第11話 ケンカ


 ラトヤックの街を後にしたリナリアとクロヴァンスは何もない道を歩いていた。

 リナリアが最後に行きたいと話した場所に向かうためだ。


 「リナリア、いつまで歩くのだ?」


 「うーん、もう少し歩くかな。ほら、目の前に見える山。あそこまで歩くよ」


 「正気か?」


 「もちろん」


 リナリアが指差した山がうっすら遠くに見え、山を見たクロヴァンスは「転移魔法を使った方が早いぞ?」、と提案するも「それじゃダメッ!」とリナリアに却下された。

 太陽が一番高い位置にある時間。

 まだ全然明るいとはいえ、遥か向こうに見える山まで歩くとなれば、多分着く頃には日が暮れている。


 「はぁ・・・・・・」


 明らかに嫌な顔をし、溜め息をつくクロヴァンスを尻目に歩みを進めるリナリア。


 「リナリア。そろそろ転移魔法を――」


 いい加減歩き疲れたクロヴァンスは転移魔法の使用を提案するが――、


 「だからダメだって言ったでしょ! いーから歩くの。時間はあるんだから」

 

 やはり即、却下。


 「何でこんな目に遭わねばならんのだ・・・・・・」


 「文句言わないでちゃんと歩くの」


 目的地はまだ遠い。

 

 ◇◇◇


 「着いたわ。ちょうどいい時間ね」


 「そうだな。・・・・・・すっかり日は暮れたがな」


 目的地に着いた時には夜だった。

 街を出たのが大体昼頃で、空には星が見えている。

 

 「リナリア。ここに何の用があるんだ?」


 「うーんと、ちょっと待って――、えーと・・・・・・」


 空を見上げ、何かを探すリナリア。

 ここまで歩かされ、一体何があるのか?

 クロヴァンスもつられて空を見るが、星以外に何もない。


 「・・・・・・さっきから何を探している? 星以外何もないぞ?」


 徐々に不機嫌になり始めたクロヴァンス。

 滅多な事では怒らない彼だが、今は若干イラついている。


 「もう少し上の方かなぁ?」


 そう言うとリナリアはまた歩き始めた。

 二人が着いた山にはまだ先があり、今は中腹辺り。

 それでも見晴らしは良く、遥か先には街の明かりらしき物も見えている。


 「おい。いい加減にしろ。何もないなら帰るぞ?」


 語気が強まるクロヴァンス。

 

 「山の頂上まで行ってみる。多分そこじゃないと見えないと思う」


 「ならば一人で見に行ってくればいい。俺はここまでだ」


 リナリアに背を向け、もと来た道を戻りだそうとするクロヴァンス。


 「ちょっ!? 何言ってんの! あなたが来ないと意味ないのっ!」


 「俺にとってはこの時間が無意味だ」


 「無意味って――!? じゃあいいわよっ! そんなに帰りたいなら帰れば!? 私は一人で行くから!!」


 「そうだな。そうさせてもらう」


 クロヴァンスはもと来た道を戻りだす。

 リナリアは一人山頂に向かう為歩き始める。

 三歩進み、四歩目になろうとした時、不意に振り返ったリナリアだが、クロヴァンスの姿は見えなかった。

 

 「クロヴァンスの――バカ」

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