01章-029:巻き込まれ体質とは私の事ですか?
冗句です。幼い子供のヒモをやろうなんて本気で言っていませんよ?
真に受けないでね。
【システムメッセージ:おそらく9割9分の人間はご主人様を人間の屑だと理解したままだと思います】
であれば、人間種族はあきらめましょう。
【システムメッセージ:潔さに惚れる】
馬鹿なこと言ってないで、真面目にこの後どうするかを一緒に考えることにしましょうか。
とりあえず先ほどは状況が混迷しすぎて埒が明かなかったので、年下の10代前半くらいの少女の意見に付き従い、足にけがをしている女性を放置して、有耶無耶に入村し、無事不法侵入できたまでは良いのですが、冷静に考えてみると――
――あれ? テロリストが出入りしている村に入って何か得ある?
という少し考えればわかるレベルの事に今更ながら気づいたという状況なのですから、早急に検討が必要なのです。
まったく。しっかりしてほしいものです。
【システムメッセージ:申し訳ありませんご主人様。すべて私の責任です】
やめてやめて。
ちゃうて。
そこはいつものように、辛辣な突込みが欲しいんやて。
分かりやすい撒き餌をバケツ一杯ひっくり返す勢いで放ったでしょう?
食いついて。ここがあなたの職場ですよ。
【システムメッセージ:養殖はちょっと】
何のプライドなのそれ。
ひとまず、今現在我々(テロ女子除く)は、先ほど入った村の入り口付近に立ちんぼになって居るのも悪目立ちだろうと、丁度良く
いや、隣で楚々といつの間にやら敷いていた高級そうなハンカチーフの上に座っている赤ドレス少女は、特段今の現状に改めて思うところはないのか、顔と目を伏せ、特に村を見回すでもなく今を静観しているようですが。
彼女が村に入ったのは単に場しのぎではないのかも。
そんな益体もない推測――は早々空へと放り投げ、彼女から視線を村の中に移す。
そうやってあたりを見れば、門の入り口がああも簡素だったことから、想像はしていましたが、あまり人で賑わうところではないようです。
ぽつぽつある藁的なもので出来たような簡易テントが、ここのメイン居住様式だとすると、住居環境も最低限で、セキュリティもあったものではないでしょう。人っ子一人で歩いていないのは、そういう面もあるのだろうと、性懲りもなく簡単に勝手な推測を飛ばしてみる。
まぁ、それはそれとして、ここで一息ついていいのかさえ不明な状態というのはあまりよろしくないです。
早々に次のアクションを決めないといけません。
さぁ、どうするか――と頭をひねっていると、また野太い声に声を掛けられた。
「コラ。けが人ほっといて、勝手に行くな新人」
あ、テロ中年さん。チッス。
「いぃぃやぁぁぁ! もうそいつのところに連れて行かないで下さいィぃィっ!」
テロ女子も一緒でしたか。お疲れっす。
――本当にこのおじさん人がいいですね。テロ女子に肩を貸してこちらに連れてきてくれたようですが、その態勢の都合上耳元めっちゃショックウェーブでしょうに。
「すいませんっす。実は、色々諸々鑑みて、ちょっと面倒見切れないなと思ったので置いてきてしまったっす」
「素直過ぎるわ。
――はぁ」
そう呆れたため息、というよりは一旦気持ちをリセットするための呼吸だったかもしれない。次に彼はすこし柔和な表情を口元に浮かべた。
「まぁ、それでもここまでは連れてきてもらったんだな。それには感謝しとく。
――それに、さっきのはこいつも悪いしな」
この馬鹿が、と肩を貸すテロ女子の頭を器用にヘッドロックにもっていき、お仕置きを始めるテロ中年。
女子にあるまじき潰れた濁声を聞きながら、一応確認したかったこともあるので、テロ中年に聞いてみた。
「ちなみにここがBパターンのゴールでよかったんですか?」
「そうだが、知ってて来たんじゃないのか?」
そんな訳ないでしょ。テロ中年は教えてくれないし、テロ女子は起きてくれないし、気品高い女子拾うし、マブダチはストレスだし。
「いえ。まぁうろ覚えでしたので、じゃない、勘で余裕って調子くれてたんっすけど、マジ不安に駆られたっていうか」
でも、今ここで今更、部外者告白してもいいことはないので、誤魔化しきることにしましょう。
「……まぁいいけどよ。
それはそうと、この――」
と、テロ中年は顎でこちらの隣にちょこんと座り、会話にも入らず泰然としたままの淑女子を指す。
「いかにも『いいとこ』のお嬢さん連れて何のつもりだ?」
そんな、突然豹変した威嚇交じりの言葉に、そういえば彼女に対して何の言い訳も考えてないことを思い至る。
まぁそもそもここに入ったこと自体失敗という自覚はあるので、準備が何も足りていないことは自明の理。驚くことでもありません。
驚くことはないからと言って、何も助かりませんが。
そして威嚇の先の本人は、そんな言葉を受け、しかしおびえるでもなく、なんであれば優雅な微笑をたたえ、テロ中年に視線だけ向けた。
「ごきげんようジェントル?
