第12話 オーロラ


 月明かりに照らされた山道を一人歩くリナリア。

 時折ときおり吹く風が木々の枝を揺らし、ザワザワと葉の擦れあう音がやけに大きく聞こえる。


 「何か出てきそうな雰囲気・・・・・・。夜の山ってなんでこう不気味なのよ――ひぃっ!?」


 突如後ろからガサガサと音が聞こえ、ビクッと肩をすくませ、恐る恐る音の聞こえた方を見る。


 「お化け・・・・・・じゃないよね?」


 じっと音の聞こえた方、茂みを見つめる。

 やがてそこから出てきたのは一匹の野うさぎだった。


 「なんだ、うさぎか~。ビックリしたなぁ~、もう」


 クロヴァンスと別れ、夜の山道を歩くが、やはり怖いようだ。

 を捨て、勇者になったが怖いものは怖い。

 

 「やっぱ戻ろっかな。一人で行っても意味ないし」


 元々、クロヴァンスと二人で来るはずが些細な言い争いによりクロヴァンスは帰ってしまった。

 しかし、戻ってもなんだか気まずい状況は変わらない。

 リナリアは魔王城の近くに住んでるし、多分鉢合わせになる。

 こういう状況になった後は、大体そうなる。


 「・・・・・・でもここまで来たし、せっかくだから頂上まで行こうかな。一人で見ても意味ないけど・・・・・・」


 結局、頂上を目指して再び歩きだす。

 

 歩く事数十分。

 ようやく頂上に着いた。

 山頂の空は雲一つなく、星が、月が見える。満月だ。

 地面に腰を降ろし、月を見上げる。

 

 「できれば二人で見たかったなぁ・・・・・・」


 独り言。

 つい、口を突いて出た台詞は夜の森に溶けるように消えていく。

 やはり一緒にはいられないのか?

 そんな事を考えてしまう。

 夜空に雲が掛かり、月は隠れ、周囲は薄暗くなっていく。

 やっぱり帰ろう。そう思って立ち上がろうとした時だった。

 

 「一体何をみたいんだ?」


 「ふえっ!?」


 突如聞こえた声に驚いた。

 その声は暗闇の中から聞こえ、思わず身構える。

 やがて、月に掛かった雲が晴れ、月明かりがリナリアともう一人を照らす。


 「ク、クロッ!?」


 「勝手に略すな。心配して戻ってみたが、無用だったな」


 「なに? 心配してくれてたの?」


 意外な言葉に思わず略してしまった。

 だけど、「クロ」っていいかもと思っている。


 「お前の身に何かあったら、お前の能力フツノチカラに影響が出るんじゃないか? そっちの方が心配だ」


 「心配してたのは能力フツノチカラの方なわけ?」


 ちょっと嬉しく思ったが、心配されてたのが能力フツノチカラの方だと聞き、ムスッとなった。


 「そんな事はない。少しはお前の身を案じていたぞ?」


 「ふーん。あ、そう」


 「そ、それよりも、だ。見たいものが見れたのなら帰るぞ。夜の山は危険だからな」


 「――まだ見てないって言うか、一人じゃ意味ないし」


 「一体何が見たいんだ?」


 「じゃあ教えてあげるからついてきて。ここまで来たんだから、まさかこれないとは言わせないわよ?」



 クロヴァンスを連れて山頂のもう少し奥の方へ、深い森の中を歩いていく。

 リナリアはクロヴァンスがなんでここまで来たのか疑問に思いながらも、黙って歩く。

 理由はたぶん、聞かない方がいいと思っていたからだ。


 「着いたわ」

 

 「おぉ・・・・・・。これは――」


 二人が森を抜け、開けた場所へと着くと、空にはオーロラが現れていた。


 「オーロラはね、恋人と一緒に見るとその人と一生を添い遂げる事ができるっていう伝説があるの。これをあなたと見たかった」


 「そうか」


 「そうよ。ねぇ。どうして急に戻って来たの?」


 さっきからずっと疑問だった事。

 あれだけの文句を言って途中で帰ったのに、戻って来た理由がわからなかった。

 

 「さっきも言っただろ。お前の能力フツノチカラが無くなったら、正体がばれてしまう。今さらお前と戦うつもりはない。それに・・・・・・」


 「それに?」


 「この辺りの山は野生動物が出たり、山賊がいるらしいからな」


 「じゃあ心配してくれたんだね」


 「だからそうだと言っただろ」


 ふふっと笑い、再び空へと目を向けるリナリア。


 「あっ、それとね。オーロラには"死者の世界と生者の世界を繋ぐ扉"っていう言い伝えもあるの。もし、私が先に死んじゃっても会えるかもね」


 「滅多な事を言うな!」


 語気を強めるクロヴァンス。


 「私は人間だよ? で、あなたは魔族。寿命が違うから私が先に死んじゃうのは当たり前よ? だから、オーロラを見たかったの。最期の時まであなたと一緒にいたい。種族が違っても想い合う気持ちは間違ってない」


 「リナリア・・・・・・」


 「私はあなたが好きよ、クロヴァンス」


 「んっ、――なんだ、その・・・・・・。なんだ――、だから・・・・・・。わかった」


 「何がわかったのか言いなさいよ・・・・・・。私にだけ言わせるとかズルい」


 「勝手に言ったのはリナリアだろ。・・・・・・失いたくない。この気持ちが、す――好き、というものならお前と同じだ」


 「ちゃんとはっきり言いなさいよーっ!」


 返事を聞こうとクロヴァンスに詰め寄るリナリア。

 クロヴァンスの顔は赤く、耳まで赤く染まっていく。


 「す・・・・・・す、すす好き、だ――」


 「うん、よく言えました! ありがと。ふふっ」


 二人はきっと最後まで一緒にいる。


 "死が二人を別つ" その時まで。

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