第7話 橋の真ん中で叫ぶ
私達が来ているラトヤックという街は川によって東と西、二つに分けられた街。そして互いの街に行くために橋が架かっている。
橋の長さは約五百メートル。高さは十メートル程。橋の幅は五メートル。
街には様々な店があって、私達が今いるのはラトヤック東街。装飾店や雑貨店などが多くあるエリア。で、これから向かうのがラトヤック西街。ちょっと休憩しようとそこにあるカフェに行くつもり。東街にもあるんだけどちょっと訳あって西街を選んだ。まぁ、街っていうより橋に用があるんだけどね。
「ねぇ。手、繋がない?」
「構わないが、急に何故だ?」
「いいから! 手、出して!」
渋々左手を出す魔王。
その手を右手で掴み、手を握る。
そういえば今まで手を握った事ってなかったっけ? 魔王がどんな顔をしてるのか見てやろうっと。
横目でチラッと一瞬見る
(あ、頬が少し赤い、かも)
って事は私のことをちゃんと女の子として意識してるってこと? ・・・・・・照れるじゃん。
ちなみに今から渡る橋には、こんな噂がある。恋仲同士の男女が手を繋ぎ、離すことなく橋を渡りきると永遠に結ばれる、という噂。
実は下見の際にしっかりここも見ている。
魔王と結ばれたい――、だなんて思ってない。しかし、女の子はこういうのに弱い。すぐ信じちゃうし、とりあえず試してみたくなるし、試したい。
何度も言うけど別に結ばれたいわけじゃないよ?
「他にも俺達と同じ様な事をしながら渡っているが、何故だ?」
よく見れば周りには私達と同じ様に手をつないでいる男女がいる。
噂はホントみたい。
これは期待できる、うんうん。
手を繋ぎ、橋の半分まで来た。
あと半分。もう少しで永遠が――。
「聞いているのか? ゆう――んぐっ!?」
咄嗟に反応した。
魔王が名前を言う前に、両手で魔王の口を塞ぐ。
「ダメッ・・・・・・。今日は名前は呼ばないで・・・・・・お願い」
私の行動に口を塞がれたままの魔王はじっとしている。
突然の出来事に驚いているみたい。
そっと魔王の口から手を離す。
「・・・・・・すまない」
とりあえず謝る魔王。
魔王は私がこの行動をとった意味が分かっていない。
これもまだ、分からなくていい。
いつか話す日が来るまでは・・・・・・。
それよりも気を取り直そう。
この後もあるんだから。
「私の方こそごめん。さっ、行こ。あと半分で橋、終わりだから」
ぱんっと両手を合わせ、笑顔を見せながら・・・・・・ん? あれ?
ふと自分の両手に目をやる。
手、離しちゃった・・・・・・。
離しちゃったぁあああーーー!!
「しまったぁぁぁ! あと、半分だったのに・・・・・・」
咄嗟の事とはいえ、手を離してしまうなんて・・・・・・、しかも両手。
せめて右手は握っとけよ! 私!
「いいわよっ! 噂なんかに頼らないもんっ!」
橋の真ん中でそう叫ぶのであった。
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