初めての任務 3

 A・ファーレンハイトは目の前の光景にも怯まず、すぐに立ち直ってA・ジュールを援護すべく奇怪な人型の獣に向かって発砲した。

 まず目玉を狙うが、動きが激しい上にA・ジュールが近くにいるので、なかなか当てられない。獣が手をかざしただけで、たやすく防がれてしまう。

 わずかに狙いの外れた弾が額・顎・喉に当たっても、全く効いている様子がなく、ただ恐ろしい唸り声を上げるだけ。

 彼女は腹・腕・脚の弱そうな場所に狙いを変えたが、何発食らわせても獣は倒れない。もっと威力の大きい銃があればと、彼女は悔しがる。

 ジュールはアサルトライフルを杖のように使い、何とか獣の攻撃をいなして凌いでいるが、力の差が大きすぎて防戦一方だ。


 二人だけではどうしようもないとファーレンハイトが思った、まさにその瞬間……獣の首が宙に舞った。

 タフだった獣も首を飛ばされては、どうにもならなかった。赤い血をまき散らし、巨体が崩れ落ちる。

 ファーレンハイトとジュールは血しぶきを避けて後退する。


「二人とも大丈夫か!?」


 駆けつけたのはマスターTだった。

 彼はファーレンハイトよりも先にジュールを見て心配する。

 ジュールは銃弾にも耐えるはずの戦闘服をずたずたに引き裂かれ、体の各所から出血していた。


「ジュールくん、血だらけじゃないか!」

「いや、この程度は平気です。致命傷は避けていましたから」

「うーむ、さすがはマスターDの教え子だ。でも早く戻って手当てを受けた方が良いよ」

「そうさせてもらいます。お先に失礼します」


 A・ジュールは足早にその場を去った。本当に重傷ではないようで、足取りはしっかりしている。

 彼を見送ったマスターTは、次にA・ファーレンハイトの方を向く。


「ファーレンハイトくんもケガはないか?」

「はい、A・ジュールのおかげで何ともありません。あの化け物の首をはねたのはマスターT……ですか?」


 彼女の質問にマスターTは一つ頷いた。


「ああ」

「何をしたんですか?」

「……それは企業秘密だ。とにかく無事で良かった。君も先に車に戻っていてくれ。私は死体を処分する」


 マスターに秘密と言われてしまうと、ファーレンハイトはそれ以上何も聞けないが、立ち去る前にもう一つだけどうしても知りたいことがある。足元に倒れている怪獣としか表現できない生物のことだ。

 戦っている最中は自分たちの何倍もの大きさに見えていたが、冷静になって観察するとそこまで大きくはない。

 胴体から少し離れた所に落ちている大きな毛玉のような首を見ても、人に近いであろう何かということしか分からない。雪男やビッグフットのようなUMAだと言われても、今の彼女は否定できない。


「その化け物は何なんですか?」

「今は教えられない。この先も教えられないかもしれない」


 マスターTと何度も任務をこなしているはずのA・ジュールも、ターゲットの正体は教えられていない。

 今日初めて任務に参加したばかりの自分には、なおさら教えられないことなのだろうとファーレンハイトは自分を納得させた。


 ……マスターTは明らかにターゲットの正体を知っている。知っていて、話せないのだ。

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