01章-019:パーティ解散の危機じゃない?
[19]
しかし丁度良かったとも言えます。
元々彼女たちとはどこで別れを切り出そうかと苦心していたところです。
【システムメッセージ:ご主人様】
これについては本心です。
確かに得難い人たちでしたが、秘密を抱えたまま付き合うのは元々無理がありました。
【システムメッセージ:ご主人様】
その上、今回ワイバーンを目の前で出したことで何かしら私の異常性を察したことでしょう。
向こうもそんな異常者と付き合うことを忌避するのは、当然と言えますし、それに乗じて「では、お互い見なかったことにするということで」とお茶を濁し、袂を分かつのも、心理上無理な展開ではないのではないでしょうか?
【システムメッセージ:くそ野郎】
聞こ(見)えてますよ。この野郎。
【システムメッセージ:正常な様子で安心しました】
あなたの対応は常時異常ですけどね。
なんですか?
【システムメッセージ:それは――】
「おにーさーん! どうしましたー!? 遅れてますよー?」
【システムメッセージ:先程から呼ばれています】
聞こえてますよ。
==
引き続き、森の中。
アクシデントが有ろうと無かろうと、その距離は勝手に縮まるわけもなく、広大な森は未だに私たちを解放してはくれません。
とはいえ、移動時間だけでもそろそろ3時間というところに差し掛かったあたりではないでしょうか。その感覚に大きな誤差がなければ、そろそろ到着に差し掛かってもおかしくはありません。
森の中を出る程でもない移動距離の先に、目的地であるテロリストの拠点、並びにマネーアントの発生地点があることからすぐ判明することですが、それらは同じくこの森の中に存在します。
それもあって、彼女たちはこちらの用が済めばそのままマネーアントの狩猟に向かうかもしれないなと思っていた程です。
現状はそれとは相違する未来絵図を描いておりますが、この状況は誰の未来予想図にもなかったでしょう。
そう、彼女たちがあの「強烈なイベント」の後にも私についてくることも含めて。
「ソータロー、元気ないな?」
逆にこうやって気遣われるとか。
「デシレアさん! しーっですよ! おに―さんは難しい年ごろなんですっ! そっとしておくのです!」
「誰が難しい年ごろやねん」
「はわっ!? しまりました! うっかり聞かれてしまいました!」
隠す努力が驚きのゼロでしたけど。
あと、やっぱり18歳設定信じてないですね? この世界の成人が15歳だと言うことからして、18歳が繊細とは思われないでしょう。
【システムメッセージ:速報。ご自分でも『設定』と考えていることが判明】
ニュースの見出し気取りで人の言動の揚げ足を取らないで下さい。
そんな態度も言動も悪い我がマブダチさんへの苛立ちが顔に出ていたのか、タニアさんが申し訳なさそうにこちらの顔を伺い、頭を下げてきました。
「ご、ごめんなさい! わたしったら初めて自分の手を汚してしまった純真な少年が傷心で落ち込んでいるというのに、ヘタレにヤクザキックをお見舞いするような真似を!」
「いいから。お互いのためにもう黙りましょう」
言葉のセレクトが秀逸過ぎて泣きそうです。
別段純真なつもりはありません――少年で有るつもりはもっとありません――が初めて手を汚した、言葉を誤魔化さないなら「人を初めて殺めた」という感覚には、どうやら私にも心当たりがあります。
もう私がこの世界をただの「ゲーム世界」と思えなくなっている証左とも言うべきか、先ほどから空気を吸うたびに、肺が痛く、口に鉄分の味が広がるような、現代社会に生きる人間として、そう簡単には相容れない「人を殺す側」に立っている感覚が、大した強度もない若造の心を無造作に掻きむしります。
直接手を下したわけでもなく、またおそらく「実際は殺せていない」と感じているにも関わらず、この体たらくです。
これは多分、殺した「結果」ではなく、自分が自ら殺そうと動いた「意思」が原因でしょう。結果はどうあれ、自分は人を殺そうと行動できる、してしまえるパーソナリティーを持っていると18年目にして初めて思い知らされた衝撃は、それなりに自分の根幹を揺らすもののようでした。
まぁ、そんな初心なことを考えている青臭さを見れば、確かに私にはまだ純真な部分が残っていたのかもしれませんね。少年ではありませんけど。
「まぁ、わからなくないけど、そんな落ち込まないでくれよ。あたしたちはそんなお前の行動で命を拾った身なんだからさ」
そう、あっけらかんとした中に、照れのようなものを交えて言うデシレアさんのその言葉に、一先ず嘘は見つかりません。
でも。
「デシレアさん」
「んー?」
「先ほど何があって、皆さんが助かったのか、理解されていますか?」
「ん? いや、あんまり」
