01章-014:2度目のギルドは華やかで男臭い

[14]


【システムメッセージ:ここ最近出番がなかった件について】


 ?

 突然何言ってるんでしょう。

 ひとまず思ったことを言わせてもらうと、そんな毎回出番があると考えているとは、さてはレギュラー気取りですね。

 そんな枠はありません。

 そして当たり前みたいに声をかけてきてますけど、何なの? 友達なの?


【システムメッセージ:不当な扱いを察知。目的はこちらの体だけと推測】


 体どこやねん。


 ――まぁ。

 そんなシステム漫才は置いておくとして、私はあの後宿屋を旅立ち、改めて冒険者ギルドに向かっている最中という塩梅です。

 もちろんと言うか、やっぱりと言うか、デシレアさんとタニアさんも同行しており、私の前で並んで談笑しながら歩いています。女性のこういった光景はやはり華やかですね。

 ただ、先ほどから私の心はもやもやとした疑問が渦巻いており、落ち着きません。

 それは、先ほどパーティへの勧誘について、お受けした件になりますが。

 

 ――いつパーティ編成をするのでしょう。


 という疑問が、このままだと自分の目線から彼女たちの背中にぶつかるのを幻視してしまいそうなほどです。

 そんなこちらの思惑には気付かないのか、気付かないふりをしているのか、少なくともデシレアさんは宿を出てから全くこちらを気にする様子が見受けられない。

 ――その隣の方は30秒に一回のペースで私をチラ見しては戻りを繰り返していますけど。しかもこっそりと、こちらにバレないようにというつもりのようですが、ビックリするくらいバレバレです。むしろ、向こうがバレていないという体を守るべく、見てないふりをするのが大変です。用があるなら普通に声をかけてください。


 そんな私達が練り歩いているここは、城下町の中央の大通から少し外れた、通称『職人通り』。

 大通りに多くの人間が用のある食品店や、小物、雑貨屋が軒を連ねるのに対し、大通りの半分ほどもない道幅のその通りに見えるのは、鍛冶屋や染物屋、本屋といった特定のジョブにしか用向きの無さそうな店がちらほらと。

 さらに、二階以上はその店の主人の住居になっているのか、それぞれの建物の高さは大体3階ほどあり、陽の光が若干遮られ少し薄暗く感じる。

 そして、それに合わせたようにその店を出入りする人々は、大通りのような弾けるような活気を出すこともなく、まるで隠れるようにひっそりと行き来する。


 今日は快晴。

 それは見上げた建物の隙間から見える空に、雲一つない青が見えることからわかることだけれども、この道の雰囲気に引きずられてか、心ウキウキとはなかなかいかない。

 それもこれも先ほどからのもやもやのせいか。

 まぁ、話しかけてきたついでです。

 ちょっと聞いてみることにしましょう。


 ――システムメッセージさん。彼女たちはなぜさっさとパーティ編成をしてこないんですか? パーティ編成になにか都合の悪いことでも?


【システムメッセージ:さあ】


 さあ。

 ざっくり。

 …仮にもシステムメッセージがそんなファジーなコメントで良いのでしょうか。

 

【システムメッセージ:友達でもない相手に気軽に話しかけないでください】


 …。

 これはめんどくさいですよ。


 どうやら拗ねている模様。

 システムメッセージが拗ねる。

 …冷静に考えると頭がおかしくなりそうなので、もうそういう存在なのだと割り切りましょう。

 

 ――ええと。すいません。訂正します。システムメッセージさんと私は友達でした。


【システムメッセージ:マブな奴ですか?】


 そして調子に乗るスピードがマッハ…!

 友達の種類にこだわりを見せないでください。


【システムメッセージ:…】

 

 ――…マブな奴です。


【システムメッセージ:そもそもパーティ編成は、プレイヤー向けのゲームシステムですので、仮想世界の住人にパーティ編成に対する認知はありません】


 …。

 いやいいんですけどね。助かるので。

 でも、今度からあなたのことは現金キングと呼びます。


【システムメッセージ:わたしの性別は女性型となっておりますので、現金プリンセスでお願いします】


 どうでもいい上に呼びにくい…。

 重ねて言うならサラッと女王ではなく、王女様呼称を強制してきました。末恐ろしい現金プリンセスです。


 そしてパーティシステム。ゲームプレイヤーのみの要素でした。

 この辺の仕切りって曖昧なんですよね。どこまでが共通の認識で、どこまでがゲーム側のみの概念な、の、か。

 ――あれ、おかしいですよ。

 で、あればなんで私、タニアさんをパーティメンバーに入れられたんですか?

