潜入任務 3
さっそく4人は行動に移る。
A・パスカルはマスターRとA・バールを連れてルーレットのテーブルにつき、賭けをはじめた。
A・ファーレンハイトはパスカルの背後について周囲を警戒する。とくに怪しい動きをしている人物は見られない。問題なく作戦を実行できそうだと彼女は感じた。
マスターRは30分くらいパスカルの勝負の様子を見守っていたが、その内に退屈そうな表情をしてファーレンハイトの体を小突く。
「何か?」
「ちょっと来て」
彼女はファーレンハイトを連れて関係者以外立入禁止のエリアに入り、そこで警備員が駆けつけるのを待った。ここまでは予定どおり……。
だが、待っている間マスターRは好色そうな目で、緊張しているファーレンハイトの体を優しくなで回し、壁際に押しつける。
予定にない彼女の行動に、ファーレンハイトは驚いた。それは恐怖に近い感覚だった。いくらマスターでも、たとえ自分より小柄な女性でも、許容できないことがある。
「な、何をするんですか!?」
動揺するファーレンハイトの耳元でマスターRはささやく。
「何ってバカップルの真似だよ。あくまで真似だから安心しなさい。私はノンケだ」
そう言いながら彼女はドレスをはだけ、ファーレンハイトにすがりついて太腿から股間かけて指先をしなやかになぞらせる。
「ちょちょちょ、どこまでやるんですかっ!?」
ファーレンハイトは声を抑えて監視カメラに目をやりながら必死に止めた。あからさまに待ち伏せしていると思われないように、隠れて楽しんでいるカップルになりきって油断を誘おうとしているのは理解できても、そこまでする必要があるのかと焦る。
「ああ、見えないところに行こう」
ちらりと監視カメラに視線を送ったマスターRは、ファーレンハイトを連れてカメラの死角になる物陰に移動した。彼女はその場に屈み込むと、ハンドバッグの中から化粧品に偽装したマイクロUSBと小型ジャマーを抜き出す。
さっきの行動は本当にただの演技だったのだと、ファーレンハイトは心の底から安堵した。
ちょうどそこに警備員の足音が聞こえてくる。
「あのクソカップルめ、どこに行きやがった……」
不満を吐きながら近づいてくる彼をファーレンハイトは息を殺して待ち受ける。彼女は足音でタイミングを計り、相手の影が見えた瞬間に頸動脈を狙って貫手を入れ、一撃で気絶させた。そして倒れる前に物陰に引きずりこむ。
マスターRは口笛を吹いて感心しつつ、すぐに警備員の服をまさぐって持ち物を奪い、ハンドバッグにしまう。
イヤホン、小型マイク、オートマの9mm拳銃。その中から彼女は拳銃だけA・ファーレンハイトに渡した。
「はい、これ」
銃を受け取ったファーレンハイトは素早くそれを上着の内ポケットに隠す。銃を持てば彼女は百人力だ。
さらにマスターRは警備員のポケットから取り出したハンカチに、香水に見せかけた液体の麻酔薬を染み込ませると、彼の鼻に被せてすぐには目覚めないようにした。最後に彼女は立入禁止エリアの奥に積み上げてあるダンボール箱に向かって、小型ジャマーを放り投げる。
ジャマーは箱と箱の隙間に落ちて見えなくなった。
「これで良しと。5分後にジャマーが発動する。それに合わせる」
マスターRの言葉にA・ファーレンハイトは無言で頷く。
二人は何もなかったかのように、カジノホールに戻った。
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