「それなのに、なぜ『私が』あなた達を助けた、と思い込んでいるんですか?」
普通に考えれば、あんな出来事。
どこからともなく、町を一つ滅ぼす天災「ワイバーン」の中でもさらに巨大な体躯をもった怪物が突然、しかも死体として現れ、今まさにこちらを殺そうとしていた敵を覆い「潰して」しまった、という状況を。
人為的なものと思うのも一苦労です。
なのにこの人たちは、何の気もなく「ソータローか!? 何したのか知らんけどありがとな!」で終わらせてしまっている。
ニーアさんやレイアさんは、流石にそこまで単純ではなさそうでしたが、リーダーのその思い込みには異論を挟むことはなかった。
タニアさんですか?あの人はリーダーのその言動に「なるほど、そういうことか!」って顔で柏手を打っていたので、深く考えるのは止めました。
しかしこのまま、というのは少し不健康です。
特にリーダーの意思には従うというスタンスのお二人に、一定の「疑惑」というストレスを常に与えながら行動する、というのは私の本意でもありませんし。
なので、リーダーにはその辺の疑問をもう少し掘り下げてもらい、このふわっとした状況を解消してもらいたいと思います。
そんな私の問いかけに、デシレアさんは「うーん?」と何から考えないといけないのかわからないみたいな唸りを発します。それはとても不安な唸りです。
「え、ソータロー否定しなかったじゃん」
「…しませんでしたけど。でもあんなこと、そもそもなぜ私が引き起こしたと思ったんですか?」
「だって。ソータローこの前勇者と一緒にワイバーン倒したんだろ?」
「………。前も言いましたけど、勇者様が倒されました」
「それでワイバーンが出て来たんだから、お前が絡んでないわけないじゃん」
「………」
そうかな?
まぁ、わからないではないけど…
「で、ソータロー私たちのこと好きじゃん?」
「え?」
どういう意味?
「そんで、ワイバーンが出てきて、私達が助かったんだから、
私達に好意を持っているソータローがワイバーンを使って助けてくれたと思うだろ普通?」
思わないよ普通?
普通って何?
前提もなんかおかしい。
申し訳ないですけど、多少情がわく程度には皆さんに愛着は沸いていますが、無償の愛を提供するほどの愛着は持ち合わせていません。
「でもさ」
そう説明してもリーダーはしつこく食い下がってくるようです。
「さっきのあれって、ソータローの命に直結してる致命的な秘密じゃねぇの?」
………。
ぐう。
「それバラしてまで感情的に助けたいと思った、私たちのこと、好きじゃないわけないだろ?」
やめろよ。自分に対する好意を冷静に分析するなよ。
そんなキャラじゃないでしょリーダー。こういうのってふわっとした状況のまま有耶無耶のままに見逃しておくべきだと、私なんかは思います。
――え? この会話の目的?
――どうしました? 疲れてるんですか?
【システムメッセージ:ご主人様】
なんでしょう。
【システムメッセージ:こいつの存在を有耶無耶にしておきましょうか?】
何急に怖い。
なんかわからないけど有耶無耶にしないで。
「アリマさー、もしかして不安にさせちゃったのかもだけど」
そうリーダーと私の掛け合い漫才をしばらく傍観していたニーアさんは、仕方なくといった風体で、肩を竦ませながら、こちらに向き合います。
「別にあたしもレイア姉も、アリマが助けてくれたことについては、あんまり疑問に思ってないよ?」
そう微笑を称えながらいう彼女に応じるように、肩に人の足を乗せたレイアさんが、「そーよー」と、こちらは満面の笑顔で頷いて見せた。
うーん。
そう言ってもらえるのはありがたいのですが。
さすがにそのまま鵜呑みにするのどうかと思うというか、その肩の足なに。
「え?」
そんなこちらの指摘に、今気付いたような顔で、レイアさんは私が指さした、自身の右肩あたりに引っ掛かっている包帯塗れのおみ足に視線を向けます。具体的には膝をひっかけるように担ぎ、ロープで縛られた足首が彼女の心臓あたりでプランプランしています。
どうしよう。言葉を紡ぐたびに犯罪性が増す。
そして、その肩の様子を一瞥し終わった彼女は、もう一度私に視線を戻し、こう言った。
「え?」
わかった。触れないほうがいいのね。伝わった。
私も正直テロ女子が今どこで何してるのかとか、気にしないでおきたいので、都合がいいと言えます。
「それよりあたしはデシ姉のその有様が気になってるんだけど…」
そう続けたニーアさんは、本当に私の事は二の次で、本題はこちらだった模様。私としてはそれなりに重いテーマでしたけど、それくらいぞんざいであれば、「気にしていない」というのは本心だと納得できるというものです。
ひとまず安心。
とはいえ、リーダー?
