第16話クリスマスイブに響く音
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設楽さんに報告してから数週間後、好美が男の子を出産した。僕と好美の手を焼かせるぐらい元気で、わんぱくな子だ。とても可愛い。
そして、赤ちゃんが生まれたのをきっかけに、色々なことが変わった。
まず、由香のケチが少し緩和された。圭一くんからその話しを聞いた時は本当に驚いた。なんでも、僕がフリーマーケットに行きたがった理由がバレて、廃墟での出来事もどこかからか調べあげたらしい。持ち前の行動力で僕の行動を調べた由香には感心するが、廃墟の件はどこから漏れたのだろう。あれは五郎さんしか知らないはず。偶然出会って、意気投合したとか?
まあ、それは今度聞いてみるとして、僕が怪我をしたと聞いて、ガラガラをあげなきゃ良かったと後悔したそうだ。それからは無料という言葉を避けるようになり、必要であれば相応のお金を出すようになったという。他人の金遣いにも口を出さなくなった。これは本当に良いことだ。
変わったのは人だけじゃない。なんと、廃墟が取り壊されたのだ。工事は僕と好美の子が生まれてすぐの頃に始まったが、もちろん何事もなく終わったわけじゃない。工事中、何人もの作業員が怪我を負った。幸いにも死者は出なかったが、こんなにも怪我人が出るのは初めてだと、テレビのニュースで話題になっていたのをよく覚えている。
取り壊す前、設楽さん達が除霊を行ったが、相手の方が強かったから設楽さん達は返り討ちにあってしまった。その現場を見た人が壊すのは止めようと言ったが、どこかのお偉いさんが取り壊しを決定した。
大勢の怪我人を出してしまったが、死者が出なかっただけマシだと僕は思う。怪我だけで済んだのは設楽さん達のおかげだろう。ちなみに当の設楽さん達は入院している。お見舞いに行くと、だいぶ回復したらしいので、近々退院できるかもしれないと言っていた。そして、もう一度除霊にチャレンジしたいとも。
カランカランカラン
さて、前にも書いたが今日は十二月二十四日だ。良い子にしていれば、夜にサンタさんがやってきてクリスマスプレゼントを置いていってくれる。そんなことを信じていたのは、小学一年生の頃までだったが。
二年生になると親の行動を疑いはじめ、寝ているふりをして正体を探った。思った通りサンタさんは両親だったので、僕は大いに落胆して、その日からプレゼントの話しはしなくなった覚えがある。懐かしい話だ。
ガランガランガラン!
音が大きくなってきた。近所迷惑ではないか、とは思わない。好美達が起きてこないのを見るに、この音が聞こえているのは僕だけだ。音は玄関の方角から聞こえてくる。
トントントン
ドアをノックする音だ。チャイムを鳴らせば良いのに。
実はこの日記を書き始めた時から後悔をしている。設楽さんを家に呼べば良かった、と。家そのものをお祓いしてもらえば……だが、後悔しても遅い。
物言わぬ霊はずっと僕達を見ていた。見ているだけで、我儘を言えなかった。言う口がなかった。
――イ イ コ
声が聞こえた瞬間、家全体が震え、ドアがゆっくりと開く。
現れたのは、血が付着した袋を背負ったサンタクロースだった。黙って良い子にしていた水子へのクリスマスプレゼント。
ガラガラと鳴るおもちゃが僕の前に差し出された。
思わず顔をあげると、無いはずの目が笑っているような気がした。
クリスマスプレゼントの音 涼風すずらん @usagi5wa5wa
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