところが、闇が深いとファーレンハイトは感じる。


「マスターTだけが後から組織に加わったのはなぜですか? NAにいた他のマスターは組織の創設に関わっているのに、どうしてマスターTだけ……」

「それは単に彼の所在が分からなかったためで、深い意味はありません」

「本当に?」

「そんなことで嘘をついてどうしますか」

「どうして所在が分からなかったのですか?」


 マスターBは一瞬ではあるが、答えるのにためらいを見せた。

 正直に答えられない何かがそこにあるとファーレンハイトは直感して追及する。


「そもそもどうしてNAは潰れたのですか?」


 NAは暴走したために解体させられたとマスターTは言っていた。

 その暴走とは超人に関係することではないかと彼女は予想する。辞めた職員の所在が分からなかったのは、大きな混乱があったからではないか?

 自分の推測が当たっているか外れているか、彼女はただ静かにマスターBの回答を待った。


 マスターBは重い口を開く。


「原因は事故です。エネルギーを生み出す新技術の失敗により、NAは危険な計画を実行しようとしていると認識されて国際的な信用を失いました。NAに出資する国や企業は徐々に減っていき、最終的には研究を続けられなくなりました」

「その新技術とは……?」

「NAでの私はあくまで助手という身分でしたし、それとは違う分野の研究に参加していたので、詳しいことは……」


 マスターBが合間合間にマスターTに視線を送っているのをファーレンハイトは見逃さなかった。まだ話せない何かがあるのだ。


「超人を生み出す計画は関係ないのですか?」

「……ないこともないのでしょうが、数ある要因の一つにすぎないと思っています。主要因ではありません」

「あくまでエネルギーを生み出す新技術の失敗がNAの崩壊の直接的な原因だと、そういうことですか?」

「少なくとも私の認識では」


 ファーレンハイトは確証こそないが、マスターBは本当のことを言っていないと思った。

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