第6話 魔王の意外な一面


 「あ、これかわいい! こっちのアクセサリーもいいかも!」


 場所は街中にある装飾店。

 服を買ってあげた魔王と歩いてたら、店先に並んでいる商品に目がいってしまい立ち寄る事に。

 

 「ねぇねぇ! これかわいいと思わない?」


 私はひとつの商品を手に取り、魔王に見せる。


 「バングルか。ちなみにかわいいとは具体的にどの辺がそうなのだ?」


 魔王は私が手に持つバングルを見て、また眉を八の字にしながら聞いてきた。

 バングルはガラス製。

 色は薄い緑色で、真ん中には白い石がはめ込まれている。

 手首にはめるにはちょうどいい大きさで、それほど主張してるわけでもない。さりげなく手首を飾るちょっとしたおしゃれアイテムとしてはいいじゃん。かわいいじゃん。


 「これのかわいさがわからないなんて、まだまだね」


 「悪かったな」


 私は腕組みをしてふてくされる魔王を後目に、他の青色や黄色等のカラーバリエーションがあるバングルを眺め続ける。

 

 「嬢ちゃん気に入ったかい?」


 装飾店の店主が店の奥から出てきた。


 「そいつは見ての通り、ガラス製なんだ。それを同じ手首に付けて触れあった時、まるで鈴の様な音がなるんだ」


 「へぇ~」


 「試しにはめてみるかい?」


 「えっ、いいの!?」


 「あぁ、好きな色を選びな。後ろのにいちゃんもどうだい?」


 装飾店の店主が後ろでキョロキョロしている魔王にも勧める。

 魔王に勧めても、「ただのガラス細工だろ?」って言うに決まってる。

 お客の選択間違ってるよ、店主。

 というか魔王はこういうのに興味ないような気がする。


 「そうだな。試してみよう」


 ウソ!? 魔王が興味を示した!? 

 思わず魔王の方を振り向く。

 

 「これと、これにする」

 

 そう言って魔王は無作為に二つ選ぶと、それを左手首にはめ、軽く上下に腕を振る。

 触れあったガラス製のバングルから、チリーン、と甲高い音が鳴った。

 

 「うん、悪くない」

 

 魔王は手首にはめたバングルを見て微笑んだ。少なくとも私にはそう見えた。

 

 「ん? どうした。もしかして付け方間違っているのか?」


 「――ううん。合ってる」


 「そうか。なら良かった」


 魔王の微笑んだ表情なんて初めて見たからじっと見てしまった。

 それにしても魔王がこういうのに興味を示すとは思わなかった。

 宝石ならまだしも、ただのガラス細工(店主には悪いけど)を手に取るなんて。しかもなんか気にいってるみたいだし。


 「店主。このバングルはいくらだ?」


 「えっ、買うの?」


 またしても意外! 買っちゃうの?


 「俺は欲しいものは手にいれる。

そうだ、服のお返しに好きなのを二つ選べ」


 「え、いいわよ。自分で買うし」


 しかも二つって。――あ、バングルの特徴だからか。


 「俺は誰であろうと受けた恩は返す。さぁ選べ。遠慮するな」


 「義理堅いのね。じゃあ・・・・・・」


 そういう事ならと、私はバングルを二つ選び、魔王にはバングル二つ分の代金を支払ってもらった。

 「毎度あり」と店を後にする私と魔王を見送る店主。

 私は右手首にバングルを、魔王は左手首にはめる。

 歩く度に、チリーン、チリーンと鳴るバングル。

 私は右手首のバングルに視線を落とし眺めながら「ありがと」と、お礼を一言。

 それを聞いた魔王は「気にするな」と返す。


 「ふふっ」


 「どうした?」

 

 「なーんでもないわ。さっ、次行くわよ」


 

 




 


 

 

 


 


  

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