第8話 秘密
あの後、勇者は一人で橋を渡った。
ラトヤックの東街から西街に架かる橋の噂を試すべく、手を繋いで渡ろうとするも、橋の真ん中で手を離してしまった。
魔王が『勇者』と呼ぼうとした時、咄嗟に両手で魔王の口を塞いだのが原因。
勇者は魔王に秘密にしている事があり、それをいつ話すべきか、勇者は悩んでいた。
「早い方がいいわよね? うーん――、でもやっぱり最後まで言わないほうが・・・・・・」
と、ブツブツと下を向きながら、呟きながら歩いていると、肩を捕まれた。
驚いた勇者は顔を上げ、歩くのを止めた。その直後、目の前を馬車が通る。
「ぼーっとしていると怪我をするぞ? 気を付けろ」
「ごめんなさい。考え事してたらつい。ありがとう」
肩を掴んだのは後ろを歩いていた魔王だった。
危ない所だったが、寸での所で魔王に助けられる。
ここで怪我をしたら、そこで今日のデートは終わり。
勇者にとって、それは避けたい事だった。
ふぅーっ、と軽くため息をつき、胸を撫で下ろす勇者。
ふと、前を見るとカフェの前にいた。
勇者が下調べをした場所だった。
「ねぇ、次はあの店に行きましょう?」
目の前のカフェを指差す。
「ああ、かまわない」
二人はカフェへと向かう。
店の外には二人ずつ座れるようにテーブルと、椅子が二脚置かれている。
布製の屋根が上に張られたテラス式のカフェ。
「何食べる?」
「そうだな・・・・・・」
ここのカフェは食べ物が提供されている。
他のカフェは別の場所で食べ物を買い、持ち込んで食べる、といった形式。
「どれも知らない食べ物だ。何を選べばいいかわからん」
メニューとにらめっこをする魔王を見かねて、勇者は自分と同じものを薦めてみる。
「私と同じクラップフェンにする?」
「くらっぷふぇん? よくわからないが、お前が薦めるなら食べてみよう」
「じゃあ決まりね。すいませーん、注文お願いしまーす」
「ご注文は?」
「クラップフェンを二つ下さい。ジャムはアプリコットとオレンジで」
「かしこまりました。お待ちください」
注文を受けた店員が店の奥に消えていく。
料理が運ばれてくるまで、時間がある。
「「・・・・・・」」
特に話すことがないのか、沈黙する二人だが、先に沈黙を破ったのは魔王だった。
「聞きたい事がある。さっきの橋での事だ」
「あー・・・・・・。手を繋いだ理由、とか?」
魔王から目を背ける勇者。
「それもあるが、それよりもだ。俺の口を塞いだ理由はなんだ?」
橋での出来事。魔王は勇者が取った行動の意味を聞いてきた。
「お前は名前を言うなと言ったな? 何故だ?」
「・・・・・・」
勇者はうつむき、黙りこむ。
しかし、その沈黙が勇者に覚悟を決める時間を与えた。
そして口を開き、こう言った。
「私達はこの世界には存在していない。そう言ったら、あなたは信じてくれる?」
勇者は隠していた事を語り始める。
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