第10話 名前


 カフェを出て街の中心、噴水広場のベンチに座る二人。

 改めて自己紹介というわけだ。


 「クロヴァンス。それが俺の名前だ」


 「リナリア。私の名前よ」


出会ってからそれなりの時間を過ごしてきた二人だが、今日初めて本当の名前を知った。


 「クロ――ヴァンス・・・・・・」

 

 恐る恐る名前を口にするリナリア。

 クロヴァンスも『リナリア』と呼ぼうとしたが、思い止まっていた。

 クロヴァンスは周囲を見渡し、広場にいる人の顔を見る。

 リナリアが自分の名前を口にしたが、果たして本当に大丈夫なのか。

 それを確認するためだ。


 しかし名前を呼んでも周囲にいる人達はなに食わぬ顔をしている。

 心配は杞憂に終わったようだ。

 

 

 「じゃあ改めて。よろしくね・・・・・・。

――クロヴァンス」


 「あぁ、こちらこそ。――リナリア」


 名前を呼ぶのがまだぎこちない二人。

 それでもリナリアが微笑むと、つられてクロヴァンスも笑顔になる。

 

 「クロヴァンス。この後何処に行きたい?」


 「特にない。リナリアはないのか?」


 「それなら最後に行きたい場所があるんだけどいい?」


 「構わない。どこに行くんだ?」


 「それは着いてからのお楽しみってことで。行こう、クロヴァンス」


 クロヴァンスの手を取り、引っ張って歩くリナリア。

 そして、二人は街を後にするのだった。

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