 プレイヤー向けのシステムなら、そんなこと出来ないですよね?


【システムメッセージ:仮想世界の住人は、パーティ編成に対し『認知』がないだけで、利用すること自体は可能です】


 左様ですか。

 ということは、ゲームシステムは基本仮想世界の住民と共通だけど、プレイヤーだけしか知らない概念が多数ある、という感じなのかもしれませんね。

 などと考えに耽っていると、私達が向かっている方から、男の野太い声が聞こえてきます。

 しかも段々と声が大きく、近づいてくるように感じるのは、向こうから何かが走り込んでくるような土煙が舞う様子が見て取れることから、気のせいではないようです。

 そしてそれがはっきり視界に入るころには、その男の「叫び声」の内容が鮮明に聞こえて来ました。


「号外!

 号外!

 巷を騒がす王都のテロリストが、捕縛ーっ! 王都の騎士についに召し取られたぞーっ!」


 その。

 叫び声を一定間隔で繰り返す男は、叫びながら、手元に数百枚もある粗末な紙を辺りにばらまき続け、そしてあっという間に私たちとすれ違い、瞬く間に逆方向に消えて行ってしまった。

 

 …。

 なにあれ。


「ソータローは『瓦版』見んの初めてか?」

 そんな呆気にとられた私の顔が面白かったのか、くすくすと笑いこちらを眺めるデシレアさんが、そう言いながら、「瓦版」と呼ばれた男が消えた方を指さす。

「かわらばん…ですか。

 名前から察するに、大きなニュースを市民に伝え回ってる人たち、とかですか?」

 そういうと、とても感心したように、タニアさんが「おぉーっ」と手を打って称賛してくれます。どうやら正解を引き当てたようです。もっと褒めても構いませんよ。

「なんだ…あっさり当てんじゃねぇよ。教え甲斐のない…」

 理不尽。

「ま、そういう奴等さ。

 あたし達一般市民にとっては、貴重な紙をばらまいてくれるありがたい存在でもあるね」

 そういって、おもむろに彼が地面にばらまいた紙の一枚を、中腰になって拾い上げる。

 …かがむ際に、胸元がすごく大胆になるの、もう少し気を遣ってもらえれば幸いです。

 自然デシレアさんから目を逸らすと、逸らした先のタニアさんが、なにやら、着ているシャツの襟元をパタパタして、「うー」とうなっています。

 暑いのでしょうか。


「テロリストが捕まったって言ってたね。

 何々。

 『近くの村を襲って焼き討ちしてたテロリストを、警邏中だった騎士団が見つけ、捕縛した』、と。

 『残念なことに、村はすでに焼き討ちされた後で、ほぼ生き残りはいない』、だって。

 えげつないことするねぇ…」

 確かにそれは惨い話です。

 でも、テロリストって、もしかしなくても昨日見かけた「オレイルさん一行」のことですかね。たしかサクラさんもそう呼んでいた気がします。


 彼らが、村を焼き討ちした、ですか。


 大して接したわけでもない上に、どちらかというと被害を被った相手なので、いい印象があるわけでもないですが、なんだかしっくりきませんね。

 かかる火の粉は問答無用で払いそうですが、喜び勇んで人を襲う感じには見えませんでしたが…

 まぁ、とはいえ、「そういうこともある」と言われれば、「そうなんですね」と適当に相槌を返してしまう程度の思いなので、気にしてもしょうがないでしょう。

 二人に至っては、私よりさらに思い入れがなかったのか、デシレアさんは懐にさっさと紙を仕舞い、タニアさんはすでにアリマ定期監視の業務に戻っていました。業務停止命令が待ち望まれる所です。