ふと、その気にされているリーダーを見やると、何やら話題に挙げられたのに気付いたか、「んー?」とニーアさんを見ます。
これと言っておかしな風には見えませんが。
でも、なんか。こう。
「………デシ姉」
「なんだ?」
「………なんか、心どっかに飛んで行ってない?」
若干心ここにあらずというか。
先ほどまでハキハキと私をやり込めていたはずですが、というか、「それ」もやっぱり「らしく」はありません。
別段、弁が立たないと言うつもりはなく。
でも、今回彼女は先の彼女の言葉を借りるならちょっと「感情」を躊躇なく出しすぎているような。
元々「破天荒」っぽい言動でしたが、本質的なところで、人の心の機微に触れるところは、タニアさんを揶揄う以外は、割と心を配っていたように見えました。
それを踏まえて言うならば、先の「好き」云々のような感情まっしぐらな話題も、もう少し「誤魔化しながら」伝えていたはずです。
「そうか? 別にそんなことないぞ」
ここぞとばかり誤魔化すようにデシレアさんが言えば。
「まぁ、そう本人に言われると、納得するしかないけどさ………」
もちろんその言葉通りの心境ではないだろうニーアさんが呟き。
「とはいえ、妙よな。短いやり取りしかないボクちゃんでさえ、若干、汝には先ほどとの違和感を感じるぞ」
訳知り顔で赤王子が追随するも。
「気にしすぎだって」なおも誤魔化し。
「でもデシ姉」なおも縋り。
「リーダーの強がりは感心せんのう」なおも訳知れば。
「デシ姉この馬鹿拘束していい?」流れるような確保に至り。
「うんもういいや」色々お疲れのリーダーは諦観の色を濃くしつつ、適当に答えた。
しばらくお待ちください。
==
拘束の王子爆誕。
胡坐をかくような形で強制的に地べたに着座させられ、足や腕を巻き込みながらの見事なロープ拘束は、レイアさん謹製。
どういう経緯でこういう技術を仕入れることになったのか、聞く気はありませんが、全く脱出の隙を見せないその塩梅は、彼に少なからずの絶望を与えているはずだが、未だにその表情、姿勢はふんぞり返った状態をキープしている。
そして、言動も、それに追随した。
「弁護士を呼んでくれ」
「黙れ」「埋めるわよ?」「屑が」「災いあれ」「汝ら言い過ぎじゃない!?」
軽い一言に、思いのほか多くのリスナーからのお便りが返ったことに感激したのか、赤王子は泣くほど興奮した様子で、狼狽して見せた。
ちなみにリーダーは一応自粛した模様。どれが誰のセリフかはご想像にお任せします。
さて、何を血迷ったのかわざわざ舞い戻ってきた夏の虫、もとい赤王子ですが、いまいち何を企んでいるのかわかりません。間違いなく私達を心配して、ということではないのは確かですけど。
「汝らを心配して戻ってきたボクちゃんに何たる仕打ちかっ!」
早速被せてきましたね。
「………」
かましてやったぜと意気揚々な赤王子に、物言わずゆっくり近づくのは我らの特攻隊長ニーアさん。じりじりと、瞼ほぼ落ちてないか心配なほどのジトっとした目つきで、彼を見るというよりは見下げながら、とうとう目の前にたどり着く。
「な、何だ」
「無理」
「むりっ!?」
まさかのダメ出しに、「嘘でしょ…?」と言わんばかりの、神をも疑う驚愕の青褪めジェスチャーバイ王族男子。
赤かったり青かったり忙しい王子ですね。
「というより、貴方、先ほどまで連れていた少年はどうされたんですか?」
と、コントが長引きそうなのを、本題に戻すついでに、気になっていたもう一つのことを聞いてみた。
そう言われてみれば、とデシレアさんとタニアさんが周りをきょろきょろしますが、ここ一帯にはひと先ずいないことは確認済みです。
なので、実は彼らが先ほどの集団とつながっていて奇襲を狙っているというのではなさそうですが、それはそれとして何にしろそこにも企みは見え隠れします。
そんな疑惑の赤王子ですが、彼は彼で人式に辺りを見回すと、一点、元々向かう先である森の奥に続く道を見つめ固まる。
「?」
なんだかただ事ではない様子に、その顔をのぞき込むと。
そこには、呆然自失の表情で白く燃え尽きている赤王子が、すすけるように立ちすくんでおり。
そして、一言おっしゃいました。
「まじで」
マジですよ。
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