潜入任務 4

 その頃A・パスカルとA・バールはブラックジャックのテーブルに着いていた。

 調子づいて連勝しているパスカルの耳元でバールはささやく。


「パット、そろそろ負けなさいよ。勝ち続けてたら怪しまれる」

「すぐに手が読めて飽きてきたところだ。もう少し稼いだら止める」


 小声でやり取りする二人の元に、マスターRとA・ファーレンハイトが戻る。


「調子はどう?」


 マスターRはパスカルの背後から声かけながら抱きつき、彼の手の甲をトントンと指で叩いた。予定どおりにやるという合図だ。


「まあまあ良いかな? ツキが来てる。退屈してるなら、あっちのスロットマシンで遊んできたら? 右から二番目のが当たり台だよ。俺の勘がそう告げてる」


 A・パスカルはそう答えながら暗号通貨のチャージされたカードを差し出し、後方のスロットマシンに目をやる。


 これが今回の作戦の鍵だ。

 スロットマシンは全体の管理システムとリンクして、個別に確率を制御できるようにされている。それはカジノ全体の暗号通貨の流れを掌握するため、そして店の儲けを「確率どおり」にするための仕組み。

 そこを利用して暗号通貨のデータを預かる全てのシステムに有害なプログラムを送り込む。スロットマシンの機種は事前調査で把握済み。


 A・パスカルに言われたとおり、マスターRはA・ファーレンハイトを連れて、警備員からも監視カメラからも遠い、右から二番目のスロットマシンに向かった。彼女は自分ではやろうとせず、まずファーレンハイトにやらせようとする。


「F、ちょっとやってみない?」

「まあ、やれと言われればやりますが……」


 カジノで遊んだことのないファーレンハイトは気乗りしなかったが、指示どおりにカードを投入した。

 マシンはピコピコと派手な電子音を鳴らし、チカチカと画面を点滅させて彼女を歓迎する。

 彼女が「START」ボタンを押すと画面の中の三つのリールが高速で回転をはじめ、「STOP」ボタンを押すと左から順に自動で止まっていく。

 ……残念ながら絵柄は全く揃わず、何のおもしろみもなくカード残量がムダになった。


「続けて」


 マスターRに言われるまま、ファーレンハイトはボタンを押してリールを回し続ける。時々STOPボタンを押すタイミングを変えてみるも、一向に当たる気配がない。

 つまらない遊びだなと思いながらファーレンハイトはデータ上のマネーを失い続けた。目押しできるようにはなっていれば話は違ったのだろうが、そうなっていないので彼女の優れた動体視力も無意味なのだ。

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