「さて、臨時収入も頂いたし、もうそろそろギルドだ。

 あいつら待たせたてたら碌なことにならないし、さっさと行こうぜ」

「待たせることになったの、デシレアさんのせいなんですからね? 忘れないで下さいです」

 そんな軽い掛け合いもありながら。

 再びギルドへを目指し歩み始めました。


==


「え、アイリスさんいねぇの?」

 無事ギルドに到着し、残りのパーティメンバーだという「ニーア」さんと、昨日面識のあった人物「レイア」さんと合流した我々は、簡単な自己紹介もおざなりなまま「ニーア」さんから告げられたギルド受付代表の不在に、軽い意表を突かれていた。

 今日が良い日だという予感は、もしかすると当たっていたのかもしれません。


 今、デシレアさんと会話をしているニーアさんは、このメンツの中で私が唯一初対面の方ですが、タニアさん同様ファンタジーでしか許されないエメラルドの髪を、顔の両側に三つ編みでまとめている大変可愛らしい方です。眠そうな垂れ目も、常時微笑を讃えているような口元も、飄々とした懐かない猫のような愛嬌があります。

 屋内であっても全く脱ぐ様子もないその赤いフードは、同じく赤いカーディガンと繋がっているようで、一見パーカーのようにも見えます。犬耳を模した可愛いデザインのフードを見る限り、『この方は』女子としてのおしゃれ魂を失っては無いようです。

「代表はなんか、「家庭の事情」とかで今日は臨時のお休みらしいよー、って

 どしたのデシねぇ? 突然唸り始めて」

「ん。なんか今、失礼なことを言われたような気がして」

 言ってないよ。

「突然なに言ってるのさ?

 噂されるような相手もいないでしょうに」

 むしろ今失礼なこと言われているよ。

「それもそうか」

 それもそうなのかよ。


 楽し気な会話が軽快に続く。そしてそれをどちらかというと好ましく思っている私がいます。もしかして、私女子同士の会話というのに飢えていたりしたんでしょうか。それは深く考え始めると、若干犯罪臭のする嗜好ですし、気を付けることにしましょう。

 でも、見目麗しい女性たちと一緒の空間を共有しているというのは、どうしたって優越感を刺激されます。やっかみを受けるのは御免ですが、少しの間、勘違いする程度の夢を見ることは、過ぎたる望みではないと信じたい。

 少なくとも入り口あたりで正座して並ばされている、屈強な男たちの空間を共有したいとは思わないはずです。

 えぇ。(決め顔)

 え? 私今何か言いました?

 言ってないよ。


「あの、レイアさん…」

「なぁに? タニアちゃん」

「あそこに座らされている――」

「タニア」

 触れてはいけない境界に手を伸ばそうとする、軽率なタニアさんを、ニーアさんが厳しい目で窘めます。

「え? な、なんです?

 そんな怖い顔されるようなこと言ってないと思うですが…」

「――同情は時に、人を最も傷つける刃になる………」

「はっ。

 突然格好いいこと言い始めました………っ!」

 劇画調を装い、ハードボイルド感を演出するニーアさんと、それにあっさり引っ掛かり普通に感動をし始めたタニアさんを他所に、デシレアさんはレイアさんに鬱陶しそうな顔でクレームを告げた。

「レイアよー…

 気持ちは分からんでもないんだけど、あれ、正直暑苦しい上に邪魔くさい。

 やめさせてくれ」

 そういうと、くいっと顎で入り口付近の集団を指し示す。

 そこには、また綺麗に整列した男たちが、無駄に暑苦しい上に、タニアさんを見て陶酔したようなヤバい笑顔を浮かべる人、無事を安堵したのかむせび泣く人など、前回よりさらにカオス感が増量して揃って正座で鎮座していた。

「えー…?

 反省が足りないと思うんだけどなぁ………

 というか、私がやらせてるみたいに言わないでよぉ」

 心外だと腰に両手を当て、ぷんすかと訴えるレイアさんを意外そうに見るオレンジ姉さんは「じゃああれ誰がやらせてるんだ? アイリスさんか?」と聞くけれど、その言葉――というか人物の名前に過敏に反応したのは、身体を一斉に「びくぅっ!」と震えさせた正座メンズだった。


「………え。まじで?」

 そのあからさまな反応が、口よりも雄弁に語っているのを見て取り、デシレアさんは今ここにいない受付代表に畏怖とドン引きを感じたように呻いた。

 が、一応小娘一人にしてやられている現状が恥ずかしいのか――そりゃ恥ずかしいか――ひときわ大きな正座を繰り出しているギルドマスターは顔をあげ、そのデシレアさんの反応に抗議の意を示した。