出会いのご挨拶を交わしたいのだけれど、そんな気分ではないのかしら?」
その落ち着き払った対応は、もはや気品の化け物と謳ってもよいでしょう。
生まれ変わったら淑女子になりたい。
「へ。なりに似合わん、ずいぶん堂に入った態度じゃねぇの。
いいぜ。――挨拶しようじゃねぇか」
対するテロ中年は群青がかった髪をかき上げ、挨拶なんて平和な単語に似合わないどう猛な笑みを淑女子にむける。
ねぇジェントル。なんでもいいけれど急に世界観変わり過ぎじゃないです?
強面の中に人の好さが見え隠れがトレードマークだったというのに、その人の好さの殻を更に破って鬼が出てきちゃってますよ。
そもそも子供相手に大人げないですね――と思うも、相対する彼女もテロ中年の殺意にも似た威圧を苦にもせず、余裕ある態度と笑みを崩さない。
「そうね。あなたとは気が合いそうだもの。正式な紹介をしてあげてよ?」
そういい、一度頭を下げるとそのままスカートを持ち腰を上げ、立ち上がると同じくカテーシーとなる完璧な姿勢、作法で相対すると、言葉を告げた。
「王族の国の後継者筆頭ザグラム皇子直属の側仕え、
『エルロッド=オバーニ』ですわ」
そう、淑女子ことオバーニさんが自らを宣言する。
その内容も内容に呆気取られる私には構わず、構うわけもなくそのままテロ中年は腰の剣――剣というより『刀』を胸の前まで上げ、水平に構え、腰溜めされたその威圧に、姿勢からすればそこから攻撃姿勢には至れないはずなのに、こちらは相対さえしていないはずなのに、ピリピリと肌を痺れさせる殺気にすくみ上りそうになる。
「解放革命軍大隊長、
『アーガン=メガルテ』だ。あと」
そのまま、示し合わせたように両者異口同音に、両者はこう告げる――
「「死ね」」
ガチィィンッ!
先ほどの攻撃姿勢に至れないくだりをパーフェクトに無視し、テロ中年が横に構えた刃身を平然と抜きそのまま振りぬいた刀――
淑女子はこともあろうに無造作に頭上に眩しい光を遮るだけに掲げたような腕――
そのお互いが交差し、道理が通らない激しい金属音が響いた。
「へぇ」
感嘆は、片方の赤ドレスの少女のみから。
片方の群青ザンバラ髪の男は無言ですぐさま後方に一足で距離をとる。
そして、どんな歩行法を駆使しているのか不明な軌道で彼女の横に回り込むように横向きに「スライド」する。
けれど淑女子はそんな違和感しかない彼の挙動を特に気にもせず、それより重要だとでも言うように彼を称賛した。
「すごいわ。凄いのね、貴方。
どう見ても少女にしか見えない相手に完全に油断も躊躇もなく殺害するその姿勢もだけど――」
――ウォォォンッ!
だけどもテロ中年に称賛を受け入れる気は毛頭ないらしく、むしろ妨害するように、その口上を遮るようにスライドした勢いのまま、彼女の上半身を斜めに断ち切る軌道で直角に刀を振り上げ――たのだろう。こちらからは何かが下から上に発射されたようにしか見えない。
それを淑女子は何の気もなく躱し、やはり称賛を続ける。
「『それ』。騎士の国の『居合道』じゃない。
気を抜いたら、私でも斬られそう」
こわいこわい。と彼女は「そうはならないけれど」と含みを持たせた言葉を彼に告げ切った。
――ちょっとストップ。
何々。
戸惑うわ。何突拍子もなく始めてるの。
こちらで阿呆面して展開についていけない、可哀そうな青年が目に入らないのでしょうか。
平然と幼女と中年でバトってますが、絵面がめちゃくちゃです。リーチの差がやはりあるのか、淑女子は防戦一方というところですが、そもそも争えていることに違和感があるじゃないですか。
UQはもちろんゲームなので、こういう不条理な展開を許容することを可能とする地盤はもちろんあるんですが、それは「プレイヤー」においての話です。
一般的なNPCがここまでジェネレーションギャップのある戦闘スキルを保有することなど、世界観を大事にするゲームマスターである瀬稲が許すはずないのに……
というより、プレイヤーでもだめですよ。
ガキンて。
淑女子の腕ってどうなってるの? 鋼鉄で出来ている刃を受け止めて「ガギィン」じゃないでしょう。何のスキルであってもそれは変です。
肉体強化というスキルはあれど、それは限界まで高めれば真正面から刃を受け止めるくらいは、もしかするとできるかもしれませんが、金属音がする腕に変質するわけじゃありません。
そしてしばらく。数度相打ってから双方距離をとり、お互い決め手を失ったことを理解し、その上で次の手を検討するように、相手を観察しあう。
その片方――淑女子に呆然とした視線を向けると、直ぐに気付いた上で、余裕のアピールか、普通にこちらに目線を向け、濁った笑顔を浮かべた。
嬉しそうにも、愉しそうにも見える昏い感情を向けられ、その後即テロ中年からのやはり理解不能な瞬間で詰め寄る移動法で斬りこまれ、再開された戦闘を殆ど意識できないまま、何となく考える。
そうですね。
今に始まったことでは、そういえば、ありません。
――不可解なことはずっと数珠つなぎのように起こっていた。
NPCから聞くはずのない「女神の聖剣」から始まった、この世界の違和感。システム開発者側の介入の気配と、実際に改変した実行者である「ザグラム皇子」。
ザグラム皇子です。
その側仕え――「エルロッド=オバーニ」こと淑女子。
とりあえずわかることは。
巻き込まれたのはどうやら私の方のようです。
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