初めての任務 2
A・ジュールは後ろのA・ファーレンハイトを一顧だにせず、足場の悪い林の中をまるで平地のように速く駆ける。
ファーレンハイトは懸命に彼についていった。
やがて二人は林の奥で動く人影を発見して、一度足を止める。
白っぽい病衣のような服を着た大柄な成人男性に見えるが、薄暗さと障害物のせいではっきりとは分からない。距離はおよそ30m。
グラスの視覚情報処理機能も動くものを正確にマークしている。
「あれがターゲットだ。これから威嚇射撃しながら追い立てる」
そう説明しつつ、A・ジュールはアサルトライフルを構えて発砲した。
音に驚いた人影は振り返りもせず、もの凄いスピードで逃げ去る。その俊敏さはまるで野生の獣のよう。
ジュールはその後を追い、威嚇射撃を続ける。
ファーレンハイトは彼について走りながら、どうしてわざと狙いを外さなければならないのかと解せない気持ちでいた。
ターゲットを始末するのが目的なら、当てれば良いではないかと彼女は単純に考えていた。
「どうして当てないんですか?」
「こんな距離から、しかもあのスピードで逃げる相手に当てられるわけないだろ!」
彼女の疑問に、A・ジュールは強い口調で言い返す。
しかし、彼女にはできるのだ。全力疾走していようが、狙いを外すことはない。
「私が撃っても良いですか?」
「当てられるものならな!」
強気なA・ファーレンハイトの発言を、ジュールは本気にしなかった。
彼女は走りながら拳銃を抜いてターゲットに向け、素早く発砲する。
慎重に狙うと逆に当たらないので、走るリズムにタイミングを合わせて、感覚で撃つのだ。喉に張りつく冷たい空気も忘れるほどに集中して。
バン、バン、バンと立て続けに発射した三発全弾がターゲットに命中した。
さすがにトドメを刺すまではいかなかったが、ターゲットの動きが少し鈍る。
「嘘だろ!?」
ジュールは目を見張って驚いた。
ファーレンハイトは発砲を続け、ターゲットを追いつめていく。
若木を払い、斜面を上り下り、倒木を飛び越え、ターゲットとの距離は10mほどに縮まっていた。
(……おかしい。タフすぎる)
彼女は奇妙に思った。
ターゲットは体のあちこちに十発以上も銃弾を浴びているのに、まだ逃げ続けている。銃弾を受ければ怯むのだが、ただそれだけで足が止まったりしない。追いつきそうで、なかなか追いつかない。
まるで巨大なクマを追っているような感覚。
(本当にクマだったり……)
銃弾を撃ち尽くしたA・ファーレンハイトは、リロードしようと一度銃を下ろした。
その一瞬の隙に、それまで逃走していたターゲットが急に反転する。
「危ない!」
A・ジュールがファーレンハイトを突き飛ばし、飛びかかってくるターゲットに向けて銃を乱射する。
その時初めてファーレンハイトはターゲットの正体を見た。――それは人の形をした獣だった。
人の服を着てはいるが全身毛むくじゃらで、身長は2m以上もある。五指の先には鋭い爪が生えており、牙が生えた口は耳元まで大きく裂けている。
信じられないことに、その人の形をした獣は銃撃をものともせずジュールと格闘している。
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