「何を言うか! 我々は自らのふがいなさに、自身で臨みここに臨んでいるのであるっ! 見損なってくれるな!」

「へー。大の大人が、人の邪魔になりながら通り道に座り込みを行っていると、見損われないんだ」

「ぐはぁっ!」

 恥ずかしい大人でした。

 

 そんな大人には気にもかけず、デシレアさんはしかし困ったように眉根を寄せて、困り顔になる。

「しっかし当てが外れたなぁ。

 アイリスさんに、ソータローと組むのに丁度いい依頼見繕ってもらおうとしたんだけど」

 止めた方がいいですよ。最悪付いてくると言い出しかねません。

 そして、その言葉にはもう一名異議があった模様です。


 「デシ姉」と片手をあげ、意思を表明したのはエメラルド赤ずきん娘のニーアさん。

「ん?なんだよニーア」

 困ったような表情をそのまま崩さず、目だけニーアさんに向け、発言を促す。

「や。ツーか全然その子のこと説明してもらえてないんだけど?

 タニアを助けてくれた子なんだな、ってことはわかるけどさ。

 なんか、私たちの仕事に連れて行こうとしてるみたいだけど、どういう状況?」

 そう淡々と、ただ、若干楽しそうに話している様子から、責めている訳ではないようで。

 そんなニーアさんが告げた言葉に、朝食ドロボー(思い出した)は不思議そうな顔で返した。

「あれ? タニアの想いび「恩人! 恩人ですよデシレアさん!」…その恩人をうちのパーティに入れるって言ってたじゃん」

「何しれっと妄言吐いてんの。

 バッチリ聞いてないよ」

 それには呆れた顔でこき下ろす赤ずきん少女。


 しかし、正直ある程度予想していた事態でしたけど、やっぱりこのお姉さん、パーティメンバーに話を通さずに私のパーティ加入を決めていたみたいですね。

 まぁ、タニアさんの様子からしてその場で決めたような印象でしたから、意外ではないのですが、少々困ります。私も是非ともパーティに入れて欲しいという訳でもなく――いえ、先ほどのデシレアさんの説明で、ソロの危険性は把握したので、パーティ自体には参加したいとは思いますが、「ここでなくても」良いわけなので。

 むしろ、女性ばかりのパーティに若い男が入るのは、やはり少し具合が悪いのではないでしょうか?

 なので、少しでもパーティの中に、私の加入について気が向かない方がいらっしゃれば、即座に辞退を申し入れる構えだけ取っておきましょう。

「そうだっけ…?

 ていうか、なんだよ。ニーアは嫌なのか? ソータローが入るの」

「え? 誰もそんなこと言ってないじゃん。

 大歓迎だよ、こんな可愛い男の子だったとはさー。――やるじゃんタニア」

 そう言い、ひらひらと手を振って見せ、ニコニコとこちらを、というかタニアさんを見る赤ずきん少女。

 どうやらこの方は私の加入には好意的のようです。後、どうでもいいですが、ニーアさんへの私の好感度が減少したことをお伝えしておきます。

 それは兎も角、ニーアさんの言葉に「わ、私が何です!? まだ何もしてないです!」と、微妙に語るに落ちているようなことをわめくタニアさんを尻目に、オレンジ姉さんはレイアさんの方を向き、言外に「お前は?」と聞きます。

「んー? 私は初めからタニアちゃんの恩人を入れることは賛成だったよぉ?

 それに、それが昨日の可愛い『僕』だなんてすっごい嬉しいしー」

 また『僕』と言いましたね。特に止めてないんだからやめる訳もないですが、あなたへの好感度の低下は今や受付代表に次ぐ勢いですよ。

 ――というか、自分の好感度を考えている自分が、若干空しくなってきたので、もうやめましょう。


 ともあれこれでどうやら無事に全員分の了承を得られたようです。

 意見がまとまったところで、デシレアさんは「よーしっ」と意気揚々とした笑顔で、自パーティのメンバーの顔を見回した後、満足そうに大きく頷いた。

「それでこそ我ら『自由の空』だ!

