A・ルクス 1

 A・ファーレンハイトがマスターIと勝負をした翌日の夕方、喫茶店で一息ついている彼女にA・ルクスが話しかけてきた。


「A・ファーレンハイト、話があります」

「どうしたの、A・ルクス?」

「少し付き合ってくれませんか」


 ルクスの目は明確な敵意に満ちており、この時点でファーレンハイトは嫌な予感がしていた。

 気乗りしない様子の彼女にルクスは強気に提案する。


「一対一の戦闘訓練をしましょう」

「どうして?」

「どちらが優秀かはっきりさせたいと思って」


 これはマスターIが絡んだことに違いないと、ファーレンハイトは察した。


「私はマスターTの下を離れるつもりはないから……」

「そんなことはどうでも良いんです。マスターIが高く評価するあなたの実力が、どれほどのものか私は知りたい」

「……身体能力ではあなたの方が上なのに、今さら何を知りたいの?」


 訓練生時代から体力測定でも格闘訓練でも、A・ルクスに並ぶ者はなかった。戦闘訓練をしたところで、まともにやり合えば彼女が勝つのは目に見えている。

 体格はファーレンハイトが一回りどころか二回りくらい大きいが、ルクスは小柄で細身な外見からは想像もつかない底知れない力を秘めているのだ。

 実際にファーレンハイトは彼女と手合わせしたことはないが、ルクスは技術以前に力と速さで他の訓練生を圧倒していた。どんなに力自慢の男子でも、彼女には勝てなかった。未成熟な状態でそうだったのだから、成長した彼女はさらに強くなっているだろう。

 負けると分かっている勝負をする気はファーレンハイトにはなかった。

 そこでルクスは不敵な笑みを浮かべて言う。


「あなたは射撃が得意なんですよね? 銃を使っても良いですよ」

「さすがに銃を使うのは……」


 ファーレンハイトは同じ組織で働く仲間に銃を向ける気はなかった。

 困った顔をする彼女をルクスはさらに挑発する。


「お得意の銃を使っても勝てないと?」


 最も自分が信頼して自信を持っている射撃の腕を貶されては、ファーレンハイトは黙っていられない。先日それが原因で失敗したにも関わらず、彼女はルクスの挑戦を受けた。


「分かった、受ける。後悔しないでね」

「後悔なんかしませんよ。勝つのは私ですから」


 ルクスは余裕の笑みでファーレンハイトを煽り、アリーナに移動する。

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