第13話 海に行こう


 「ねぇねぇ! 今度海に行かない?」


 「海か。構わないが、急にどうした?」

 

 「せっかく仲直りしたんだから、記念に何か楽しい事したいなぁーって。――ダメ?」

 

 場所は魔王城。

 椅子の前に、互いに背中を合わせて座る二人がいる。

 クロヴァンスの部屋にて、二人は何やらお話し中。

 ケンカしてから数時間で距離が縮まり、告白まで至り仲直り。

 そんなに早く仲直りできるものなのかと思うだろうが、意外とできてしまうのがこの二人で、この物語なのだ。


 「ダメ・・・・・・じゃない――ぞ?」


 「良かった! じゃあ、明日はどう?」


 「ずいぶんと急だな? まぁ特に用事もないから明日でもいいぞ」


 「じゃあ、これから支度しなきゃね! 水着を新しくして、お弁当作って、それから・・・・・・」


 「なんか楽しそうだな。はしゃぎ過ぎるなよ? 間違っても――」


 「分かってる。今呼びあってる名前しか言わないわ。それでも気づかれないと思うけどね」


 「それならいいが・・・・・・。今さら関係が壊れるのは御免だ」


 「・・・・・・そうね。私も嫌――だよ」


 背中を合わせているからお互いの表情は分からないが、声はよそよそしい。

 預けあっている背中からは心臓の大きな鼓動が伝わってくるから、どういう気持ちかは二人とも分かっていた。


 「――準備、するか?」

 「うん。――きゃっ!」

 「すまん! 大丈夫か!?」


 クロヴァンスが勢いよく立ち上がったから、もたれ掛かっていたリナリアは仰向けに倒れる。


 「いきなり立ち上がらないでよー」


 「悪かった。ほら」

 

 仰向けのまま、文句を言うリナリアに手を差しのべ立ち上がらせる。


 「ありがと。さっ、準備始めるわよ」


 「あぁ。そうしよう」

  

 「そうだ。キッチンはここを使わせてもらうからそのつもりでね。それと転移魔法もお願いね。ここからだと海まで遠いし、それに荷物はあなたが持つからいいとして・・・・・・あとは――」

 「魔族使いが荒くないか? リナリアよ」

 「そう? でも私は転移魔法は使えないし、荷物をもつのは男の役目だし、私はお弁当作らなきゃいけないから大変なのよ?」

 「強制的になっているものがないか?」

 「そう? まぁ気にしない気にしない。早く行きましょ」


 そんな会話しながら二人は街へと向かう為、城を出発する。


   ~街へと向かう道中~


 「やはり魔族使いが荒い気がする。荷物は半分ずつ持たないか?」

 「そういう力仕事は男の役目って遥か昔より決まってるの。よって私は荷物は持てませーん!」

 「なんだその言い伝えは? 初めて聞いたぞ!?」

 「その変わりにお弁当はちゃんと作るから期待していいわよ」

 「そ、そうか。それならまぁ――とはならんぞ! ここは互いに協力しあった方がやはり・・・・・・」

 「じゃあ、クロは料理できるの? そこまで言うなら私の方も手伝ってもらわないと――」

 「荷物は任せろ。力なら有り余っているからな」

 「分かればいいのよ。頼りにしてるからね、クロ」

 「さりげなく略すな。まったく」


 道中の会話はこんな感じで、つくづく仲の良い二人だ。

 多分、新たな世界を創っちゃうと思う。

 それはそれでいいのかも知れない。

 

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