 そう言ってくれると思ってたよ!」

 いえ。さっき「そうだっけ?」って思い切り言ってましたよ貴女。

 まぁ、ここでそんな野暮なことは言いっこなしでしょう。

 他でもない自分が迎え入れられるかという場面です。ただ、だからこそ今のうちに念を押すべきところは押しておくべきでもあります。いざ入ってみて「そうは思わなかった」というのは割と精神的にダメージを負いそうですからね。


 改めて一歩前に出て、確認作業に入ります。

「皆さん。こんな素性もわからない人間を受け容れて貰い、感謝の念に堪えません。

 ただ、私は見ての通り冒険者としてはまだ素人に近い人間です。

 間違いなく皆さんの足を引っ張ると思うので、断っておくのであれば、今のうちですよ?」

 そう、彼女たち一人一人の顔をみて、念を押す様に話します。

 その言葉には、直ぐにニーアさんが「いやいや」と手をフリフリしながら否定の意を示してきます。

「そもそも、君を入れるのは「恩返し」だからねー。

 多少こっちが面倒を見てあげる要素がないと意味ないでしょ」

 なるほど。まぁ、それは予想の範囲内の回答です。

 ただ、特にニーアさんやレイアさん等は、そういう意図を先ほど初めて知ったでしょうから、選択するタイミングを与えておきたかったので。

 とりあえずその問題については全員同意ということで承知しました。

 でもこちらはどうでしょう。

「わかりました。

 でも、それ以前に私は年若い男性です。もしかすると勘違いされているかもしれませんが、

 私は「18歳」です。おそらく皆さんとそう変わらないはずですよ」

 やっと言えた!

 感無量と言っていいでしょう。早いところこの年齢紹介を自然な形で行いたかったんです。

 自分から「自分18、18だから!」とムキになって伝えるのは、それこそ子供じみた印象を与えるので、ようやく伝えることができてとても嬉しいです。

 さて、それはそれとして、どうでしょう。

 今まではもしかして「年下の男の子」と思って接していたのかもしれませんが、先ほど言った通り私はおそらく彼女たちとそう年齢の差はないでしょう。タニアさんに至っては、血統書付きでお兄さん的年齢差です。


 そんな私に改めて警戒心が生まれたのではないでしょうか?

 でも、それはとても正常な女子としての警戒心だと思います。

 皆さん安心してください。今なら優しくさよならできる自信がありますよ。


「じゅう、はっさい?」「君が?」「はぁ………」「へー」

 

 ………。


 おいなんだその「背伸びしやがって」的な生暖かい視線は。

 いやいやいやいやいやいや。

 まさかの「信じない」パターンっ!

 馬鹿なっ! この迸る18歳感がなぜわからないっ!?


「いや、マジで18! 18だから! ちょっと良く見て!? なんでわからないっ!?」


【システムメッセージ:ご主人様。超ムキになって、子供じみた印象を与えています】


 知ってますけど!?

 こんな理不尽な場面に立ち会って冷静にふるまえというのは、中々の荒行ではないでしょうか。耐え抜いた暁にはなんかすごい必殺技とか覚えそうな感覚さえあります。

 

 そして、さらに状況は悪化し、レイアさんがもはや、生暖かいを通り越して「色々あったのね」という憐憫の情さえ浮かべてこちらを伺い「うん…そうだね。18歳なんだもん、ね?」と告げてきます。それ逆にもう信じる気ないだろ。


 その上、一向に納得しないデシレアさんパーティ一面は、こちらが一歩踏み込むと、一歩下がる始末。ここにきて深くて暗い溝が彼女達との間にできてしまった模様です。

 これは、しかし――

 もしかすると――そんな予感が私の頭脳を直撃します。

 ――まさかして、いままでショタキャラを乱用してきた副作用ではないでしょうか?

 やはり色んなものを犠牲にするアルティメットスキルだったのか………

 私はどうやら道を誤ってしまったようです。グッバイ18歳。


 そう絶望に浸る私に近づく暖かい影が一つ。

「まぁ、年はどうあれソータローのことはちゃんと喋ってみて、信頼できる相手だって思ってるから誘ってるんだぞ? 流石にメンバーの命を預かるリーダーとしては、下手な奴をただ恩人だから、ってだけでパーティに入れたりはしねーさ」

