第4話 悪くないな


 「この服なんか似合うんじゃない?」


 「人間の服はよくわからん。お前に任せる」


 魔王城で身ぐるみを剥がされ、街へと連れ出された俺は勇者と服を売っている店に来ている。

 どうにも俺の格好が気に入らないらしい。


 「ねぇ、これなんかどう?」

 

 立て続けに服をあてがってくる勇者。「あ、これ似合うんじゃない?」、「あ、こっちも良いかも!」と。

 人間は服飾にここまではしゃぐのか。

 「ねぇねぇ! この服どう?」


 「なんだその服は? ヒラヒラしているが、それを俺が着るのか?」


 勇者が見せてきたのは、下の方がヒラヒラして、俺が履いているズボンとは違う形をしている。上の方には腕を通す場所がある。

 

 「違うわよ。これ私に似合う?」


 俺の服を決めていたんじゃないのか。


 「何度も言うが、俺には人間の趣味嗜好はわからん。だからそれがお前に似合うかは判断できん」


 魔族には、服を着るという習慣はない。

 上半身裸のヤツもいれば、腰に布を一枚巻いているだけのヤツもいる。

 俺は魔王という立場上、身なりは整えているが真の姿になれば素っ裸になる。

 滅多にならんがな。


 「もー、こういう場合は嘘でもいいから『似合う』って言いなさいよ!」


 「・・・・・・似合う」


 「ウソね」


 勇者よ。さっき嘘でもいいからと言ったではないか。


 「まぁいっか。この服ちょっと高いし。今回は我慢ね」


 勇者は物欲しそうに手に持っていた服を戻した。


 「それよりあなたの服を決めないと――あっ、これいいんじゃない」


 そういうと勇者は、一着の服を俺の前に持ってきた。

 それは胸元が広く空いた白の服だった。

 「着てみてよ。彼処で試着できるから」


 そういうと勇者は小さな部屋を指差す。

 

 「何やら怪しい部屋だ・・・・・・。まさか俺を封印する為の部屋じゃないだろうな?」


 「そんなわけないでしょ。試着室っていって、服を試しに着れるの。ほら早く早く」


 言われるがまま勇者に背中を押され部屋の中に。

 中には大きな鏡があり、俺の姿が写っている。とりあえず鏡以外には何もない。


 「とりあえず着てみるか」

 

 俺は勇者から渡された服に腕を通し、次に頭を通していく。


 (多分これでいいはずだ)


 素材こそ違うが見ためは鎧に似ている。ならば着方は同じはずだ。

 下の広く大きく開いている所から腕を通し、二つの小さな場所から腕を出し、頭を服の中に入れ真ん中の穴から頭を出す。

 よし、着れたな。

 

 「初めて人間の服を着たが、以外と悪くないな」

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