01章-020:ピンチは続くよ次々と
[20]
「………人望のない王子、だったんですね」
「………王子って言っちゃってることについてはもう何も言わぬが、さりとてその暴力的に失礼な言葉まで、スルーしてやる義理はないぞ?」
拘束に加え見棄てられ属性も付けた王子様は、もはや無くすものは何も無いと開き直ったのか、一周回って元の太々しい態度に着地した模様。
居直り王子爆誕です。
先ほどは辛らつな言葉を投げかけていた女子たちですが、基本的には恐れ多いのか、はたまた面倒なことに関わりたくないのか、王子からは私を除き距離をとり、軽く警戒しつつこちらを見守っています。
王子的にそれもマイナスポイントらしく。
「それはそうと、なんかさっきから女子率感じられないわ。ちこう寄ってよガールズ」
と色をかけるも、ガールズが答える様子はありません。
あくまで私に一任ということでしょう。こっそり私にだけ見えるよう、彼女たちが目で謝ってくるのを感じます。
で、あれば、手短に済ませるとしましょう。
改めて赤王子に向き直り、視線はあえて合わせず、一筋縄ではいかない相手にマウントをとるべく、文字通り上から目線での会話を敢行させて頂きます。
「さて、私たちが先を急ぐ身だというのは先ほどお伝えした通りですが、
一つだけ確認させて頂きたいことがあります」
そんな尋問でも始まるかのような私の口上に、彼からは少しも応えた様子は感じられない。もしかすると素行が悪そうなイメージ通り、こういった場面は普段から手慣れたものかもしれません。
「ほーん。
答える義理はないが?」
「ニー」「ウィンドショット」
ズドムッ
………。
尋問5秒で対象者が地べたを這いずっています。
いえ。確かにニーアさんに、威嚇宜しく何かしら魔法を構えさせようとかは考えてましたが、被せ気味にいきなり被弾させるとは思いませんでした。
ニーアさん?
あ。いえ。Vサインは今じゃないです。やめて下さい。首を傾けて、さも「そっちの指示通りだけど?」みたいな空気を醸し出すのも禁止です。私の計画通りっぽい流れを作らないでください。あなたの単独犯行です。
弁護士を呼んでください。
さて、プライドの高い王子なんて役職に、さすがにここまでの手荒な対応、どうフォローしようか。
そう思いながら、振り返ると。
「あ、何を聞きたいのでしょうか。私に答えられることであれば、いくらでもお答えしますぜ旦那」
えへえへ、と早速復帰しつつも心は折れたのか、何やら新しい人格で媚を売ってくる赤王子さんが
効果てきめんだよ。
どや顔でVサインはわかったよニーアさん。敢闘賞をあげるよ。
「………どうも。
ええと。では遠慮なく。
先ほど襲ってきた方々は何ですか? 私たちは何に巻き込まれたのですか?」
「おや、二つになっておるぞ汝」
「ウィンド――」「三つでも四つでもドンとこい汝」
左様ですか。
うちのメンバー気が短いなぁ。
「あの者どもか? 正確に確認できたわけではないが、おそらく「王族の国」の陰部「泥」の奴らだろうの」
泥?
「知らぬか? まぁ知らんだろうな。
彼奴らは正しく「陰部」。表に簡単に出ていては役目も果たせんだろう」
ふむ、と一息つくと、それでは説明が足り無くて震えるこちらの表情を見て取り、そのまま説明を続けてくれる赤王子は、根は親切な方なのかもしれません。
「まあ。国お抱えの間諜役というのが当たり障りない表現かの。
間諜にしてはえらく過激な奴らだがな。
「都合が悪い部分を洗い出す」よりは「都合が悪い部分をもみ消す」
ことを得意としておる」
そう、流暢に、相手に内容が伝わりやすいよう抑揚のついた喋り口調は、さすがにやんごとなき方というべきか。
わかりやすくて、知りたくなかった事実も驚きの理解速度です。
どうやら、自分たちがドンパチかました相手は、国そのものの模様。
そして穏便とは言い難い相手です。「調査」より「隠滅」が得意と言われれば、緊張感を伴わない訳にはいかないでしょう。
影の組織なら影らしく、ひっそり潜んでおいてほしいところ。
彼らにはおそらく「お互い見なかったこと」作戦は通じはしないでしょう。
「それで、そんな物騒な相手に、あなた方はなぜことを構えているのですか」
なれば、できる限りの手を模索するまで。
そして、その手段は私たちを巻き込んでくれたこの赤王子からもらい受けるのが、筋であり妥当な情報源というものでしょう。
そんな至極自然な質問の流れに、いやらしく居直り王子が口の端を上げる。
「んー?
さすがにそこまで喋る義理はないぞ?」
なんと。
どうやら命がいらない模様。
とはいえ、もう私からは合図は出しませんよ。自動迎撃システムが搭載されているようですし。
「ウィンド――「あと、そんな何回も攻撃を受けてやる義理もないぞ?」――!?」
短い魔法の口上も追い付かない。
そんなスピードで、忽然と。
赤王子の姿が消えました。
代わりに。
【システムメッセージ:ご主人様、弓系武器を持った集団に囲まれています】
そんな嬉しくないニュースが到来する。
よくない展開。
視線をパーティに向ける暇も惜し「全員小さく蹲れ!」
――流石リーダー。
間を置かず、無数の風切り音が頭上から。
そして届く怒涛の、
ドスドスドスドドドドドドドドドドドス!
地を叩く
私はといえば、頭と首を守るよう両手で頭を抱え、ひたすら蹲り状況が落ち着くのを待つ間、当たりませんようにと星に願いを届けます。ここの神様まじ発狂してるんで、そんなのには願いませんよ。
ともあれ他の皆さんは無事なのか不安でしたが、パーティを解散し忘れたタニアさんの無事は確認できます。鏃の雨で土が掘り起こされ、巻き起こった土煙で具体的な場所は依然不明ですが、ひとまず安心していいでしょう。一番どんくさい子が大丈夫なら他の方も大丈夫のはずです。
【システムメッセージ:不適切な表現がありました。一番鈍くさいのはご主人様でした。主人の代わりに謹んでお詫び申し上げます】
誰に対しての配慮なのそのお詫び。
憎たらしいくらいの通常運転。
その憎たらしさが今は有難いですよ…!
第二射が来る前に身を起こし近くの木々に隠れるよう動くか、メンバーを探し固まるかを数舜迷う間に、次のイベントが続けて発生します。
「勘弁してくださいな『ボンボン兄さん』。
こちとらマネーアントの対応で、忙しかったりするんですがね?」
聞いた覚えのある、懐にすっと入り安心感を与える、渋い時代劇主人公声。
それが響いたのは頭上ですが、すぐにその声の主がストンとこちらの目の前に降り立つ。
その男の肩には、やはりというか赤王子が縛られたままの姿で雑に担がれています。
「乱暴すぎじゃね? もっと敬っていい存在よボクちゃん」
そんな軽口に答えるのは。
「知りゃあせんよ」
咥え煙草を揺すりながら、けだるそうに答える白髪の痩躯の男。
その男は、自身が降り落ちた風圧で土煙が吹き飛び、現れた無様に蹲る私に視線を向け、面倒そうに声をかけてきた。
「縁があるねぇ『兄さん』。折角黙とう捧げて遣ったのに無駄んなっちまったよ」
勝手に黙とうを捧げないで頂きたいですね。オレイルさん。
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