 そんなフォローを入れてくるのは、母性溢れる胸元が素敵なデシレアさん。

 あれ、なんか急に彼女が魅力的に見え始めましたよ。この胸の鼓動…もしかして。


【システムメッセージ:不整脈でしょうか】


 健康が損なわれているのかもしれません。

 いえ。損なわれていません。

 言うに事欠いて不整脈て。

 ――…いきなりしゃしゃり出て来て、何言い始めてるんですかマブダチさん。


【システムメッセージ:ラブコメが始まる予兆がありましたので、事前に芽を潰しておきました】


 何してくれてんの。

 まぁそれは冗談として、デシレアさんのフォローで少し持ち直したのは事実です。

 よし、大丈夫。もう優しく接することができるはず。やればできる子。

 

「私のどのあたりが信用に繋がったのかはわかりませんが…その気持ちはありがたく頂きますね。

 ――でも、出来れば年齢も信用して欲しいんですけど」

「またまたぁ」

 またまたぁ、じゃねぇよ。

 冗談でも、洒落でもないわ。心からの叫びであり魂の痛みだわ。

 一気に優しくできる自信がなくなってきました。

 ここは今後も粘り強い説得が必要なようです。自分の年齢に説得力がないと認めるような流れが、自分の心を痛めますが、もうちょっと頑張ってみます。

 ああ。そうそう。

 もう一つ確認しておくことがありました。

「最後にもう一つだけよろしいでしょうか?」

 少ししつこい印象をもたれ始めたかなと思い、遠慮がちに切り出す私に、デシレアさん含め四人とも、好意的な笑顔を向けてきます。

「何だよ、子供が遠慮すんなって。心配しなくても、ちゃんと聞いてやるから」

 優しく言って頂けるのはとてもありがたいですけど、それ、完全に「年下の男の子の我儘を聞くのはお姉さんの役目」的な立ち位置からの奴ですよね。特にタニアさん、なんで貴女そっちサイドよ。

「…ええと。私、見ての通り荒事向けの冒険者ではなくて、あまり評判のよくない収集系の冒険者を志しているので、それ以外の依頼についてはあまりお付き合いできないというか…」

 そう。

 彼女たちの簡単な自己紹介時に聞いたパーティ構成を見る限り、


 デシレア:ジョブ「トレジャーハンタ―」

 タニア:ジョブ「白魔法使い」

 ニーア:ジョブ「風系魔法使い」

 レイア:ジョブ「弓使い」

 

 といった、戦うことを前提とした内容なので、おそらく彼女たちは魔物を倒して報酬を得る、多くの冒険者と同じ討伐系冒険者なのでしょう。

 一方こちらは、行動指標として「命大事に」を掲げている、危険は避けたい収集系冒険者。

 基本的に依頼内容で共闘できることはあまりなさそうな組み合わせです。

 そもそもパーティを組んでも依頼はお手伝いできないのでは? という根本的な疑問を、彼女たち、特に私のパーティ加入の発案者であるデシレアさんやタニアさんは持っていないのだろうか。

「評判がよくないって。ああ。『職業童貞』とかいろいろ言われてるやつ?」

 そう苦笑するデシレアさんに、同意したいところですが、なぜ選りによってそれをチョイスしたんでしょう。めちゃくちゃ頷きにくいわ。

 さらに言うと「どう、てい?」と、意味が通じて無さそうな純真無垢なタニアさんの様子が居たたまれません。

 なので、不適切な発言者に、横から脇腹に強烈な肘鉄をお見舞いしたレイアさんを責めるつもりは全くありません。

「げほぉ!? な、なにすんだよレ」「子供の前で教育に悪いこと言わないでー? デシレア―?」

 そう言い二撃目の準備にかかる、笑顔の怖いレイアさんに、デシレアさんも流石に自嘲したのか「は、はい…ごめんなさい」と反省の意を表明した。

 明らかにタニア嬢と同じ子供枠に自分を入れられた感がありますが、それに反論するのも憚られる迫力です。

「え、えぇと、とにかくだ。

 ニーアも言ってたけど、これはソータローへの借りを返すって名目なんだから、どちらかというとお前の依頼を手伝う形にするさ。

 まぁ、とはいえ経験できるうちに討伐系も受けておいた方がいいとは思うけどな」

「あの。その「借り」というやつなんですけど。

 そんなに重く受け止めてもらわれると………」

 こちらも扱いに困ってしまうのですが。

 そんなことを言いかけた私に、「違う違う」と、ニーアさんが頭の後ろで腕を組みながら頭を振ってきます。

「そんなん、デシ姉ととタニアのこじつけだよ。

 ようは、単に、一緒にパーティがしたいってだけさ」

 そうあっけらかんに言ってきます。


 ぽかん、とするこちらに対し、タニアさんは「わ、わたしはほ、本当に恩を返したいと…! あ、いえ。それがなかったらパーティ組みたくないとかじゃ…っ」と混乱中であったり、「わはは。ばれたか」と開き直ってみたり、反応は色々ですが、特にニーアさんの言葉を否定するものではないようです。

 うーん。なんというか…

「ちょっとー。私を仲間外れにしないでよぉ。私だってアリマ君とパーティ組みたいんだからね?」

 ダメ押しとばかりに言ってくるレイアさん含め、何ともお人好しの揃ったパーティのようです。

 はっきり言って彼女等からすれば、私なんてちょっと会話しただけの人間であることには変わりないでしょう。

 昨日確かに私はタニアさんを助けたのかもしれませんが、その人物を命を預けるパーティメンバーに据えるというのは全く別のお話だということは、この世界ビギナーの私でも理解できます。

 ――単に、ソロで危なっかしい私を放って置けないのでしょう。

 これは、今時点では完全な足手纏いだとしても、わたしなりに貢献できることを早めに見つけないといけないようですね。


「………ありがとうございます。

 では」

 彼女たちの代表、デシレアさんに右手を差し出します。

 この世界でも「握手」は友好の証たるはずです。

「改めまして、短い間かもしれませんが、よろしくお願いします」

 そういう私に、少しだけ意表を突かれた顔をしたデシレアさんは、直ぐに満面の笑顔になり「堅っ苦しぃなぁお前は」と言いながら、握手に応え、ぶんぶんと振ってきます。痛い。

「こちらこそ! 短いなんて言わず、末永くのお付き合いのつもりで宜しくなっ!」

 え。いや。流石に末永くはキツイ…

「あー! 私も握手してよー!」

 戸惑う私を他所に、レイアさんがデシレアさんから奪う様にこちらの手を取りニギニギしてくるのを皮切りに「じゃあ、あたしもしないとかなぁ」「ちょ、何でタニアが最後です!?」と、次々暖かく迎えてくれる彼女たちに、本当に頑張らなければな、と逆に重いプレッシャーを背中に感じつつも、その重さが心地よいとも感じました。


==


「じゃあ、アイリスさんもいないし、ちょっと依頼見繕ってくるわ」

 そう言って、受付ではなく、依頼書が多数張り出されている、掲示板の方に駆け込んでいくパーティリーダーに、誰もついていかないところを見ると、こういう仕事の選定は意外なことに彼女に一任されているようだ。

 私に合わせるというなら、収集系の依頼になると思うけども、慣れてない依頼の選定で困ったりしないか少し気になりましたが、それでも自分よりはマシに決まっているという結論に至り、お言葉に甘え、待つことにした。


 その間「ねーね―タニアちゃん、彼女いるのとかもう聞いた?」「はぃ!? な、なんでそんなはしたない事を聞く必要があるんです!? いるんですか!?」「いや…わたしが聞いてるんだけど…」と姦しい彼女たちの会話をボンヤリ聞きながら、改めてパーティのことを考えることにしました。

 パーティと言っても、プレイヤーとしての「パーティ編成」システムの方の話です。

 テーマとしては、そちらでも彼女たちをパーティメンバーにするかどうか。

 すでにタニアさんをパーティメンバーに入れてそのままにしていますが、ステータスを勝手に覗き込めるという性質上、あまり褒められた行為ではないでしょう。

 とはいえ、合意を得ようにも彼女達にはこのシステムの存在自体を知らないわけで、その説明をどう言えばいいのか、という問題もありますし。

 やっぱりタニアさんのパーティ設定を外しておくか、という結論に至ったところで、デシレアさんが、何やら騒がしくなっていた掲示板の前から一枚の依頼書をぶんぶん振り回しながら戻ってきます。

 どうやら、依頼が決まったようですね。


「みんなー! やったぞ! マネーアントの討伐だぜっ!」


 …。

 …。

 …。


 さて。

 やっぱりソロの活動を検討することにしましょうかね。

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